06:ベースキャンプ
短めで申し訳ない。
額から流れ落ちた汗が、地面に跡を残す。
「はぁはぁ、重い」
バックは、中に入っている総重量が変わらないという仕様だ。そのせいでダオスは、成人女性一人分の重さを背負っており、魔力より先に体力が尽きそうになっていた。道中で、モンスターの皮を剥ぎその上にバックを置いて引きずるなど工夫をしてみたが、重い物は重いのだ。
開発者には、台車のようなバックの開発も視野に入れて貰おうと手紙を送るつもりでいた。
それから、幾度かの戦闘をこなして地下30階までやってきた。先客達がベースキャンプを作っており、簡素ながら村のようなものが出来上がっている。水場があり、モンスターという食料もあるので自給自足が可能な環境なのだ。
これだけ人がいれば、モンスター達も早々襲ってはこない。その為、ダオスも荷物を床に置き、腰を下ろした。達成感により疲れが一気に襲い掛かる。
物珍しいのか、キャンプの者達からダオスに注目が集まる。地下30階のこの泉のある場所に来ると言うことは、何が目的かは言わずとも知れている。だが、一人でいる事に懸念を感じているのだ。
『仲間を犠牲にして辿り着いた』『仲間がモンスターに!! 救助を……』『悪い。擦り付けだ』など考えれば幾らでもある。
抜き身の剣を持った柄の悪い者達がダオスの元にやってきた。ダオスは、装備を見る限り2級探索者若しくは3級探索者だと判断する。だが、囲まれても焦らない。なぜなら、探索者に一方的に付与される特殊条件のおかげで、剣などお飾りにも等しい。
『ダメージ反射』は、探索者同士の殺し合いにも当然適用されるのだ。
それに、このような事態も想定して、間接攻撃で殺される可能性が低い場所を選んでいる。休憩一つにしても、天井や壁などの周囲の状況把握は、『タワー・オブ・アダルト』に挑む者にとって当たり前の事なのだ。
「そこのおじさん。悪いけど、少し質問させてもらっていいかな? まさか、一人とは言わないよね?」
ギリギリ20代であるダオス。おじさん呼ばわりされる年齢ではあるが、初対面の人に対して礼儀を覚えるべき女性探索者である。若作りこそしているが、目元の皺と首元をみれば自ずと年齢は推察できる。ダオスをおじさん呼ばわりできる年齢ではない。
「そうだ。目的は、この泉だ。必要分を汲み終わり次第、立ち去る予定だ」
「そうなの……」
素直に質問に答えるだけでなく、すぐに立ち去るとまで回答してくる事に困惑していた。この手のパターンは、仲間が危ないんだといって少人数を人気のない場所まで連れて行き、追いはぎをするのが常套手段なのだ。
「……あぁ、お前さん。『ゴスペラーズ』の者だろう? 肌の露出が少なすぎる点とその仮面」
「え゛!? あのエスカロリオの仲間なのこいつ!?」
ダオスが付けている仮面。ファッションという事もあるが人が多い場所では当然の対策なのだ。どんな事故で異性と振れる事故が起きるとも限らない。
エスカロリオ・マーキス……この度、ダオスと一緒にお祝いをする天才的な魔道具の開発者だ。ダオスもまさかこの場でその名前を聞くとは思わなかったので、驚きを隠せない。ちなみに、ダオスが持っているバックのポケット・シェルターの開発にも携わっている超優秀な存在だ。
「あの頭のいい馬鹿と知り合いなのか?」
「知り合いも何も……アレの姉のシェリル・マーキスよ」
驚愕の事実にダオスも目を丸くする。
「女性の方から自己紹介させる事になってしまい申し訳ない。私は、ダオス・ベルトゥーフと申します。以後お見知りおきを。で、そちらのモヒカンとスキンヘッド男性ですが、お付き合いするならもう少し人を選んだ方が~」
「モヒカンって……地元じゃ最先端な髪型なんだがな。バーダック・マーキスだ。アレの兄だ」
ダオスは、先入観のあまりに血盟員の兄姉相手に失礼な働きをしたことに後悔した。探索者らしくお詫びを入れるべきだと考えた。
「これは、大変失礼しました。お詫びに、1杯ごちそうさせて頂きます。そちらの、スキンヘッドの男性も、もしかして……」
「いいや、俺はその二人と同じ血盟の仲間だ。しかし、"誓い"持ちか……馬鹿だろうアンタ」
知らない間に馬鹿という意味が変わったのではないかと首をかしげた。ダオスは、学院こそ通わなかったが、両親や祖父の元で十分な教育を受けている。その為、細かい計算などを扱う部署……例えば、国や商会などに即戦力で採用されるレベルだ。
それに、ダオスは国家資格持ちだ。
「2級文官資格を持っているので、馬鹿ではありませんよ」
「だったら、探索者じゃなくて文官やっておけよ!!」
スキンヘッドの男性がダオスの発言にツッコミを入れる。命の対価で稼ぐ探索者なんて職業より国家に努める文官の方が地位は高いし、女性にも人気がある。それも2級文官資格ともなれば、年に10数名しか合格者がでない難関試験だ。
「いや、国家機関って仮面禁止だし」
「いやいやいや、エスカロリオは国家機関で働いているだろう」
シェリルが仮面禁止に意義を唱えるのは無理もない。実の弟が国家機関に勤めているのだから。だが、何事にも例外は存在する。
「エスカロリオは、国家機関に勤める交換条件として仮面着用を法王様に直々にお願いして許可が下りた数少ない例ですよ」
「はぁ!? あの馬鹿は、法王様にそんな事を直訴したのか!?」
シェリルの顔が声とは反対に青くなっていく。『ハイトロン法国』のトップである法王様相手に、そんな事をいう馬鹿がいるとは縁を切りたいレベルだろう。歴史史上、3人目の蘇生魔法の使い手である法王様。噂では、ダオス達と同じく"誓い"持ちではないかと言われている。
「おちつけよシェリル。後であの馬鹿は絞めるとして、さっさとキャンプに戻るぞ。他の連中からの視線も痛いからな」
「分かった。で、ダオスだっけ? 何かの縁だ、その仮面付けたままでイイから来なよ。うちの連中が汲んできた水を分けてやるよ」
「有り難いですが、よろしいのですか? 幾ら、エスカロリオの知り合いだからといって問題が起こりかねませんよ」
「手間賃くらいは、貰うけどな」
そうですよねと言いつつダオスはシェリル達の後をついて行った。
うーーん、登場人物を増やしたく無い作者がここに居るけど…どうしても増えてしまう。
やはり、登場人物や魔法、血盟などを纏めた方が良いと思い「00:設定」でも作ろうと計画中です。