05:ハーフ
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無慈悲なダオスを前に彼女達が取れる行動は少なかった。生きるために最高の札を出さざる終えない状況に追い込まれていたのだ。
「"奴隷"の契約魔法を使うわ。それで見逃してください」
「この私の支配下に置かれると、いやいや20代前後の女性がそんな簡単に"奴隷"の契約魔法なんて安易な考えは、よくありませんよ」
女性しか使えない契約魔法の一つである"奴隷"。文字通り、相手に全てを捧げる魔法だ。死ねと言われれば死ぬし、抱かれろと言えば抱かれる。人権無視も甚だしい魔法だ。その為、余程のことが無い限り女性からこの契約魔法が持ち出されることはない。
だから、そこまでの覚悟を見せられたダオスは一考することにした。だが、重要な事にダオスは気がついた。彼女は、"沈黙"に掛かった状態であるため魔法が使えないのだ。
尤も、"奴隷"の契約魔法を結んだとしても「自害しろ」と命じる気でいた。
「話にならんな。そもそも、貴様等に掛けた"沈黙"は、数時間は効力が残るだろう。契約魔法など、無理な話だ……そろそろ、持ち時間の終了だ。じゃあな」
「まって!! まだ」
パイロンスネークが丸呑みにした。強力な胃液でじっくり溶けて死ぬだろう。
その間、ハイゴブリンは、恐慌状態に陥った女性を持ち帰ろうとしている。使用用途は、繁殖の為の苗床だ。本来なら、この場にいる彼女達を全員持ち帰りたいと考えているが、欲を出せば他のモンスターと取り合いになる。その為、一人で我慢する気なのだ。実に謙虚なモンスターだ。
そして、早く最後の一人を処理してくれないかなとモンスター達から視線がダオスに集まる。
「君が最後の一人だね。持ち時間は特別に40秒あげよう」
「アール・メルシェル……ハーフよ。"奴隷"の契約魔法を結ぶから見逃して欲しい」
「ハーフだと!?」
ハーフと聞いてダオスも驚いた。ハーフが意味するのは、一つだ。人型モンスターとの混血を意味する。ただですら市場に出回っている人型モンスターの数は少ない。それに、所有者と言えば大体が大物だ。
加えて、アール・メルシェルの容姿は悪くない。遺伝子がしっかりと仕事をするおかげで、美男美女揃いの人型モンスターから生まれた存在であっても、子供が美男美女という可能性はあまりないのだ。よって、ハーフにも関わらず容姿が整っている存在は、それなりに価値がある。
だが、ダオスはメルシェル家という家名は聞いた事がなかった。人型モンスターを買えるくらいならば、一度は聞いた事がある名前のはずだがと思い首をかしげた。
家名を偽る必要がある。そういった身分の可能性にダオスが感づいたのだ。
「何所の家の者だ? 場合によっては見逃すことも考慮する」
殺す気ではあったが、ハーフとなれば手を出しにくい。国内の豪商や権力者などの所有物であった場合に問題が発生するからだ。それに、最悪の場合、『ゴスペラーズ』の血盟員の身内の可能性も出てくる。
「レイレナード家」
アールが口にしたレイレナード家は、ダオスも知っていた。豪商として、『ハイトロン法国』に名を馳せている。それにより、アールの処遇が確定する。血盟員の商売敵の家でもある。よって、縁もゆかりもない者なら殺しても何の憂いもない。加えて全ての罪は、『メイデン』とアール本人にあるのだ。殺したとしても、いかようにも取り繕える。
「首は、レイレナード家に届けてやる」
「なんでよ!? 自分で言うのもアレだけど私を売れば、人生遊んで暮らせるわよ」
「この私にモンスターを擦り付けて、知らぬ存ぜぬと言う顔でやり過ごそうとした魂胆が気にくわない。確かに、金も惜しい……だがな、金より大事な物が世の中にはある」
ダオスの祖父の手帳には、『一度ある事は二度ある』など名言が書かれている。今回のような巡り合わせがあったなら、次の可能性もある。よって、次に捕獲すれば良いのだ。
「待って待って!! 私は、回復魔法や索敵魔法も使えるわ。望むのなら当然、いつでも喜んで抱かれるから」
「後者はともかく、前者は魅力的だな」
アールが険しい顔をする。親譲りの自慢のスタイルを全く期待できないとダオスに言われたも同然なのだ。現在、力関係上大人しくしているが、平時の彼女ならばダオスに殴り掛かっていただろう。
「なら!!」
「アールといったか、貴様が居ない方がメリットが大きいのでね」
「どうしてよ!? "奴隷"の契約魔法は絶対よ。探索者なら理解しているでしょう」
声を荒立てて自らの有用性を戦闘から夜のサポートまで対応するとアピールする。更に、ハーフである為、持っているだけで他に自慢もできるし、資産価値が高いと必死の宣伝が行われる。
だが、"沈黙"が解ければ契約魔法以外も使用できるのだ。その危険性を孕んでいる以上、ダオスにとってこのアールの提案に乗る事はありえない。
「悪いが、"誓い(ちかい)"持ちでね。異性が側に居る方が危険なのだ」
ダオスは、自らの舌に刻まれている紋章を見せた。"誓い(ちかい)"持ちは、その肉体のいずえかに紋章が刻まれる。ダオスの場合は、舌に刻まれている。
「お願いよ。死にたくないの」
アールは、自分達がダオスにモンスターを押しつけるという殺人紛いな事をしておいて自分は死にたくないと支離滅裂な事を言っている。ダオスは、知っている。こういう風に生に執着する者は危険だと。今でこそ、"奴隷"の契約魔法でその身を差し出すと言っているが、好機を待つタイプだと。
ハーフという存在は、人型モンスター同様に管理されている。希少価値故の事だ。よって、このような場所にハーフがウロウロしているなど通常あり得ない。アールは、自らの境遇をアピールして『メイデン』に取り入り、レイレナード家から救い出させたのだ。
「私だって死にたくないよ。だから、お前を殺すんだ」
だが、ダオスも人である故に、若干気の毒に思う。これから死ぬであろうアールが"混乱"の状態異常魔法すら掛けていないのに混乱しているのだから、余程精神に来ているのだろう。
「珍しいハーフを見せて貰ったお礼だ。せめて、綺麗な状態で殺してやろう……"衰弱"」
「いやああぁぁ。おね……がいし……ます……たす……ぇ」
アールが動かなくなり、時間をおいて小石が投げつけられる。『ダメージ反射』が無い事から死体である確証が得られる。
死体から金になりそうな物を物色し始めた。ダオスにとって、異性である女性の身ぐるみを剥がすという行為は、紙の無いトイレでウンコをする程危険な行為なのだ。厚手の手袋があるとは言え、万が一胸を鷲づかみにしたらダオスが死んでしまうのだ。
"誓い"持ちも長い時の中でドコまでが許されるのか、ある程度、把握されつつある。厚手の手袋をした状態で、異性と手を握る行為まではセーフなのだ。それ以上の実験は、命がけでもある為、なかなか試す者がいない……試せる者も少ないのだ。
ダオスが物色を終えて金目の物を壁の中に埋めた。今回の目的は、水であるため可能な限り荷物は軽くしたいと考えた。壁の中にしまっておけば、間違っても他の探索者がピンポイントで掘り返さない限り発見する事はできない。
「さて……モンスター諸君もご苦労だったな。君達もこれで用なしだ」
ダオスは、一度自分を襲ってきたモンスターに慈悲など与えない。利用するだけ利用して殺す。この場への道案内もあったので生かしていたに過ぎないのだ。
だが、それはモンスター達とて同じ思いでいた。隙あらば、ダオスを殺す気でいたのだ。しかし、常に一定の距離を保ち完璧に"麻痺"で動きを止めるダオスに油断はなかった。
ダオスは残るモンスターを処理しつつ、彼女達の死体に目を向けた。一人は、恐慌状態に陥っては居るがギリギリ息はしている。だから、その手に刃物を持たせてあげた。長く苦しい悪夢から自らを開放する救いの手を差し伸べたのだ。
圧倒的な慈悲を与えるために、ダオスは更に"恐怖"を重ね掛けする。程なくして、唯一生存していた者から血があふれ出て心肺が停止した。
「――さて、ハーフの死体か。確か、あいつの魔法に最適か」
仲間の喜ぶ顔とコレを運ぶ労力を比較する。だが、仲間思いのダオスにとって、決断に要する時間はさほど必要なかった。
死体を持ち帰る!! だが、ナマモノである為、涼しいダンジョン内部だとはいえ長持ちしないだろう。
そして、ハーフの死体をカバンに詰めた。
ダオスの優しさは、きっと世界を救う!!
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