03:血盟員
タワー地下18階にて、小休憩を取っているダオス。最後に人とすれ違ったのが二日前という事もあり、たき火に当たるその背中は寂しさが滲んでいる。たき火の材料とされているウッドペッパーという植物系モンスターにすら話し掛けるほどだ。
この様子をみれば、例え近くに人が居たとしても話しかける者はいないだろう。常人が見れば、間違いなく危険人物としてダオスをカテゴライズする。
「もうすぐ三回忌なんだ。あれから、誰も減っていないけど~12人も居た創設メンバーが今や9人。新人も全然増えないんだ」
ダオスは、三年前に不慮の事故で亡くなった血盟主を思い出し、悲しみに暮れていた。前盟主は、人格者であり、仲間からも人望が厚い老年の紳士だった。ダオスも、よく相談に乗って貰い、探索者のノウハウも教えて貰ったほどだ。
ダオスが所属する血盟……『ゴスペラーズ』。設立当初は総勢12名も在籍していた。だが、一人また一人と事故死していった。最年長で64歳の元血盟主は、その有り余る能力で溜め込んだお金で私設孤児院の院長をやっていた。だが、在るとき不幸が起こったのだ。64歳の誕生日を孤児院の子供達が祝ってくれた際に、女の子が血盟主の頬……素肌にキスをしたのだ。
これにより、即死した。タブーとされている『異性との肉体的接触』に抵触したのだ。
『ハイトロン法国』で5本の指に数えられていた実力者であったのだが、年端もいかない幼女に倒されるという事態だ。国葬という形で行われた葬式では、諸外国の者達があまりにも恥ずかしい死に方だったので笑いを堪えるために、指をへし折ったと有名な逸話も残した。
ダオスは、葬式の会場で指を3本へし折っている。
その後、血盟の約束事を元に死者の遺産が山分けされた。前盟主の私設孤児院を好き好んで引き継ぐ輩はおらず程なくして潰れた。孤児院の子供達が今は何所で何をしているか知る者は誰もいない。
「◆◆◆◆◆◆◆!!」
思いふけるダオスに訴えかけるようにモンスターが悲鳴を上げた。
たき火の材料にされているモンスターは死んではいない。ダオスの状態異常魔法により、動きが止められているのだ。モンスターを生きたまま燃やす理由は簡単だ……その方が長く燃えるのだ。ダンジョンでの豆知識だ。
だが、常識的に考えれば……こんなやり方をする者はダオス以外にはいない。『ダメージ反射』という環境下でモンスターを生きて火あぶりなど狂気の沙汰だ。だが、"麻痺"で松明を持たせて自滅させるという方法を使うことでこのような芸当も可能になる。
モンスターの自己回復能力と燃えさかる火が良い案配で調和する。
「―寒い。もっと、燃えろよ」
「■・・▲○……」
既に二時間苦しみもがき続けて、ダオスの身体を温めていたモンスターにエールを送るが……その甲斐も無く、モンスターの命が尽きた。
植物系モンスターは、香水などの原料とされる事も多く。お金になるモンスターに数えられる。無論、薪としても優秀だ。炭にも消臭効果がある。ダオスが使えそうな残骸だけを壁際に集めた。明日、冷えたタイミングでバックにしまうのだ。
「20時か……」
時計を確認し、行動指針を決める。夜間の行動は危険。そして、寝る事に決めた。
ダオスの今回の目的は、地下30階にある湧き水だ。今や、長い年月が経過したおかげで泉と呼んでも差し支えないほどになっている。なぜ、ソレが目的かというと……その湧き水は言い表すことが出来ない程に美味しい。喉が渇いている時に水を飲めば誰でもうまいと思う。だが、そういう次元ではないのだ。水を飲んで、勘当して涙が出る程なのだ。
一時期は、銀と等価交換される程の品物だった。今でこそ値段は落ち着いたが、それでも湧き水だけを収入源として稼いでいる探索者も居るほどだ。そして、ダオスがそんなお財布にも美味しいお水をわざわざ取りに来るのには深いわけがある。
「誕生日まで後15日……間に合うな。だが、まだ死ぬなよ」
そう!! 誕生日を祝う会で使うのだ。誰の誕生日を祝うかと言えば、ダオス自身と同月誕生日の血盟員二人を祝う会だ。他のメンバーも各々、プレゼントを用意するため今頃動いているだろう。
この湧き水は、ダンジョンの外でも金さえ積めば購入できる。だが、気持ちの問題でダオスは自ら足を運んでいるのだ。それに、汲みたての湧き水を振る舞いたいという細やかな気遣いなのだ。
だが、ダオスは不安でたまらなかった。ダオスと同月誕生日の者……プレゼントを用意しているだろう一人が……不老不死を手に入れるために、寿命の7割を捧げた頭が可笑しい女性ドワーフだからだ。コレにより、制約と寿命以外では決して死なない存在になったのだ。ドワーフの平均寿命は150歳と言われているが、ダオスと同じく今月で30歳を迎えるため、危ない年齢に達しているのだ。
そのドワーフ……ドワーフが統治する『ギャランドゥ』という国の第24王女なのだ。悪い意味で、『ギャランドゥ』の頭が可笑しい代表となっている。ドワーフらしく鍛冶の腕は、まごうこと無く一級品なんだが、残念な女性だ。
「いいや、殺しても死にそうにないし大丈夫か。それよりも、あっちの方が不安だ。頭のいい馬鹿だからな……」
更に、もう一人の同月誕生日で同じく30歳を迎える血盟員。『ハイトロン法国』のトップである法王様へ数々の魔道具を献上し、要注意人物としてブラックリストに名を連ねている研究者だ。ダオスが尊敬する祖父と非常に仲が良い者で同郷の存在だ。
ダオスが一番新しい記憶を思い起こす。「各国の要人が集まる場では、参加者全員の完璧なボディーチェックは難しい。そこで!! この私が開発した服だけ透ける眼鏡があれば、どんな参加者も丸裸にできる!!」と、嬉しそうに法王様に献上しに行って……三日間帰ってこなかった。
「……問題児しかいない世代か。私がしっかり手綱を握らないと」
改めて決意を固めた。ダオスは、高確率で次にこの二人のどちらかが死にそうだと感じる。日常的な行動から考えても、疑う余地はない。
「それに抜けた穴を埋める次代の血盟員の勧誘も若い私達の仕事なんだがな……」
当然、『ゴスペラーズ』も減った血盟員を補充するために、勧誘活動をしているが成果はでていない。"誓い"持ちという希有な条件を満たしている者なんてそこら辺に転がってはいない。人為的に、"誓い"持ちを作ろうにも本人が望まないといけないという条件が壁となり厳しい。オマケに儀式魔法の触媒となる一級モンスター……邪竜ネセサリウスの逆鱗が滅多に市場に出回らない。
ダオスは祖父の手助けもあり触媒を手に入れた。その他の者達も似たり寄ったりの境遇だ。
「何はともあれ寝よう……"防御力低下"」
壁の耐久度が激減し一部が崩れ落ちた。そして、ダオスがその崩れ落ちた窪み入り込み横になる。竹筒を口に当てて通路の方へと伸ばす。
ダンジョンは、壊れても復元する。それの応用だ。これをやると壁に取り込まれてしまい身動きが取れなくなる。まさに、壁と一体化するやり方だ。窒息死を回避するために空洞化している竹筒が通路まで延びるようにしている。
壁の復元が始まり元通りになった。壁から竹筒だけが伸びている。これぞ、ダオスの迷宮生活術だ。攻撃魔法でも同じ事は可能だが、出る際は自爆してしまう。状態異常魔法が得意な者でなければ同じ事は難しいだろう。
まだ、ストックはある><
今週いっぱいは同じ時間に投稿予定です。