30:戦いに卑怯も糞もない
23時に位に予約投稿をいつもしているけど、もうちょっと余裕を見て行動できないのかと作者自身に言いたくなる><
学院内でテロリストを確保出来なかったダオス達は、戦力を分散して地下用水路の各所で待ち伏せしていた。
テロリストが逃げ込める先など多くは無い。先進国と言っても過言で無い『ハイトロン法国』では、タワー同様に公的機関の利用には身分証が必要となる。よって、亡国の王族にして、現テロリストである者の隠れ先は、このシステムにより多くが排除される。
身分証を必要としない場所は、犯罪者達が集まるダークな場所では無く、法律のグレーゾーンな部分を用いて商売しているところなのだ。自称XX歳の娼婦を斡旋したり、合法(笑)の薬を販売していたり、法定金利?なにそれ的な金融業者だったり、そんなお店なのだ。叩けば埃がでるお店は、情報に機敏である。テロリストを客として扱えば、即座にガサ入れされる為、入店拒否どころか喜んで犯罪者を突き出す。
よって、ダオス達は表社会では無く裏社会に向かったと決定づけていた。
「自己紹介は不要のようだな。さて、テロリスト諸君。言い残す事は、あるかね?」
「学院側が提示した報酬額の倍……エース金貨400枚支払おう。この場で何も見なかった事にするだけで構わない」
テロリストの主格であるアインバッハは、ダオスが学院側の依頼で自分達を確保しに来た事を知っていた。学院講師の一人を買収しており、逃亡する際に情報を仕入れていたのだ。
エース金貨400枚というのは決して安くない。特に、テロリスト達にしてみれば、大事な軍資金だが、昨今話題のダオスと正面切ってやり合うのは面倒だと考えたのだ。テロリスト達は、無傷とは言えないがダオスに負ける事は無いと考えている。実力のある護衛二人に加え、自らも腕に覚えがあれば、当然だ。
「どうやら、貴様等は理解していないようだな。私が、金欲しさにここまで追いかけてきたと思っているとは」
「ダオス・ベルトゥーフさん。私達は、『リネックス』では一級探索者の方にも引けは取らない実力を有していると太鼓判を押されています。素直に、見なかった事にしませんか。お互いの為にも」
「アインバッハ様含め、私達は抗魔クリスタルをかなりの数を所持しております。如何に、貴方の状態異常魔法とはいえ、完全に破壊し尽くすまでに私達を倒せますか」
テロリストの護衛は、自らが身に着けている抗魔クリスタルをダオスに見せた。言葉に偽りなく、指輪からネックレスにいたる装飾品全てが最高純度の抗魔クリスタルだ。腐っても、国外にいる王族を守る者達という事だ。万全な準備が成されている。これこそが、ダオスに負けないと考える要因だ。
だが、ダオスは、特に焦る様子は無かった。
理由は簡単だ。ダオスも全くもって負ける気がしないからだ。探索者としてのランクは、戦力としての目安としては活用できるだろう。だが、絶対的な物ではない。
「残念だが、この私が貴様等に譲歩する事はあり得ない。貴様等は、私の大事な妹に怪我をさせた。それが、どれだけ重い罪か……もはや、死を持って償う他ない」
「妹? 悪いが、人違いだろう。生まれてこの方、女性に手を上げた事はない」
アインバッハの発言にダオスの怒りのボルテージが上昇した。
テロリスト達にとって、サクラは女性に分類されていない。生徒と講師という、職業で分類されており、サクラは異性として判断していない。無自覚とはいえ、火に油を注ぐ勢いでダオスの怒りのボルテージが増していく。
ダオスは、時間を稼ぎ仲間の到着を待ち、包囲殲滅するという作戦を今の一言で忘れてしまった。よって、自ら戦端を切る事を躊躇しなかった。
「面白い冗談を言うガキ共だ。国立メトロノーム学院の実技担当のサクラ・アインハザード。旧姓は、サクラ・ベルトゥーフ――私の妹だ」
ダオスの一言で、テロリスト達は目を見開いた。
手を上げた事がないと発言した瞬間、それを完全否定される事実を口にされたのだ。しかも、被害者の実の兄が登場してしまうとは誰が予想できようか。
更にいえば、こういう手合いが面倒なのは、アインバッハの護衛達はよく知っている。身内の為なら死すら厭わない。実力も兼ね備えた者であればあるほど、危険度は跳ね上がる。
この時、サクラを攻撃したアインバッハの護衛達は、言葉を迷っていた。
殺す気で攻撃したのだ。恐らく、死んでいないと考えていたが確証は持っていない。主人であるアインバッハには、「目が覚めて追ってくるかも」とは言っているが、それは主人に心の負担を掛けないための方便に過ぎない。
護衛の鑑であるかのような行動ではあるが、嘘がばれた際の反動は大きい。
「それは……申し訳ない事をした。二人も謝れ」
「申し訳ありません。このお詫びは、必ず」
「済みませんでした」
アインバッハ達が揃って頭を下げた。
誠心誠意持って謝罪を行えば、許される事もあるだろう。だが、アインバッハ達は逃亡するために、故意にサクラを殺害しようとしている。コレが許されるならば、世の中の犯罪という定義が大きく崩れる。
何事にも限度という物がある。だからこそ、ダオスも「死を持って償う他ない」と明言している。にも拘わらず、頭を下げてダオスを視界から消すという愚行を行ったのだ。アインバッハの護衛達は、「主人の命令」と「被害者の実兄の気持ち」を考慮し頭を下げてしまったのだ。
この絶好の好機を、実戦経験豊富のダオスが逃す筈が無い。
「"沈黙"」
ダオスが魔法を発動させると同時に、周囲の音が全てかき消された。ダオスの視界に映る建造物に対して、状態異常魔法が行使されたのだ。自身のバッドステータスを無効化する抗魔クリスタルが反応し砕ける事は無い為、アインバッハの護衛達の反応が遅れる。
音が消えたという異常事態に慣れている者など滅多にいない。それこそ、ダオスと良く模擬戦をする中でも無い限り、この手のやり口には対処できないのが普通なのだ。
誰しもが、状況の把握に時間を要する。
ダオスは、背中に隠し持っていた三日月刀を手に持ちアインバッハを真っ二つにすべく駆け寄った。テロリスト達が顔を見合わせる最中、ダオスが力任せに三日月刀を振るった。
殺し合いに卑怯も糞も無い。
そもそも、人数も探索者としてのランクも上の連中に一人でダオスが挑むのだ。加えて言えば、サクラに対して不意打ちを実行しておいて、相手にはそれを許さないなど、あり得ないのだ。
「アインバッハ様!!」
咄嗟に護衛の一人がアインバッハを突き飛ばした。
ダオスの事を警戒しており、頭を下げはしたが影で動きを察したのだ。その判断は、決して悪くない。だが、ダオスの計算通りの動きである事を除けば。
三対一という不利な状況を覆すには、先手を取って数を減らすのがベターな方法だ。しかも、戦闘力が高い者を葬れるのが理想的だ。だからこそ、護衛が絶対に守る必要のある存在を狙ったのだ。
ズルリと護衛の両腕がすっぱりと切断され、薄汚れた地面に腕が落ちた。ダオスのターンは、コレだけでは終わらない。回復魔法という便利な物がある限り、戦線復帰される可能性は否定出来ない。ダオスは、懐から強酸が入った瓶を取り出し、切り落とした腕をしっかりと処理した。
「まずは、一人」
「ぎゃあ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! "火炎"!! ぐぐあぁぁぁぁっっっ!!」
両腕を切り落とされた激痛を耐えつつ、自らの切り口を焼いて塞ぐアインバッハの護衛。
ダオスは、女ながらその根性に心の中で称賛した。大の大人でも、出血を防ぐ為に焼いて塞ぐなど狂気の沙汰だと理解している。この時ばかりは、ダオスの予想を上回った護衛である。
だが、ダオスは、そんな弱った相手にも全力を出す。ダオスが追い打ちでトドメを刺すために放った一撃がもう1人の護衛によって遮られた。
「ぐっ!! アインバッハ様は、イーリアに回復魔法を!! その間は、私が抑えます」
「"忘却"、"快楽"、"痛み"、"睡眠"、"遅延"……」
ダオスは、護衛とやり合いながらも状態異常魔法を連続で発動する。この時、ダオスの装備が法天エンプレスならば、相手の抗魔クリスタルを続々と砕いていっただろう。しかし、近接戦闘において杖は、相手に対して決定打になりにくい。
よって、幾分か質は落ちるが、ダオスは昔使っていた指輪型の魔法触媒を身に着けているのだ。戦闘の邪魔にもならないし、手も塞がらないという実に理想的なものといえよう。
パリンパリンと戦いの最中、護衛の抗魔クリスタルが砕け散っていく。簡単な事だ……全部砕くまで状態異常魔法を続けるだけなのだ。その間もダオスは、相手を殺すべく手を全く緩めない。タワー内では、ダオス自身の近接戦闘能力を披露する機会は無いが、無駄に鍛え上げている肉体は伊達じゃ無い。
強化魔法で身体的なポテンシャルを上昇させられないダオスは、相手を同じ土俵に引きずり下ろす事で対等以上にやり合えるのだ。無論、相手を引きずり下ろすまでにやられてしまう可能性もあるが、ダオスは手合わせして確信していた。強化魔法や近接戦闘が得意な護衛では無い事を。よって、攻め続けているのだ。
地下用水路の中を金属同士がぶつかり合う音が響く。人気無いこの場所では、実に良い目印となる。
「っ!! "嵐槍"」
「"魔力減衰"」
相手の魔法に会わせたダオスも魔法を発動する。同時にダオスが相殺する。
不意打ちとは言え、サクラの防御魔法を貫ける存在相手に魔法を警戒しない程ダオスは愚かでは無い。寧ろ、近接戦闘が不得手の時点で魔法が得意という事は考えるに容易い。
「この筋肉馬鹿が!!」
「……引き際だな。"暗闇"」
ダオスは、後方で回復魔法により戦意を取り戻したテロリスト達を確認し、視覚範囲全体に状態異常魔法を掛けた。これにより、暗闇に紛れて逃亡を図るのだ。まずは、致命的なダメージを与えた。加えて、幾つもの抗魔クリスタルの破壊に成功した。初手の成果としては十分であったのだ。
◇◇◇
アインバッハの護衛であるミッシェルとイーリア。
ダオスと直接戦闘を行ったミッシェルは、焦っていた。ミッシェルは、『ゴスペラーズ』と『メイデン』の血盟戦を観戦しており、その際に購入したガイドブックに載っていたダオスの情報では、状態異常魔法を得意とする魔法使いと書かれていた。
その事実は間違っていない。魔法も得意であるだけなのだ。無駄に鍛えられた肉体が魔法のためだけにあるはずが無い。
「アインバッハ様。どうやら、索敵魔法の範囲外まで撤退したようです。……イーリアの両腕はやはり」
ミッシェルがアインバッハが抱えている切り落とされた両腕を見た。強酸のおかげで、既にボロボロになっている。よほど、回復魔法に特化した者でも居ない限り、治す事は困難である。
「残念だがな。私に出来る事は、痛みを和らげる程度だ」
「大丈夫ですわ。ミッシェルの支援ならば腕が無くても出来ます。それより、『ジェネシス』がいる場所に向かいましょう。そこなら、相手も襲ってこれないはず」
裏社会を牛耳る『ジェネシス』の拠点で暴れられる実力者は早々いない。魔法を使ったり、武器を抜いたりしたら、それこそ全面戦争になる。真っ当な神経の持ち主なら、そんな事をする者などいないだろう。
「分かった。もし、また襲ってきたなら私も一緒に戦おう。二人ほどでは無いが、学生レベルじゃ私も優等生だ。足しにはなるだろう。さぁ、肩に捕まれ」
イーリアが、アインバッハの肩を借りて歩む。
女に肩を貸す紳士なのは良いが、足下を疎かにしてはいけない。地下用水路……当然の事だが、Gの名の付く虫などの死骸は山ほどある。そして、『ゴスペラーズ』には、死霊魔法を使う希少な使い手が居るのだ。"誓い"というオマケ持ちで。
【良かった良かった。ダオスに全部持って行かれる所だった】
アインバッハ達は、周囲を見渡したが人影一つ無いことに驚きを隠せない。人は居ないが、近くから声だけは聞こえてくる。索敵魔法にも感知されていないのだから、驚きは増大するばかりであった。
だが、当然だ。虫や獣の死体に人の声帯を無理矢理のせてしゃべらせているに過ぎないのだ。『ハイトロン法国』の天災は、伊達じゃ無い。狂気のマッドサイエンティストと言い換えた方が良いだろう。非人道的な実験など朝飯前の研究所の所長なのだ。
「イーリア!! 右足!!」
両腕を失ったイーリアは、触覚が一部麻痺していた。あまりにも、激痛が走る箇所がある為、他の部位の感覚が虚ろとなっていたのだ。そこに漬け込み、エスカロリオが使役する複合生命体がへばり付いているのだ。
無論、一匹などでは無い。
【局地戦用の最新モデルだ。通信機能も備えており、便利だろう。そして、敵に捕らえられたとしても、このように自爆機能も備えている】
その瞬間、イーリアの右足が爆発と共に消し飛んだ。
次話は、一人ずつ確実に戦闘不能にしていく。
だが、絶対に殺さないぞ!! 医術にも精通しているダオスの拷問が待っている。殺してくれと泣いて懇願しても決して許さない。徹底的に潰す。




