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正道こそ王道  作者: マスター
01.血盟戦
18/66

17:決着

 戦争は、数が勝負だ。これは間違いなく事実である。


 だが、血盟戦において、『メイデン』が『ゴスペラーズ』と拮抗する為には、150名程度では足りていない。13使徒という一騎当千にも等しい戦力が要る以上、その50倍の人数は必要だ。


 よって、着々と『メイデン』の者達が確保されていった。『ゴスペラーズ』のスタート地点では100名を超える者達が囚われの身になっている。負傷した『メイデン』の者達は、手厚い扱いを受けている。敗者にも、紳士的な振る舞いを忘れないその行いは、司会者によって大々的に伝えられ『ゴスペラーズ』に称賛が送られる。


 事実は、商品価値を落とさない配慮であるが、ものは言いようだ。


 治療と並行して、美の探求者であるステラが自らが欲した商品から部位を切除している。切除された部位は、腐敗処理が行われた後にガラスケースに収められる。そんな光景を目の前で見せられては、『メイデン』の者達が逃亡を図ろうとするが、行く手を阻む障壁の前に脱出する事は不可能に近い。


 13使徒の一人で法王の最強の盾とまで言われている【水晶】のフローレンシアがその場におり、隔離されているのだ。彼女は、『ゴスペラーズ』の非戦闘員を守る役と商品(メイデン)を閉じ込める役を引き受けているのだ。


「そろそろ、終わりかしらね」


「当然の結果ね。あちら以上に私達13使徒は敗北が許されませんから、一安心です」


 万が一、『ゴスペラーズ』が敗北して13使徒の5名が『メイデン』の手に落ちた場合、大惨事になるのだ。法王がこの場にいるのは当然観戦の為でもあるが、『ゴスペラーズ』の敗北という事態のために備えている。


 法王率いる13使徒の8名が『メイデン』という存在を抹消する事になっているのだ。国家転覆が可能な戦力を一血盟が有するなど許されない。勝っても負けても『メイデン』に未来などない。


 『ゴスペラーズ』血盟主であるテルミドールが法王をこの場に呼んだ理由でもある。


◇◇◇


 視界不良のこの戦場は、ダオスにとって精神衛生上よろしくない。


 30歳という節目の年を迎えたダオスとはいえ、状態異常魔法は基本的に対象の目視が必要だ。映像越しにも行使可能になったとはいえ、その映像に肝心の対象が映っていないとなれば、自力で探すしかない。


「嫌な予感がする」


 スタート地点を出発して、樹海の奥へと歩みを進めていたダオスは足を止めている。隠れやすい地形に加え、探索者としての勘が危険だと伝えているのだ。それに、僅かだが糞の臭いが漂っているのだ。


 それらを統合して考えると、この周辺に『メイデン』の者が潜んでいるという結論に至る。


 ダオスは、法天エンプレスに魔力をかよわす。ここに居る『ゴスペラーズ』は、ダオス一人。自衛するだけの魔力は残しておく必要がある。よって、詠唱する事により効率を上げる。


「血肉を喰らい蝕み、敵を滅ぼす力を与えたまえ――"猛毒(デットリー・ポイズン)"」 


 ダオスの眼前広がる草木から毒々しい紫色の液体がにじみ出した。


 状態異常魔法の中でもトップクラスのダメージリソースを誇る魔法だ。草木がボロボロになり、何年も酸性雨に晒されたような姿に早変わりした。


『ちょっと、ダオス選手!! この樹海は、『ハイトロン法国』の国有地なんですが……』


 司会者の発言に、ダオスは何も問題は無いと思った。この場所を申請したのは、『メイデン』だ。それに、13使徒達がこの場で暴れることも分かっていて、法王庁は許可を出したはず、ならば、この程度の被害は許されるべきなのだ。


「状態異常魔法に限れば、本当に凄まじい才能だ。ダオス・ベルトゥーフ。ここで……」


 隠れていたと思われる『メイデン』の者達数名が苦痛の悲鳴を上げてのたうち回っている。この猛毒に犯されれば、数分で死に至る。1級モンスターですら避ける猛毒なのだ。だがそんな中、一人だけ猛毒を顧みずに歩く女性がいる。『メイデン』血盟主のミーシャだ。


 ミーシャは、強運にも倒せる可能性が一番高いダオスをこの土壇場で引き当てたのだ。その反面、ダオスは嫌な駒を引き当てたと自らの運のなさを嘆いていた。


 抗魔クリスタルを全て打ち砕いた状態ならば、ダオスが封殺できるだろう。だが、現実は違っている。一体、どこからそれだけの数の抗魔クリスタルを用意したのかと言いたくなるダオスである。


 だが、その出所は簡単だ。のたうち回っている『メイデン』の者達から、事前にかき集めたのだ。ダオスという存在を目視したミーシャは、分散して抗魔クリスタルを持つより一点集中し、誰かを完璧に守った方が良いという結論に至った。


 その結果、ミーシャだけが助かったのだ。仲間を犠牲にして。


 血盟主ミーシャとの一騎打ち……などという、愚行などダオスは行わない。勝てるか分からない勝負を挑む必要など全くないのだ。ミーシャを葬れる戦力など、今の『ゴスペラーズ』には沢山居る。それこそ、13使徒の誰かをぶつければ良いのだ。


 その為に、13使徒達は高い金で雇われているのだ。


「"暗闇(ブライン)"」


 ダオスは、ミーシャが台詞を言い終わる前に何も無い空間を闇で覆った。本人に対するバットステータスを肩代わりする抗魔クリスタルの特性では、これを無効化する事はできない。なぜなら、当の本人に害が及んでいるわけでは無いからだ。


 そして、来た道を戻るべくダオスは、一心不乱に駆けだしたのだ。


 戦略的撤退!!


 これこそ正しい選択である。勝てる駒を呼んできてから戦う姿勢は、まさに王道だ。


『ダオス選手、ミーシャ選手を前に逃げ出したぞ!!』


 司会者がダオスの状況を放送する。これにより、『ゴスペラーズ』の者達が駆けつける事になるのだ。ミーシャにしてみれば、余計な事をと思っているだろうが、これが司会者の仕事なのだ。


 そして、現在地や誰が一番近い仲間だぞという『ゴスペラーズ』に有利な情報が続々とダオスの耳に届く。


 その様子を見ている観客達からは、ダオスにブーイングの嵐だ。血飛沫が舞う殺し合いを安全地帯から眺めるために来ている者達なのだから、文句の一言を言いたくなるのは当然だ。


「やはり、距離が詰められるか」


 逃げに転じているダオスだが、後方から凄まじい勢いで追いかけてくるミーシャを見て、仲間と合流するまでに追いつかれると判断した。合流するまでに、自分が死体になっていたのでは意味が無いと思い、妨害を始める。


 相手の行動を阻害する事は、状態異常魔法の十八番なのだ。例え、抗魔クリスタルを大量に所持していても、やい方次第ではどうとでもなる。まさに、状態異常魔法を得意とする者にとっては、ダオスの戦い方は良い見本になるだろう。


「"暗闇(ブライン)"、"石化(ストーン)"、"防御力低下(アーマーブレイク)"」


 全て、ミーシャ自身ではなく周囲の空間や物に対してダオスは魔法を放った。


 空間を闇で染めて視界を奪い、草木を石化させる事で進路を阻害、地面を耐久度をさげて砂地にする事で移動力を低下させる。これにより、ダオスの魔力が続く限りミーシャが追いつく事は、困難となった。


 いかに強化魔法で肉体を強化していても、その効果以上の妨害がされてしまえば、ミーシャとて対応できない。ミーシャもその事実に気がつき、今後の事も考えて残しておいた魔力をここで使う事にしたのだ。


「何時までも逃げられると思わない事ね。"衝撃(インパクト)"」


 逃げるダオスに対して、距離を詰めつつ精霊魔法を行使し続けるミーシャ。"衝撃(インパクト)"がマシンガンの如く放たれており、その威力は一発一発がバットで殴られたと感じるほどだ。


 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦。索敵魔法により大まかなダオスの位置が分かっているミーシャにしてみれば、当てるまでにそう時間を要する作業ではなかった。何発も当てる必要はない。たった一発でいいのだ。当ててさえしまえば、確実にダオスの足を止められる威力だ。なぜなら、回復魔法や強化魔法が使えないダオスは、ダメージ回復に時間が掛かる。


「馬鹿みたいに撃ってきやがって!!」


 敵に背を向けて走る事がこれほど恐怖だとは知らなかったダオスだ。今まで、彼は勝つための戦略を整えて勝利を収めてきた。自分より強い者とは戦わない……故に、無敗であった。


 だが、同時に、良い経験だとも感じていた。


 実戦から学ぶ事は多い。事実、索敵魔法を使われれば、視界を塞いだところで効果が薄いというなど、色々な事をダオスは学んだ。


 そんな事を考えつつ、ダオスはついに開けた場所へと抜けた。


 その瞬間、ズドンと右腕に衝撃が襲いダオスの腕の骨を粉砕する。防具の上からでもこれほどまでの威力があるのは、ミーシャがダオスを殺したいと恨みが乗せられた結果だ。本人でも知らぬ間に魔力を過多に消費していたのだ。


 ダオスの手から法天エンプレスが離れ地に落ちそうになった所をダオスは、気合いでフライングキャッチし地面に倒れ込んだ。地面に落ちたところで壊れるような代物ではないが、祖母からも贈り物を大事に思うダオスは、男を見せた。


「無様ね。状態異常魔法以外に取り柄がないと、この程度の一撃でひれ伏す」


 追いついたミーシャが、嬉しそうに近づいてくる。その手には、抜き身の剣があり、ダオスを苦しめてから殺すつもりなのだ。


 だが、ダオスの顔に焦りは無い。


「否定はしない。だが、悪役は無駄口が多い。だから絶好の機会を見逃す」


 倒れたダオスに対して、一心不乱に"衝撃(インパクト)"を打ち込むなどしていれば、殺せていたかも知れない。それをしなかったのは、ミーシャの不手際だ。追い詰めた事で、欲が生じたのだ。自らの手で、嬲り殺しにしてやりたいという欲求に勝てなかった。


 ダオスとミーシャの間に、御前に乗ったテルミドールが駆けつけた。


「その通りだ。後は、引き受けよう。な~に、『メイデン』の血盟主は、調印の場からいけ好かないと思っていたところだ。『ゴスペラーズ』の血盟主として、良いところを見せねばなるまい」


 テルミドールの召喚獣である御前からの威圧に抵抗するミーシャ。そんな無駄なやり取りすらテルミドールの作戦なのだ。そして、13使徒達に加え、ミーミルやシャルロットまで到着した。


「全く、後衛なんだから無茶しない。クリーニング代を払うまでは死なせないからね」


「お願いですから、命を大事にしてください。僕じゃ、ミーミルさんとエスカロリオさんの手綱は握れませんから」


 仲間二人からの暖かい言葉にダオスは、血盟戦中だというのに和んでしまった。やはり、仲間は良いものだと改めて思うダオスである。


 ダオスは、立ち上がり皆に合流する。本来、後衛職は、前衛など守りが居てこそ本領を発揮する。そして、今までのお礼を兼ねてダオスはミーシャに優しい一言を送る。


「安心していい。貴様は、殺さずレイレナード家に差し出す事が決まっている。コレだけの戦力を相手に生き残れるのだ。誇って良いぞ」


 心温まる一言を受けたミーシャは怒り狂うが、現実は変わらない。ミーシャを助けに来る仲間など既に居ないのだ。『ゴスペラーズ』に捕らわれていない『メイデン』の者達はごく僅か。加えて、敗北の色が濃厚になった時点で、現実逃避から血盟戦に自らを巻き込んだミーシャに怒りを向けている『メイデン』の者達は数多い。


 『ゴスペラーズ』のスタート地点で捕らわれている者達からは、「殺せ!!」「なんで、巻き込んだのよ」など自分勝手な意見が飛び交っている。その様子もしっかりと投影されており、血盟員との絆がよく分かる映像となっている。


「無様だなミーシャ。我々と違い、纏まりの欠片すらない。同じ血盟主として恥ずかしい限りだ。見るに堪えない」


 テルミドールの一言が真実を付く。所詮、大所帯なだけの烏合の衆。それが、『メイデン』の真実の姿なのだ。


 いうまでもなく、ミーシャ含む残党討伐など最早消化試合。


 それをいち早く理解した観客達は、次なるイベント会場となるオークション会場へと早々と足を勧める者達が多数いた。その手には、本日の出品商品が書かれた目録を手にしており、実に切り替えの早い者達だ。


「多人数で袋だたきだ。別に卑怯だとは言うまい。そもそも、そちらの方が人数は多かったのだから」


 テルミドールの一言でミーシャ戦の戦火が切られた。


………

……


 ミーシャ含む『メイデン』の残党達は、それから30分とせずに壊滅した。これにより、『ゴスペラーズ』が勝利を収める結果となる。制約魔法により、生きている 『メイデン』全員の殺生与奪の権が『ゴスペラーズ』に渡った。


 法王からのありがたい言葉が終わると同時に、血盟戦の終了が告げられる。


◇◇◇


 奴隷商に引き渡され、番号付けされて売り物にされる者達。オークション会場の一番良い席では、『ゴスペラーズ』の者達が、その様子を飯の種にして美味しい食事を満喫している。


 売られた者達は、二度と日の目を見る事はない。『ゴスペラーズ』と奴隷商の間では、価格はある程度許容する対価として、『ゴスペラーズ』に対して反抗の意思すら持たせない事という絶対条件を付けている。


 これにより、心優しい飼い主に恵まれたとしても彼女達がダオス達の前に現れる事はない。信用第一の奴隷商が、いかなる手段を用いても約束を守る。


「まるで、養豚場の豚が食肉用に解体されに行くような光景だな」


「馬鹿だなダオス。豚の方が、食えるしまだ役に立つ。豚に失礼だぞ」


 エスカロリオの発言に、そうだそうだと周りからヤジが飛ぶ。


「そうだな。このポークステーキの方が役に立ってたな。悪かった」


 ダオスは、今食べているポークステーキに謝罪した。


「いや~、でも案外豚より役に立つ事もあるかもよ。コレ、ダオスにプレゼント」


 横で一緒に食事をしているミーミルから、クリーニング代と記載された紙がダオスに渡された。そのお値段、1500エース金貨……日本円にして約4億5千万相当だ。実にミーミルらしくないミスだとダオスは思った。桁を間違えてしまうなんて、恥ずかしい限りだろうと。


「エース金貨150枚か。今日は懐も潤っているから即金で払おう」


「なに言ってんの。エース金貨1500枚で間違いないよ。これでも、エスカロリオが半分出してくれてるんだよ」


 まさに、驚愕のお値段だ。だが、国宝装備一式のクリーニング代金ともなれば妥当な額なのだ。特に、今回は糞尿や血のせいで費用が加算している。


 だが、ダオスはそこで気がついた。自らが持つ法天エンプレスも国宝レベルの装備であり、当然、十全な力を発揮するためには手入れを欠かせない。探索者として、装備の手入れを怠るなど死に直結するのだから。


「わかった。払おう……で、つかぬ事聞くが、法天エンプレスのメンテナンス費用はどのくらい掛かる?」


 商品(メイデン)の売上は、13使徒達への報酬を支払った後に各位に山分けされた。そのおかげで、エース金貨1500枚という代金でもダオスは即金で払う事ができる。だが、法天エンプレスのメンテナンス費用の事を考えていなかったのだ。


 だから、一流の鍛冶屋でもありミーミルにお友達価格でお願いする予定でいる。当然、その対価としてダオスは、便秘になった際はいつでも手助けする気持ちだ。


「う~~ん、このくらいかな?当然、お友達価格で」


 察しの良いミーミルは、ダオスの懐事情をよんで常識の範疇のお値段を提示してくれた。だが、クリーニング代金と合わせると血盟戦の報酬が丸ごと無くなる価格だ。その値段、エース金貨750枚。


 金に絡む事は、綺麗に精算するようにと教育をされているダオスは借金やツケなどはしない。「金の切れ目が縁の切れ目」というダオスの祖父のありがたい言葉を心に刻んでいるからだ。


「次回もお友達価格でお願いします」


「毎度~」


 お金こそ手に入らなかったが、お金では買えない法天エンプレスという装備や豪商とのツテを手にしたダオスは、探索者家業に精を出す。……メンテナンス費用を稼ぐために。

血盟戦編がこれで完結です!!


次話は、何編にするかは全く考えていませんが@@

来週までにネタ出しを頑張る予定です><


月並みの台詞ですが、今後もよろしくお願いしまーーす!!

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