11:豪商レイレナード家
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礼節を弁えているダオスは、手土産を持って豪商レイレナード家を訪れた。
廊下にある調度品は、過去の芸術家達の逸品と名高い物が多数並んでいる。美術館にも勝るとも劣らない品揃えだ。世の中には、今日を生きるだけで精一杯の者達もたくさんいる中、圧倒的な格差だ。まさに、住む世界が違うのだ。
金が金を生む法則を正しく理解し、運用する。それが、正しい金持ちの姿なのだ。
だからこそ、僅か十数名の総資産が世界の半分の富を占める。残りの半分が大多数の有象無象の資産なのだ。どの世界でもこの法則は変わらない。
「豪商の名は、伊達ではありませんね」
ダオスは、思わず本音を口にした。だが、仕方が無い。応接間への案内をしている女性メイドですら、目が眩むような値段になる。なぜなら、彼女は、人型モンスターなのだ。
僅か、数メートルの距離に人の人生を狂わす存在が居るのだ。この存在を求めて、今までにどれ程の死者が出たか想像も出来ない。
見目麗しい女性に案内させる事で好印象を与える常套手段なのだが……ダオスとしては、御遠慮していただきたい限りだった。不慮の事故が起これば、即死するからだ。
「"誓い"持ちのお方と聞いております。ご安心ください」
彼女が笑顔で対応した。
仮面まで付けている怪しさ極まるダオス相手に、笑顔で対応する。まさに、メイドの鑑である。並の男なら、これだけで心が奪われてしまうだろう。それほどまでに、容姿が整っているだけでなく、男心を揺さぶる仕草をするのだ。人生を狂わすのに長けたモンスターだ。
だが、ダオスはその笑顔を見て、全く別の事を考えていた。
「……やはり、該当しないな。本当に、人型モンスターか?」
絶対数が少なく、人気の高い人型モンスターは羨望を集める。だからこそ、過去にオークションに出品された者達の似顔絵を集めた画集なども売られている。雑誌の特集で、『彼女たちは今!?』と、いう特集も組まれる。それだけ注目度が高いのだ。
『ゴスペラーズ』が下調べしたレイレナード家の情報では、保有している人型モンスターの性別から人相まで調べ上げている。だが、そのどれにも彼女が該当しないのだ。
「えぇ、生まれも育ちもココですので」
その言葉の意味で、ダオスは理解した。
調べても情報が入手できないのは、当然だ。人型モンスター同士を掛け合わせて作った存在なのだ。人型モンスター同士を掛け合わせて繁殖させる方法は理論的に可能だ。だが、実行する者など常識的に考えてありえないとダオスは結論づけていた。
なぜなら、人型モンスターの生殖能力は高くない。その組み合わせで繁殖を成功させるなど、考えたくない確率だ。人型モンスターが安くて大量にいるならば、不可能とも言えなくは無い。だが事実は、その真逆なのだ。数も少ないし、天井知らずの値段。
「奇跡の確率だな。そんな美しい君の素敵な笑顔は、君が好きな人だけに使いたまえ。私だから、判断を誤らないが、勘違いする者も多く出るだろう」
「御忠告痛み入りますダオス様。……こちらの部屋で、旦那様がお待ちしております」
女性に厳しいダオスですら、美しいと素直に称賛を述べるしか無い程だ。権力者が大金で購入し、社交界のステータスとまで言われる由縁が理解できるものだった。
部屋の中に足を踏み入れると、先日も会ったレイレナード家当主が待っていた。その傍らには、護衛の1級探索者が2名。ダオスが何か事をしでかした際、即座に処理するべく構えているのだ。
無論、ダオスの能力も知られており、十分な対策がされている。それこそ、手も足も出ないほどの準備だ。
「かけたまえダオス君」
「失礼します」
ダオスは挨拶をしてから椅子に座った。
アイザック・レイレナード――豪商レイレナード家の当主である。55歳という高齢の割に、年齢より遙かに若く見える。鍛え上げられた肉体に迸る覇気は、才気溢れる者の特徴なのだろう。伊達に、『ハイトロン法国』の経済界を担う一人ではない。
「どうだったかね。私のとっておきは?」
「えぇ、実に良い者を見せて頂きました。まさか、養殖を実現化されておられるとは」
アイザックがダオスに自慢する。
俗物ならば、この養殖がどれほど価値を秘めているか理解できない。だが、ダオスがそれを理解出来る者だと判断したのだ。アイザックの中でダオスの評価は低くは無い。
むしろ、高い。
一度目の面会の後、アイザックも当然持ち前の情報網を使いダオスや『ゴスペラーズ』の事を調べ上げていたのだ。若いながらに、2級文官資格を持っている。3級探索者の枠に収まっているとは言え、その実力は非常に高い。対人戦においては初見殺しの能力を有する事も把握済みなのだ。
だが、それだけでは、アイザックはご自慢の養殖人型モンスターを見せる事はしなかった。滅多に見せる事がない養殖を見せた要因は……。
「分かっているようだな価値が。流石は、彼女の孫だな」
「―!! よくご存じで。正直、祖母の事まで調べられる方が居たとは驚きです。なんせ、祖父のおかげで、大体調査不能に陥りますので」
ダオスは、親族以外でそれを知る者は居ないと思っていた。だからこそ、驚いた。母方の祖母……ダオスの尊敬する祖父の妻だ。任期こそ僅か二ヶ月と最短を誇ったが、一時期『ハイトロン法国』の法王を務めた程の人なのだ。混迷を期した時代でもあったので、その名前は教科書でも片隅に載る程度でしかない。
『ハイトロン法国』の法王は、世襲制では無い。その為、現法王とダオスとの間に何の関係もない。
「若い頃に、一度だけお会いした事があるだけだ。まぁ、余談はこの程度で良いだろう」
アイザックとしては、本当にただの余談として話したのだ。昔の初恋の人の孫が今ココにと。
だが、ダオスは、隠し事は通じないという意味で理解した。勿論、交渉のテーブルにつく以上、ダオスは嘘偽りなど言うつもりも無い。
「そうですね。まずは、『メイデン』への圧力をありがとうございます。加えて、法王庁へもお力添え頂けて、申請がスムーズに進みました」
「法王庁は、オマケみたいな物だ気にするな。テルミドール卿が居る以上、儂が一言添えるまでも無かったがな」
ここまで早く申請が通過した事は過去に無いだろう。担当者も自分の首が掛かっている事もあったので、当然だ。実際、申請内容に不備も無いため、文句の付けようも無かったのだ。
「つきましては、お約束の一つ目であるアール・メルシェルの遺体をお引き渡し致します」
コレに関しては、ダオスも苦労した。正直、もう駄目かと思ったほどだ。
数時間前―。
ダオスは、ハーフの遺体をエスカロリオの元から引き取るべく、国家機関である第8研究所を訪れていた。国家の重要機関でもある為、部外者は入場できないが……だが、ここの所長を務めるエスカロリオの職権乱用により可能となった。
その事に異議を唱える者は、研究所にいない。奇人変人が集う研究所の者達が大歓迎でダオスを迎えたのだ。なぜなら、ここは、モンスターの生態研究なども行っている。
当然、その研究対象には、人型モンスターも含まれているが予算の都合上、入手不可能な研究材料なのだ。そこに、混ざり物のハーフだとはいえ、極めて良好な状態の遺体をポンとプレゼントしてくれる人が居たら彼らが歓迎しないはずがない。
だが、ダオスはそこで衝撃を受ける事になったのだ。
ハーフの遺体が保管されている場所に連れて行かれたのだが、肝心な遺体が何処を見てもないのだ。あるのは、様々な器具や臓器などが入ったガラスケースだけだ。
「エスカロリオ。私の目が悪くなっていなければ、遺体がドコにも見当たらないのだが?」
ダオスの一言に、エスカロリオを含む研究者達が怪訝な顔をした。
まるで、ダオスが何を言っているか理解できないようだ。
「何を言っているダオス。目の前にあるだろう?」
何処を見ても液体の詰まったガラスケースに脳や目、臓器が浮いているだけだ。決して、遺体ではない。
「いや~、ステラの部屋にあるようなパーツしか見当たらないんだが」
ダオスの頭に、考えたく無い可能性が横切った。ここのあるパーツを組み合わせれば成人女性一人分を構成する物質になるのだ。
「あぁ、すまないね。そのガラスケースに、A.Mと書かれているのがアール・メルシェルのだ。紛らわしくて申し訳なかった」
「ハーフの遺体は、レイレナード家に引き渡すから綺麗な状態にしておいてねと言ったよね?」
ダオスは、エスカロリオに優しく話しかけた。仮面で表情こそ見えていないが、結構怒っているのだ。
ハーフの遺体は、『メイデン』への圧力を掛けて貰ったお礼に手土産として持って行く予定なのだ。それを前提とした約束事なのだ。タダのパーツに成り下がったコレでは、相手を納得させるのは、困難を極めるだろう。
「覚えているとも。だから、中まで綺麗にしておいた」
「そ、そうか。それは、私が悪かった。じゃあ、組み立てて元通りにしてくれないかな。午後には、レイレナード家に持って行かないといけないんだよ」
まさかの、天才的発想にダオスも度肝を抜かれた。
ダオスは、そこまで徹底的に綺麗にして貰えるとは思ってもいなかった。だが、責めることは出来ないと理解したのだ。確かに、バラしては駄目だとは言わなかった。
「残念だが、そこまで回復魔法が得意な者は、ここには居ない。そうだな~、ステラを呼ぼう。彼女なら、元通りにする事も可能の筈だ」
「若干、欲しいパーツを希望されそうだが背に腹は代えられないな。代替えパーツは、エスカロリオで用意してくれよ」
ステラは、自分のパーツを容易に付け替えることが可能なほどの、回復魔法の使い手だ。人体収集家でもあり、彼女に掛かればバラバラになった人間でも簡単に元通りにできる。
「その位なら構わないさ。部下に依頼してステラも至急呼ぼう」
血盟員のステラが到着するまで、ダオスはエスカロリオのハーフの分析結果を聞くことになった。専門家ほどの知識は有していないダオスだが、要はハーフを構成する物質が人間と大差ない事だという事実だけは理解できた。
………
……
…
ダオスは、持ってきたバックをテーブルの上に置いた。
その中に、復元を終えたハーフの遺体が詰まっているのだ。アイザックは、部下にバックの中身を取り出させて、ハーフの遺体を確認した。
「突然、行方が知れなくなって早5年……確かに、面影は残っているな。正直言えば、偽物をつかまされる可能性も考えていたがな」
「約束を違えるなど、私の信条に反します」
ダオスは、常に清く正しく誠実に生きる事を遵守している。正しい行いは、いずれ自らを助ける事になると。
「では、こちらも引き続き支援をさせて貰おう。血盟戦の成果を期待しているぞ」
「必ずや。次は、主犯格を引き渡す際に」
レイレナード家が引き続き協力してくれるという確約を手にしたダオスは、『ゴスペラーズ』にとって確実な勝利に一歩近づいたといえる。国内における最大級のスポンサーの一人を味方に引き入れたのだ。
作者少し思った!!
女性だけの血盟『メイデン』が存在するなら、男性だけの血盟があっても不思議では無い。
むしろ、探索者の職業比率的に男性の方が多くて当たり前の筈だ。
そこで、考えた男性だけの血盟・・・・・・某宗教団体の祝詞から考えて見ました。
その名も『アッーーーメン』。
凄く強そうだ!!というか、間違いなく強い。メン=漢という意味も含まれているし、秀逸なネーミングセンスだと思うのだけどどうかな?
『ゴスペラーズ』でも勝てないかもしれない。
・・・・・・同盟血盟という制度もありですよね!!
次話も日曜に投稿出来るように頑張ります^^
※早めに投稿出来る場合は、活動報告にそれとなく記載致します。