10:包囲網
貨幣の価値観は、大体このような感じで考えております。
エース銅貨1枚=300円
エース銀貨1枚=3,000円
エース金貨1枚=300,000円
銅貨→銀貨が10倍。銀貨→金貨が100倍と・・・@@
買取専門店で店員と『メイデン』所属の女性探索者が口論している。この店は、モンスターからの戦利品などを買取転売する事で利益をあげる真っ当なお店だ。
どの探索者も懇意にしており、お店としても売りに来てくれる顧客を大事にしている。等級の高い冒険者ほど、大事な顧客として扱いサービスなども怠らない。
「買取が出来ないとは、どういう事ですか!? 損傷なしの美品でしょう。理由は?」
「お答えできません」
女性が持ってきた品は、ミノタウロスの角8本だ。加工する事でナイフやフォークと言ったテーブル用品として人気が高い原材料である。その買取価格は一般的に角1本でエース銀貨30枚になる。8本でエース金貨2枚とエース銀貨40枚だ。
2級モンスターであるミノタウロスからの戦利品が買取できないと言われれば、誰だって怒りたくもなる。その理由すら提示してもらえなければ、尚更だ。
だが、事をこれ以上荒立てれば、『メイデン』全体の評判が落ちると女性は、堪えた。
先ほどから注目が集まり、周りからひそひそと悪口が言われているのだ。このお店の評判は、決して悪くない。その為、女性の方が無理な注文をお店に押しつけているのではと思われ始めたのだ。
「じゃあ、抗魔クリスタルの買取とミスリル鉱石の鑑定を」
「お受けする事はできません」
どちらも、間違いなく需要がある品だ。だが、女性探索者に対して店側が取る態度は変わらない。女性探索者としては、日頃から懇意にしていたお店であったが、あまりの塩対応にカウンターを殴りつけそうになった。
「ここには、二度ときません!!」
「またのお越しをお待ちしております」
2級モンスターの戦利品や鉱石などは、利益率が高いので店側としても売り手を大事にしたいが、それを許さない事情がある。家族や従業員の生活を守るためには、割り切らないといけない事もあるのだ。
『ハイトロン法国』の3割近い売買に携わっているレイレナード家。それに加え、子供から国にまで金を貸して利益をあげるゴールドマン家。この両家から凄まじい圧力が掛けられているのだ。彼らに逆らえば、半日とせずに路頭に迷うことになる。
………
……
…
『ハイトロン法国』の首都郊外にある『メイデン』のホームには人が溢れていた。
「一体、どうなっているのですかミーシャ。買取は断られるし、宿泊だって断られた。おかげで、ホームしか泊まり先がなかったわよ」
異変は、彼女だけに起こった訳ではなかった。『メイデン』の血盟員達が軒並み、ホームに身を寄せていたのだ。異常事態である事は、間違いなかったがその原因を特定するまでには至っていない。
女性だけの血盟と言う事で目立つが、目に余るような悪行をしていたわけでもない。寧ろ、女性の為にいろいろと役に立っていた。女性探索者に対して、ダンジョンでの心得などを教える講習を開いたり、お古の装備を格安で提供したりと手を尽くしていた。
そう、『メイデン』とは女性に優しい血盟なのだ。
「誰かが、他の血盟とトラブルを起こしたにせよ……この規模での嫌がらせは、異常すぎるわ。ちなみに、買取と宿泊以外にも鍛冶屋と道具屋でも同様の対応を受けたわ」
ミーシャの発言に、『メイデン』の血盟員達が動揺する。探索者として、『ハイトロン法国』から完全に締め出しをされているのだ。現在は、ホームにある物資で凌げるが総勢150名を超える大所帯では、長くは持たない。
だからこそ、ミーシャも解決すべく手も打っていた。
「情報屋を頼りますか?」
血盟員からの発言に誰もが、それしかないと思っていた。金さえ出せば何でも売る情報屋。だが、情報屋は、足下をみる天才でもある。相手が欲する情報を持っていれば、大金を引き出そうとする。
「既に聞いたわ。だけど、払える? 情報料がエース金貨400枚なのよ」
エース金貨400枚もあれば、『メイデン』のホームを補強だけでなく改築すら出来るほどだ。そんな予算を出してしまえば、今後の活動資金がそこを尽きかねない。
大所帯だからといって、『ゴスペラーズ』と違い資金が豊富というわけではないのだ。血盟にお金をプールさせるという考えは、『メイデン』にもある。だが、あくまで寄付を募る形で行われている。その為、「私が寄付しなくても誰かが寄付する」といった大所帯ならではの思考に陥っているのだ。
仲間の事をこの上なく大事に思う『ゴスペラーズ』と、己の事をこの上なく大事に思う『メイデン』の思想の違いが資金力に差を生んでいる一つの要因でもある。
「じゃあ、どうするんだよ!?」
「当然、手は打っているわ。『メイデン』の血盟主として、それなりのツテはあるつもりよ。そろそろ来る時間だわ」
それから程なくして、コンコンと『メイデン』のホームの扉を叩く音が響く。
無精ひげに中肉中背の何処にでもいるような男性が訪ねてきたのだ。女の園でもある『メイデン』に不釣り合いな男性だ。だが、ミーシャが招き入れたことで異を唱える者は誰もいない。
「紹介しておこう。昔から懇意にしている情報屋のリゲルだ」
「紹介された情報屋リゲルだ。全く、コレで貸し借りチャラだからな」
女性達からの冷たい視線が集まる中、リゲルが挨拶をした。当然、女性に優しい血盟である『メイデン』から帰ってくる挨拶などはない。
「あぁ、その通りだ」
ミーシャは、金で買えないのならば、貸しのある情報屋を使えばよいという考えでいた。そして、その思惑は成功した。
「で、先に聞いておくが……お前さん達、一体誰に喧嘩を売ったんだよ?」
「身に覚えがないから、リゲルに調査を依頼したんだろう」
「左様ですか」とリゲルは、疲れた様子を見せた。無自覚でここまで事を荒立てられた事にリゲルは頭が痛いと思っていた。悪い意味で天才的だと。
「鍛冶組合や商会だけに留まらず、かなり地位の高い貴族達からも『メイデン』に対して取引を停止しろと圧力が掛けられている」
「そんな事を何所の誰が……」
ミーシャは、リゲルの調査結果を聞いて、その全てに圧力を掛けられる存在がいるか思い浮かべてみた。事実、そんな事を可能とする人物は、少ないが存在している。だが、血盟と関わりがあるという前提を考慮すれば、思い当たる存在はいないのだ。
「まぁ、聞けって。重要なのは、ここからだ。明日、数ヶ月ぶりに血盟戦の申請がされる事になっている。その審査も通過する事が確約されているとの事だ」
「まさか、その血盟戦が申し込まれるのが『メイデン』だとでもいうのか?」
血盟戦――その性質から幾つもの審査を通過しないと申請が通らない。虚偽や偽りで相手の血盟員を手中に収められては目も当てられない。余程の悪逆非道な血盟で無い限りは対象とならないのだ。
「その通りだ!!」
「ふざけているのか!? 我々が、そんな行いをしているというのか?」
「残念だが、そこまでは俺が調べられる限界を超えている。だが、申請した血盟の名前を聞けば心当たりの一つや二つはあるんじゃねーか」
ミーシャは、憤怒していた。
勝敗に関わらず、このような事があれば今後の活動に影響するのだ。だが、ミーシャは、どんな汚い手を使う連中が相手でも負ける気はしていなかった。『ハイトロン法国』において、女性のみの血盟としては最大規模を誇る『メイデン』だ。
質も量も並の血盟とは違うのだ。
「どこだ?」
「『ゴスペラーズ』」
その名前を聞いたミーシャは、思い当たる節があった。あの『頭を下げるだけなら猿でも出来る』と言っていたダオスの事を。
初めての三人称の小説なのですが、いかがでしょうか?
一人称などが混ざらないように気をつけておりますがお気づきの点が有りましたらご指摘頂ければ幸いです。
次の更新は、日曜日になりそうです。
そして毎週日曜日更新へ・・・。(目標は
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