09:血盟会議
『メイデン』の血盟主であるミーシャとベースキャンプの大広間で別れてから、シェリル達と交渉を再開した。一刻も早く、タワーを出る必要があったダオスは、相場も5倍に相当するエース金貨10枚という大金を支払い合意を得た。
懐的に痛い出費ではあるが、帰りの道中で壁の中にしまっておいた『メイデン』の血盟員の持ち物を回収する算段があったので、赤字にはならない。
そして、ダオスが向かった先は、『ゴスペラーズ』のホームだ。
創設メンバーが全員でお金を出し合って購入した立派な建物で内装から外装に至るまで惜しみなく金がつぎ込まれている。『ハイトロン法国』首都の一等地にあるホームは、血盟員全員が余裕で住める程の広さがある。長期滞在も可能とすべく、各々の部屋まで備わっている。増えるであろう血盟員を想定して広めの建物にしたのだが、逆に減る一方だとは当初は考えてもいなかった。
「テルミドールは、不在か。まぁ~、勤務時間だから当然か」
事が事だけに、早々に『ゴスペラーズ』の血盟主に報告をしたかったのだ。ダオスは、自室に戻り血盟員に招集すべく手紙を書く事にした。
『ゴスペラーズ』の現血盟主は、二代目である。その実力は、前盟主に勝るとも劣らないと評価を得ているのだ。現血盟主である齢52歳のテルミードル・シュタイナー――『ゴスペラーズ』の血盟主としてより、別の方面で名が売れている。『ハイトロン法国』のトップである法王を守る13使徒の一人に数えられる。13使徒とは様々な分野のスペシャリストが集められ、その実力は一騎当千とも言われている。
事実、13使徒の誰もが他国にまで名を知られており、実力は折り紙付きの者達だ。戦時には、法王の蘇生魔法により、一騎当千の死なない兵士として恐怖の対象として恐れられている。
………
……
…
そして、夜になり血盟員達が集まった。
元々、ホームを根城にしている者もいるし、職場で寝泊まりしている者もいるのでダオスの思いに反して簡単に集まった。だが、ソレも当然だ。なんせ、ダオスが招集のために皆に出した手紙は、血盟戦を行う旨が書かれていたのだ。
仮にダオスが、血盟員から同様な手紙を受け取った場合、いかなる用事があっても最優先で駆けつけるだろう。
ホームの会議室に集まる9名の"誓い"を持つ者達。円卓のテーブルを囲むように座るが、空席が悲しいまでに目立っている。
「急な呼び出しにも関わらず、集まってくれた皆に感謝をします。手紙でも、事の顛末を記載しましたが、改めてこの私から説明を」
ダオスは、集まった全員に礼を述べてからタワーで起こった悲劇を皆に伝えた。擦り付けられた事、いきなり殺されかけた事、能力情報を教えろと強要された事、地下30階のベースキャンプで精霊魔法を使用された事、どれ一つ取っても笑って済ませる事が許せない問題だ。
トドメは、ダオスが断腸の思いで平和的な解決を望むべく手を差し伸べたのに無碍にされた事だ。仲間と祝う誕生日を楽しく過ごしたい為に、このような事態など望んで居なかったのだ。
その仲間思いの心が『ゴスペラーズ』全員の心に響く。
「なるほど、事情は分かった。よろしい!! ならば、戦争だ!!」
あまりにも酷い『メイデン』の行動に、テルミドールは『メイデン』との血盟戦の決意を表した。『ゴスペラーズ』の者達は、仲間意識が非常に強い。"誓い"持ちという希有な境遇がその絆を生んでいる。
一人は皆のために、皆は一人のために……まさに、理想的な血盟である。
「流石、テルミドール!! では、早速研究所から試作の魔道兵器を持ってきましょう。対人でテストが出来ていなかったので、良いタイミングでした」
直接戦闘力に欠けるエスカロリオも血盟戦には、乗る気満々である。頭の可笑しい人が作った、頭の可笑しい兵器がお披露目されるのだ。馬鹿と刃物は、なんとやらだ。この時、誰もがエスカロリオの魔道兵器に近づかないでおこうと思った。
「『メイデン』ね~……あそこの人達、私が経営する美容院にも来るんだけど、仕方ないわね。可能な限り情報を集めておくわ」
有翼人のステラ・エルドラン。完璧の美を求めて、種族の誇りでもある翼を対価に健康体状態を維持する能力を得た存在だ。飲まず、食わず、寝ずでも決して死ぬ事は無い。更に、その特性を利用して、より美しい体を持つ女性の部品を自らに移植することで完璧な美を追い求める探求者だ。極めて優秀な回復魔法の使い手でもあるので、移植はお手の物だ。唯一の問題である拒絶反応も"誓い"の対価で無効化している。
種族としての誇りすら差し出し手に入れた美貌だけあって、『ハイトロン法国』で嫁にしたい女性の上位ランカーだ。その築いた地位で、『ハイトロン法国』で知らない者がいないほどの美容室を趣味と実益を兼ねて経営している。そこには、貴婦人達が多数訪れる。
「うっし。俺は、奴隷商と好色家の金持ちに話をつけてくるわ。できる限り、殺すなよ。価値が落ちるからな」
『ゴスペラーズ』の金の亡者ザックス・ゴールドマン……血盟の金庫番でもあり、此度のメイデンとの血盟戦について彼が異論を唱えなかった事もあり、全会一致したようなものだ。割が合わないことは、死んでもやらない男なのだ。その彼が何も言わないと言う事は、存分に金を使って殺し合いをしても採算が合うと言うことなのだ。
「無所属の13使徒を臨時で血盟に加入させておく。殺るからには、勝利せねば意味が無いからな」
全員が、血盟主であるテルミドールを鬼か悪魔かと思った。一騎当千の力を持つ使徒が複数人いるとか、相手にとっては悪夢だろう。だが、殺し合いに慈悲など無い。持てるコネクションは、全て使い完膚なきまでに潰すそれが王道なのだ。
「面倒ね。じゃあ、私は、鍛冶組合の連中にメイデンの装備メンテを請け負わないように圧力を掛けてくるわよ」
腐っていてもドワーフの王女なのだ。鍛冶組合の上役は、殆どがドワーフで占められている。王に対して絶対服従という制度は、ドワーフ達には無いが……世界一の鉱石の産出国である王女相手には強くでられない。供給を盾にされては、ドワーフといえども膝をつかざるを得ない。
「では、私はレイレナード家に向かいます。『メイデン』の血盟主が、ハーフ逃亡に携わっていた事を伝えてくる。しばらくの間、『メイデン』に対して商品販売を控えて貰えないかというお願い付きで」
豪商レイレナード家……『ハイトロン法国』の3割近い売買に携わっている。よって、『メイデン』との血盟戦でダオスはお力添えをして頂こうと計画している。交渉の勝算は、十二分にある。ハーフの件に加え、血盟戦勝利時に、主犯格含む『メイデン』の血盟員を幾名か差し出す予定なのだ。
憂さ晴らしのちょうど良い駒代わりにはなるだろうと。
血盟間の戦争は、お互いの全ての権利が掛けられる。いわゆる、殺生与奪の権利が賭けられるのだ。当然、その様な権利が掛けられる以上、訴える側に正当性が無ければいけない。
だが、今回はその条件を満たしている。
戦いとは、始まる前から勝敗が決まる。何の準備もしてないであろう『メイデン』に対して、完璧な包囲網を作った後に血盟戦を挑む姿勢だ。仲間への被害を減らすために、あらゆる努力をする心温まる血盟だ。
しかし、血盟戦には金がかかる。その資金は、どこから出るかと言えば、血盟でプールされているお金だ。そして、各方面にスポンサーをお願いするのだ。この度、『ゴスペラーズ』の敵は、女性のみで構成される血盟『メイデン』である。探索者をしている女性は、売り物としても最適だ。戦闘用にも使えるし娯楽用にも使える。
スポンサーとしてもどちらを応援した方が美味しいかは言うまでも無い。更に言えば、『ゴスペラーズ』の戦闘力は、全血盟でも上から数えた方が早い。スポンサー達の応援があれば、勝利は揺るがないのは明白だ。
逆を言えば、メイデンの連中はどれだけスポンサーを味方に付けられるかが勝敗を分けるといえる。大穴狙いも良いが、勝ち馬に乗りたいと思う者達の方が断然多いだろう。
作者的に、分かりやすくすべく職業などと併用して登場させてみました。
一気には出さず徐々に出す登場する予定。
◆今回、新規で登場した血盟員は、以下の通りです。
※人物紹介は、今週メンテ致しますのでご容赦を。
血盟主のテルミドール・シュタイナー ※ケモ○ー
人体収集家のステラ・エルドラン ※お部屋に、不腐化された部品が一杯。
金の亡者のザックス・ゴールドマン ※ダオス同様の常識人
ドワ娘の名前は、次に出す予定です。
そして、残念なお知らせかも知れませんが
明日投稿予定の10話で日次投稿は(ry
11話は、来週になりそうです。