表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

崩壊

 夏月は教科書から目を上げた゜

 頭の中に突き刺さってくる思いがある。


 ―――たすけて――― !


(岡本千朗?)            

 薬は飮んでいるはずだった。

それにも拘らず、かなり遠い場所にいるような彼の思考を拾ってしまったのは、予朗自身の心の悲鳴が大きかったせいと、自分が意識のどこかで彼のことを気にしていたせいなのだろう。

 夏月はうつむいて目を閉じた。

一瞬触れた千朗の意識を探し始める。

特定の人間の探す時にいつも薄い布のようなものをイメージする。それを意識の海の中に広げてゆくのだ。

(岡本千朗………どこにいるの?)

 やがて夏月の心の中に、激しい千朗の息遣いが聞こえてきた。





「おかあさんっ!」

 千朗は団地のドアを叩いた。いつも母親はこの時間にはまだ家にいるはずだった。

「おかあさん、おかあさんつ」

 だが応えはない。千朗は鍵を出してもどかしく錠を外した。

-おかあさんっ!」

 玄関に入ると母親がいつも仕事に行く時はいているローヒールのパンプスがなかった。

「……おかあさん」

 千朗はふらふらとキッチンにあがり家の中を見回した。

どこかで「プー……」と耳ざわりな機械音が鳴っている。

電話だ。受話器がきちんと乗っていないので警告音を発しているのだ。

 千朗は電話のそばに置いてあるメモ帳を見つけた。

「武蔵野警察 赤松 09055………」

 急いで書いたのだろう。電話番号の最後の数字が斜めに伸びて紙が破れている。

(警察……)

 母親は警察に呼ばれたのだろうか。あの刑事を殺したことがもうばれているのか。それと

も学校か、安斉のことか、いや、まさか―――

 あの最初の殺人。

 父親を殺したことが。

「あ、あ………」

 千朗はがたがたと震え出した。

 母親は許さないだろう、千朗が誰を潰したか知ったら。

離婚をせずまだ岡本の姓を名乗っているのだ、父親の親の仏壇に水をあげているのだ。まだ父親が戻ってくると思っているのに、それを千朗が潰してしまったと知ったら゜

 おかあさんは逃げるかもしれない。

 僕を捨てていくかもしれない。おとうさんのように。


(ドウショウ、ドウシタライインダロウ)


 千朗は考えているわけではなかった。ただじだんだを踏むようにその言葉だけを繰り返した。


(ドウシヨウ、ドウシヨウ、ドウシヨウ、ドウシヨウ……)


 ビシビシと彼の周りで小さな虫が鳴くような音がした。

千秋の周りを取り囲む壁に、細かなひびが入ってゆく。

それは螺旋を描いてたちまち天井までに達した。

そして徐々に外にも広がっていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ