迷い
岡本千朗は学校をさぽって街をさまよっていた。
学校へは行く気になれない。クラスの連中の冷たい石のような無視が恐ろしかった。
いや、本当に恐ろしいのはそんな彼らに怒りを抱き、潰してしまうかもしれないという思いだった。
(なんで? なんで俺が怖がらなきやいけないんだ。ほんとうに潰してしまえばいいあんな
連中。そしたら誰も俺に逆らわなくなるさ)
だがそうすれば心底恐れられるだろう。漫画やアニメの悪役みたいに恐怖で支配するなん
てことができるわけがない。
あいつらは知らないんだ。人から怖がられるってことがどんなに嫌なことか。
(俺はどうすればいいんだろう)
ゲームセンターで台の前に座り、千朗はぼんやりと画面を見つめていた。
画面の中では二次元のキャラクターが戦いあっている。手から放たれた光線で片方がふっ
とんだ。
(あいつ………)
思い出しだのは栗塚景斗だった。
初めて自分と同じような力を持った人間を見た。あいつは俺のことを仲間だと言った。
―――その力はそんなふうに使うもんじゃないだっし
あいつはそう言った。
あいつは自分の力をどんなふうに使っているというんだ。あんな力を持っているくせに普通の人間として暮らしているのか。
後をつけて彼の家に行った時のことを覚えている。
裕福そうな家、明るい照明。
のんきに犬なんか散歩させやかって。
あいつは俺と違って幸福なのか。あんな―――力を持っていて。
母親だって怯えている俺の力。
彼は何故学校にまで来たのだろう。
―――間違っている、力はそんなふうに使うもんじゃない―――
警告? 忠告? まさか……心配して?
仲間だから?
(仲間)
そうだ、あいつは俺を怖かっていなかった。俺の力にも対抗できる。俺はあいつを潰せない。
千朗は立ち上がった。
あいつに会いにゆこう。あいつなら俺の力をどうにかできるかもしれない。
会って、話を―――
「………岡本千朗くん?゜」
その時、背後から声がかかった。弾かれたように振り向くと、背広を手にした男が立っている。
「やあ」
「……刑事さん」
それは千朗を事情聴取し、その後花壇で話をした刑事だった。広い額に汗を浮かべて穏や
かな顔で見下ろしている。
千朗は糸の切れた操り人形のように、椅子に腰を落とした。
「探したよ。今日はさぼりかい?」