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恐怖

「ま、待ってくれ―――!」

 俺は悲鳴を上げた。自分が今どこにいるのかわからなかった。目を開けているのかどうかすらわからない。

 ガツン! と膝に痛みが走って、気がつくと夏月さんのそばに膝をついていた。全身からどっと汗が吹き出す。

「だめよ」

 夏月さんは静かに言った。

「まだ途中なの」

「も、もういやだ」

 汗だけじゃない。涙も筋を引いて頬を伝っている。

「もういやだ、もういい、もう知りたくない」

 父親に化け物と言われた時の千朗の心の痛みが、いや、痛みなどというなま易しいものではない。体がバラバラになるかと思えるくらいの衝撃だ。心に寒々とした穴が開いた。

(そんな違う。パパやママは俺を化け物なんて言わない。俺がどんな子供でも関係ないって言ってくれた。俺はパパとママの子供なんだもの)

 俺は必死に自分の両親の面影を探し出す。千朗の悲しみに押し潰されて、自分の親に与えてもらった暖かさが、優しさが、光が見えない。

(違う、ちがう、ちがうよ。パパ、ママ。俺はパパを憎んでなんかいないよ、ママに捨てられたりなんかしないよ……)

「聞きなさい!」

 夏月さんは逃げようとする俺の手を捕まえ、自分の方に引き寄せた。

「ほとんどの能力者は千朗と同じよ。君はたまたま運が良かった。前向きで息子を信じる両親に恵まれた。子供を化け物扱いしない両親だった。だけど一歩間違えれば君が千朗だったのよ。君が千朗だったの!」





 僕はおとうさんを殺した。

 あの夜、おとうさんに会った。

 偶然? おとうさんはおかあさんを探していたのかもしれない。僕たちは前にいた街からそんなに離れていないところにいたから探せばすぐに見つかっただろう。

おかあさんはまだ離婚していなかったんだから。

 そして僕はあの道でおとうさんに会った。

「おとうさん」と僕は言った。僕は嬉しかったんだ。おとうさんがこんなに僕ちに近いところにいることが。僕たちを迎えにきたんだと思ったんだ。

 なのに。

 おとうさんは僕を見て驚いて悲鳴を上げて手を振って


「寄るな、化け物っ!」


 おとうさん、僕はそんなつもりはなかったんだ。今までだって人に向けてその力を使ったことはなかったんだ。

 本当だよ、僕はそんなこと考えもしなかった。

 なのにおとうさん僕のことあんな目で見て。

 僕は怖くて悲しくて腹が立って自分が潰れてしまいそうだった。

僕は自分が死ぬと思った。

人間って悲しくても死ねるんだよ。

この目の前の、僕のことをこんな目で見る人をこの場から取り除かなければ、僕は死んでしまう。

 だから僕は。

 僕の力は。

 おとうさんを。

 取り除こうとした。

 おとうさんを

   つぶ―――

オトウサンを   つぶして  オト―――

 おとうさんを潰してしま         った―――





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