6.レベル5と葛藤
とうとうレベルが5になった。
追加されたメインスキルは【召喚ランク4:ピクシー】である。
召喚士の特徴として、レベル1の自動取得以外の召喚術はこうしてバラバラなランクのものがランダムで取得される。
====================
種族:ピクシー
攻撃力:1
耐久力:1
アビリティ:浮遊(宙に浮き、移動できる)
火魔法ランク3(ランク3までの火魔法を使用可能)
====================
ステータスは貧弱だが、アビリティの『浮遊』は『飛行』の下位互換であるものの有用だし、なにより『火魔法クラス3』がでかい。人間でいえばレべル10相当の火魔法を扱えると言うことだ。
ぶっちゃけ俺とか簡単に消し炭になるレベルだ。
いやまあ俺の場合、クロウにすら勝てる自信ないんだけど。
取得する召喚術の種類については、召喚士の絶対数が少ないため確証は得られてないらしいが、必要魔力が取得時の最大魔力を越えないという仮説はあるようだ。
実際、ピクシー召喚に必要な魔力は12、俺のレベル5での魔力は篭手の補正を合わせて18だから間違ってはいない。今後アカデミーに情報を売りつけることを考えると、このあたりもちゃんと記録にとっておかなければならないだろう。
サブスキルについては『魔法軽減』を取得した。
なんかレベルアップした時に確認したら、適正スキルにこれが生えていたのだ。
効果は『レベル×10パーセントの使用魔力軽減。数値切り上げ』である。
これを見た時の俺は大興奮だった。だって、召喚術って魔法カテゴリーなんだもの。
これがあれば魔力を最低でも1軽減できる。つまり送還に必要な魔力がゼロになったのだ。このサブスキルの最大レベルは5なので、育てれば最大で召喚術の使用魔力が半分になるのもデカい。
これ実質チートだろ(笑)、と思ったのだが、実際なかなかのレアスキルであるらしい。
かねてより予定されていた今後の税金納入プランを相談するためにレミリアさんに面談に行ったのだが、その時に報告したら彼女もだいぶ興奮していた。
具体的には、アカデミーで魔術を専門に勉強していると、このスキルの適正が生まれる可能性があるらしい。才能の無い人には決して出てこないスキルなので、俺には魔術の才能があるともの凄くアカデミー行きを勧められた。
とまあ、俺のレベルアップは非常にいいことづくめであった。
ただ、それに反して俺の気持ちは晴れない。
何故なら少しレミリアさんとケンカしてしまったからだ。
今後の税金納入……もっと深く突っ込めば成長プランについての面談で、だ。
■ □ ■ □ ■ □
「アカデミーに行ってください。必ず、あなたの役に立ちますから」
俺が魔法軽減のサブスキルを取得したと言った後の面談で、レミリアさんはそう言った。
「アカデミー、ですか。でも、あれって凄く遠いですよね」
「まあ……そうですね。その感覚は間違っていません。ここは月宗国島の南方、そしてアカデミーは王都、つまり北方樹海の最前線から数えても第二線、第三線の位置にあるわけですから」
この月宗国は縦長の三日月のような形をした島国だ。俺のいるツィーゲの街はその南方に位置するが、王都ストルスタッドはそのはるか北に位置する。
ここで少し説明しておかなければなるまいが、『大連邦』のある大陸も、この月宗国島も、北部には『大樹海』と呼ばれる地域があり、そこは魔物の楽園となっている。
奥地には人間にはどうしようもないような災害級の魔物が生息し、人間の生活圏と接する部分は多数の社会性の魔物の住処だ。こことの境界線を、長年の攻防の中でせめぎ合っているのが北方最前線。そこから人の足で一ヶ月もかからない所に王都ストルスタッドが存在している。
そしてそのストルスタッドは、このツィーゲから人の足で最低でも半年は掛かる場所にあるのだ。
「遠すぎます」
それが俺の率直な意見だった。
「それだけの労力を掛ける意味はあります。あなたの才能を考えれば」
「期待してくれるのは嬉しいんですが、俺にはまずやらなければならないことがあるんです。それは家族への支援です。ここに送り出してくれた家族に、どうにかなにか報いないといけない」
俺がこうして大変な思いをしつつのほほんと生活してる間にも、きっと家族たちは貧困にあえいでいる。それが俺にはどうにも我慢できないのだ。
「あなたは、口減らしのためにここに来たのではないのですか?」
レミリアさんの言葉は率直で、的を得ていて、それ故に俺の心をえぐった。
それは間違いなく事実ではあった。
「けど、俺は不幸になってなんていません。この街には実家を超える不幸はありませんでした。レミリアさんにも良くしてもらって、むしろ今を楽しんでいるくらいです。不本意なほどに……」
「それは、あなたの気の持ち様が良いからでしょう」
自然と顔を俯かせる俺に、きっぱりと彼女は答えた。
顔を上げると、キッと眦を上げたレミリアさんがいた。
「親から放逐され、それでも腐らずにいられるあなたの精神性を、私は評価しています」
「でもそんなの、底辺から立ち上がろうとするなら、当たり前じゃないですか」
「当たり前じゃないんですよ」
少し悔しげな苦笑を浮かべながらレミリアさんが言った。
「ギルドと契約するのは、にっちもさっちもいかなくなった人ばかりです。こちらがどれだけ言葉を尽くしても、悲観したり、現状の不満を口にする人は多いんです。決して、あなたのように前を向いている人は多くない……いいえ、最近のツィーゲの冒険者ではあなただけでしょうね……」
「そんな、でも」
「あなたを追い抜かして街を去って行った冒険者は、単純に無謀に見合う才能があっただけです。無茶をして命を落とした冒険者も同じことですよ。前向きに、こつこつと。ステータススキル法と言う強力な術を得て、そうできる人間はそうはいません」
俺は唇を噛んだ。
三十年に満たないとは言え前世を経て転生し、家族に恵まれた。それが今の人生を悲観せずに済んだ大きな理由だろう。けれどそれは今ここでレミリアさんに話すようなことではない。
こつこつ頑張ると言うのも、前世の習いを踏襲しただけに過ぎない。
俺に誇れるものは無い。そこまでは行かなくとも、ごくごく少ない。
そう思った。
だからこそ、俺は両親への報いを主眼に置きたいと考えたのだ。
誇れるものが無いなりに、役に立つのなら、身近な誰かを幸せにしたいと思うのはおかしいだろうか。
今辛い状況にあるならまだしも、少なくとも余裕すら生まれつつあるのだから、特にそう思う。だから、
「俺は、この近辺で行商をしてお金を稼ぎます。それでなんとか家族の生活を改善して見せます」
その答えに、レミリアさんは落胆したような表情を浮かべた。
「薬も簡単なのなら作れるようになりましたから。村々を巡って、埋まっていない需要を満たしつつ稼ぎますよ」
「私は! ……あなたは才能を伸ばせばもっと……色々なものを得られると思っているんです」
「すぐに得られなければ、俺には意味がありません」
「それはっ……」
反論しようとしてレミリアさんが口をつぐんだ。
これ以上は、確かに俺の実家がどういう状況なのかを良く知らなければコメントのしようがないだろう。
俺はそこまで詳細に話すつもりは無いし、それを悟ったレミリアさんは、いつもの強気な口調はどこへやら、そのまま押し黙ってしまった。
「最低限、冒険者としての義務を果たすくらいには討伐クエストを受けますよ。それにお金が集まってきて、根本的に家族の生活が改善できたら、レミリアさんの意見も参考にさせてもらおうと思ってます」
俺の言葉にも、レミリアさんは黙ったままだった。
……無理もないか。
貧農の生活を改善するなど、生半可なことではできない。それに至るまで、どれほどの金と時間が必要なのか。どれほどの努力が必要なのか。
想像するだけで胸やけがするぜ、まったく。
そうした時間の消費を彼女は許容できていないのだろう。
彼女は真面目なギルド受付嬢だ。彼女なりに最善の方法を提示したはずが、予想外の反論に対しての言葉が見当たらず、何か対応策は無いかと考えているのだ。
まあどうしようもないだろうとは思うけどね。
だってこれは俺の感情論から来ているのだから。しかも割と根源的な感情論だし。
そんなものを論破できる根拠なんて易々と見つかるものではないだろう。見つけられても困るが。
「じゃ、俺の返済プランはそんな感じで。多分、問題無いはずですよ。期待しててください」
そう言って、俺はギルドを後にした。レミリアさんからの返答は無かった。
■ □ ■ □ ■ □
そこから、俺の怒涛の金稼ぎが始まった。
……あ、嘘です。現実は地味な薬草採取と、調合、売り歩き。体力の使う作業ばっかで割と地道でした。でもまあとにかく、行商を始めるための元手づくりを着実に行った。
レベルは上がってないが、召喚魔ピクシーの能力も討伐クエストを受けがてら確認しつつ、召喚術の熟練度も上がってきている。
途中、前に声を掛けてきた貴族っぽい青年(名前はジュリアス、貴族っぽいじゃなくガチ貴族らしい)にクエストに誘われたのをすげなく断りつつなんて一幕もあった。今は雌伏の時とか言ったら最前線で待ってるとか返され、返答に困ったものである。
レベル5から6への必要経験値は300。
相変わらず必要経験値の伸びが方がヤバかったが、まあ40日くらいで次に上がる計算だ。俺自体は新たに危険な場所に赴くわけではないので問題はない。
実はこの時点で、ツィーゲの街近辺で行商を始めることについて、俺の中に葛藤が生まれつつあった。近い未来の利益のために、遠い未来の展望を投げ出していいのかという葛藤だ。
レミリアさんにはあんなに偉そうに、アカデミーには行かないことを言ったにもかかわらず、この体たらくである。ただ前世で大した才能にも恵まれてなかったこともあり、才能才能と言われて少し気後れしていたのが本当のところなのかもしれない。
俺は本当にこのままでいいのか。
いやこのままでいいんだ。
そうした問答を心の中で繰り返しつつ、レミリアさんともこれといった会話をしないまま、金稼ぎの時間が過ぎていく。
そしてそうこうしている内に、順調にまとまった資金が溜まり、俺は行商のスタートとして実家のある村に向かうことになった。
アップ忘れてました




