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3.出会い


 さて、レベル5を目指す。

 そう決めたはいいが、色々と情報収集し、考えなければならないだろう。


 なぜなら他の戦闘職のように、小細工で魔物を殺してレベルアップ、なんて芸当ができない。そこらに歩いてる冒険者のノウハウがあんまり通用しないのだ。


 そう言うわけで、午前は日銭稼ぎ、午後は情報収集か資料室での調査と言う生活を送っている。

 宿はギルドの雑魚寝部屋で食事も最低限だが、こちとら貧農出身である。大変だが耐えられないほどじゃない生活だ。問題は日々わずかずつだが溜まって行く小銭だが、これはレミリアさんが解決してくれた。


 なんと、ギルドで寝起きする間は内緒でお金を預かってくれると言うのだ。まさに天使である。


 手放しで喜ぶと他人を信用し過ぎるなと諌められたが、レミリアさんの申し出が完全なる善意であることは分かり切っているので大丈夫だ。というか俺が預ける小銭くらい、彼女なら一日で稼いでしまいそうだし。泣ける話である。




 ■ □ ■ □ ■ □




 二週間ほど立ったが、レベルはまだ2のままである。

 レベル2の俺の魔力は7で、相変わらず経験値獲得のための召喚サイクルは一日一回のまま。そのうえ必要経験値が20と四倍になったせいだ。


 ただ、それ以外の進捗はあった。

 色々と調査した結果、方策が立ったのである。


 ヒントは賦活化した装備によるステータスの増加である。


 要するに、魔力のステータスがある装備を購入し、魔力を底上げして外的に召喚の使用回数を増やそうと言うのだ。

 この装備による魔力底上げは、レベル上げ以外にも単純に召喚士としての力量(つまり召喚数や召喚回数)に直結してくるので、今後ずっと先を含めた方針と言っても良いだろう。


「問題は値段だな」


 賦活化した装備は高い。ステータススキル法の触媒を、多少なりとはいえ使っているのだから当然だ。


 ただ、その中にも「魔力のみ1ポイントのステータスを持つ」など、非常に質の低い装備もある(いいやつはもっと複数、もっと高いステータスを持っている)。

 そう言ったものは他と比べても安いのだ。もちろん、あくまで他と比較しての話だが、今の俺でもすこし背伸びをすれば手に入るレベルだ。


 戦闘職の冒険者は魔力以外のステータスも重視するからか、そこまで質の低い装備は売れ残りがちである。値崩れした瞬間を狙えば、今の手持ちでも一つ購入できる。

 そうなれば俺の魔力は8になり、一日二回の召喚が可能になるのだ。


 そして今日も今日とて、俺は賦活化装備を置いている商店に足を運んだ。

 最近張り付いて値段を調べている最も品揃えの良い店に顔を出し、商品を物色する。


「さて、今日の値段はどうかな……?」


 『低品質装備』と銘打たれた棚にあるものを一つ一つ見ていく。

 

 値段よっ、下がれっ!


「あ」


 あった。マジで。今の手持ちで変えるやつが!

 モノは篭手こてだ。両手分ではなく、右手だけである所が賦活化装備らしいところである。


 賦活化装備は、装備それぞれに宿るステータススキル法が干渉し合うらしく、両手足、体幹、頭の六か所にしか装備できないという仕様がある。例えば剣の賦活化装備を右手で持っている人は、この右篭手の賦活化装備を身に着けても意味がないのである。


 だからこうして、篭手の片方だけ売れ残るなんてことがあるのである。

 そのおかげで値崩れして俺が買えたのだから仕様サマサマだろう。


「よーし! よしっ!」


 ガッツポーズして店を後にする。

 変な人に見られたかもしれないが、構わない。

 方針が決まって、それから十日と待たずに第一歩を踏み出せたのだ。

 こんなに早く入手できるとは思っておらず、自分の運の良さにテンションが上がるのも仕方の無いことだろう。


 一日二回の経験値取得を開始し、俺はその数日後、レベル3へと上昇した。




 ■ □ ■ □ ■ □


 


 改めて見てみると、最初と少しステータスウィンドウが変わっている。

 今の俺のステータスは下の通りだが、適正スキルや装備の項が増えているし、サブスキルの記載もパッと見良く分からない感じだ。



================

名前:レイモンド

年齢:十五歳

性別:男


レベル:1  → 3

体力 :20 → 28

魔力 :5 → 10(+1)

力 :10 → 11

防御 :7  → 8

速さ :6  → 7


クラス:召喚士

アビリティ:学識

メインスキル:召喚ランク1【クロウ】

サブスキル:狩猟学レベル1/3、薬学レベル1/3


適正スキル:生物学、魔力増強、目利き


装備:皮の篭手(魔力1)


次回レベルアップまでに必要な経験値: 0/40

経験値取得条件:召喚回数×召喚ランク

================



 まずサブスキルだが、これは「現在レベル/最大レベル」という表記らしい。マックスになると★になるとのこと。資料で読んだだけなので実物は見たことないが。


 次に適正スキルは、今回「目利き」が増えたように俺の行動(商品を見て回る)によって追加されていくものもあるようだ。

 ただサブクラスの数がレベル1で三つ、レベル3でさらにもう一つという増え方はかなり珍しいらしい。「目利き」自体もレアスキルではあるみたいだが、レミリアさんによると適正スキルの増え方が尋常じゃないのだと言う。

 アビリティ「学識」の効果とか色々推測はしているが、今のところ原因は不明である。俺が転生者からかも知れないし、何とも言えないな。


 これに関して、レミリアさんは興味を持ったのか、俺のスキルの状態を記録してアカデミーに売りつけたいという申し出があった。俺にはアカデミーなぞとコネもないし、ただ記録していくだけで金になるなら儲けものだ。

 二つ返事で了承し、そうして俺は将来的に得られる収入と、ついでに恒常的にレミリアさんと話ができる口実を手に入れた。

 レミリアさんは人気の受付嬢なので、嫉妬民が増えそうな感じだ。


 あと装備だが、これは賦活化装備のみが表示されるらしい。

 俺の今の装備は、村人の服、皮の靴、マント、短槍、篭手(魔力1)である。ステータスウィンドウには篭手しか表示されていないと言うことだ。




 さて、こうして少しずつ前進しつつも、俺の生活は基本的に日雇労働とギルドを往復するだけだ。

 そうこうしている内に戦闘職の冒険者はどんどん姿を消して入れ替わっていっているが(死んだのと強くなって街を出て行くのが理由だ。割合は知らない)、あんまり焦りはない。

 

 クルッポー(召喚魔クロウの呼び名)の使い方もちょっとずつ練習し始めてるし、次のレベルまでの必要経験値は減少している。

 コツコツ進めていれば、進まないことなど何もないのだ。

 それが目に見えるか否かはモノによるとは思うが。


 そんな生活をしている折り、大体この町に来て一ヶ月程度が経ったころだろうか。

 レベル4も目前と言う時である。


 俺はある男に声を掛けられた。




 ■ □ ■ □ ■ □




「ねえ、君」

「ん?」 


 俺がいつものようにランク外クエスト(冒険者の義務に含められないものをそう呼んでいるらしい)を選んでいると、後ろから肩を叩かれた。


「誰だ……誰ですか、あなたは」


 振り返ると、貴公子然とした青年が立っている。

 よく見る冒険者とは違うので、慌てて敬語で言い直した。


「敬語はいいよ。僕も冒険者だしね」

「そうな、のか?」


 冒険者には全く見えないが。


「僕は契約に縛られていない方の冒険者だよ。だからと言って、ギルドに所属しているのだから君らと立場はあまり変わらないさ」


 ああなるほどそっちか。

 彼は自身の(あるいは家の)財力でステータススキル法のための触媒を準備できる人間と言う訳だ。


 冒険者というのは、ギルドとの契約を元にした底辺の人間が大多数を占めている。

 その一方で、彼のように自身で触媒を準備できる金持ちもいるし、中流以上でも契約以外の制度を使ってステータススキル法を使う人間はいる。


 ただ、そう言う人というのはあまり多くはない。

 なぜならステータススキル法には「レベルを上げないと身体能力が上がらなくなる」という仕様があり、そのくせ老化にあわせて能力が下がると言うデメリットがあるからだ。

 さらに多少例外ではあるが俺のようにレベルが上げにくいクラスだってある。

 ステータススキル法は超人にもなり得る術だが、結局そのための努力は必要だ。得られるクラスは多くが戦闘系であるため、護衛の兵を雇ったり楽にレベル上げできる財力や立場が無ければ、世間の認識は「試しに手を出すような代物ではない」というものなのだ。


 つまり冒険者といえば底辺の荒くれか、戦いの才能のある英雄候補。そういう風に捉えられている。

 そして彼の場合は後者ということだろう。 


「そんなに怪訝そうな顔をしないでくれよ。立場は同じと言ったろ? 同業の冒険者に興味を持つのだって、無いことじゃないだろうに」

「まあ、うん。そうかもね」

「それで、君は何故ずっとランク外クエストを受けているんだい? 同じ時期にギルドと契約した人たちは、もう何回も魔物を狩ってきているのに」

「うーん」


 少し考える。簡単に話しても良いものではないだろう。

 それに、貴重な魔術触媒を自分で用意できるような立場の人と関わり合いになるのも、良し悪しがあんまり判断できない。


 そう思って、こう口にした。


「お金くれたら、詳しく話しても良いよ」


 お金がもらえらたらそれでいいし、金銭の関係と言う、ある種防壁のようなものができる。仲良くする気はないですよー、という意思表示でもあった。


「貴方っ! さっきから聞いてれば真面目に話も聞かずに! お金まで要求するなんてどういう了見ですのっ!」

「ベルナデット……」


 と、そこで少し離れたところにいた女の人が突如カットインしてきた。

 青年の対応を見ると知り合いらしい。他にも二人ほど男女が連れ立ってやってくる。

 後ろいた人たちはツレだったのか。絶妙な遠巻き加減だから分からなかった。


「そう言われても事情を話すならステータス関係のこと話すことになるから、良く知ら無い人にタダではちょっと……」

「受付の娘には色々話しているみたいじゃない」

「彼女は元々そう言う立場だろ? それに、彼女とはステータス絡みでお金にする算段をしてるんだ。あんたらには余計に話せないよ」


 女の人はさらに何かを言い募ろうとしたが、青年が押しとどめる。

 こういう女の人は苦手だから、少し助かる。


「ベルナデット、それくらいで」

「でも!」

「良く考えたら彼の言う通りだよ。ステータス関係は冒険者のメシのタネだ。言いたがらないのも分かる」

「そんな汚い言葉遣いしないで! もういいわ、貴方が良いならそれで!」


 プンスカしながら、ベルナデットさんが遠ざかって行った。

 ギルドから出るのじゃなく、少し離れたところで立ち止まって待っている辺り、ちょっと可愛らしい行動だ。

 彼女の性格は苦手な部類だが、ちょっと和んだ。


「すまないね」

「いや。俺も露骨だったよ。でも警戒心も理解してくれると助かる」

「そうだね。でもそう言ってくれると言うことは、完全な拒絶ではないのかな?」

「まあ、おいおいな。今は仕事優先だ」

「うんうん、了解した。じゃあ、また」


 手を振って青年は去って行った。結局名前聞いてねーし。

 なんか芝居がかった人らだったから俺の口調もつられて変な感じになってしまった……。


 まあ、良いか。

 変な奴そうだが悪い奴じゃなさそうだしな。


 目立つ奴らだから、評判を後でレミリアさんに聞いとこう。


 と言うか物語だとあれかな。

 「彼との出会いが後の運命を左右することなど、今のレイには知る由も無かった」と言うやつなのかな。俺が稼ぎまくって家族の生活を改善するまでは、厄介ごとはやめて欲しいものだ。やっぱり完全に拒絶すべきだっただろうか。


 そんなことを考えながら、俺はクエストへと向かった。




 ■ □ ■ □ ■ □




 レベルが4になった。

 順調だ。


 篭手の補正をあわせて魔力が13になり、召喚と送還のサイクルを一日三回できるようになった。レベル5への必要経験値が90なので、大体あと一ヶ月で目標達成である。


 選んだサブスキルは生物学だ。目利きは次で習得する予定になっている。だって今すぐ必要なのって、商品を見分けることじゃなくて知識を覚えることだからな。

 逆に言えば外に出るようになる(予定の)レベル5以降は、使う道具を揃えないといけなくなるから目利きは役に立つだろう。順番は大事だ。


 そういえば、あれからあの変な青年からのコンタクトは無い。

 ベルナデットさんとはギルドでばったり会ってしまって気まずい感じになったが。

 その時のベルナデットさんはもの凄くまごまごしていた。性格はきついがリアクションは可愛いものだ。初対面がアレだったが、彼女もまた悪い人ではないのかもしれない。


 ちなみに彼らは、やはり貴族絡みの人たちらしいとのこと。

 レミリアさんに聞いたのだが、忠告とかは無かったので、あんまり問題のある人らではないのだろう。

 次に会ったらもう少し優しくしてやろう。同業の冒険者に対する程度にはだけど。



 レベル4になるまでに、少し新しいことも始めた。

 それは薬学で薬を作ることだ。


 ほとんどの薬にはいくつかの道具が必要なので無理だが、資料を調べ上げ薬屋にも突撃した俺に隙は無い。道具をそろえ、すでにその辺の雑草レベルの材料と、瓶詰にして発酵させるだけでいい超低品質回復薬の作成を開始している。

 これだけなら民間療法でもやってるかもしれないと言う程度だが、これに魔力を通しつつ煮て、煮汁を抽出したら超低品質回復ポーションになる。もうちょっと特殊な材料があれば店で売ってるような低級ポーションにもできる。


 ポーションはその保存性と即効性が他の薬態より優れていて、ちょっとした値段で売れるから俺の新しい収入源になりそうな感じだ。

 収入が増えれば賦活化装備を揃えられるし、魔力を底上げできてレベル上げがはかどる。レベルが上がればやれることが増え、さらに収入が上がる。

 このサイクルだ。


 上手く回り始めるまで、もうひと踏ん張りだな。



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