11.発端
俺のクエスト消化は順調に進んでいる。
戦う相手はグローラビットとか、オオアブラムシとかだ。
このレベルの魔物は冒険者能力を持っているとそこまで強敵ではないのだが、一般人にとっては十分危険な相手である。数も多いからクエストの依頼はほとんど常に出ている。
俺にとっては丁度いい難易度なので、俺はラルドフィーネ周辺のフィールドを確認しがてら、こいつらと戦いの日々を送っていた。
まあ戦いっつっても、ほとんどピクシーさんが燃やし尽くすだけなんだけどね。
オオアブラムシなんかは名前に違わずよく燃えるんだこれが。
ところで、魔物からは魔晶石と言うものが取れる。
この魔晶石の納品は、ステータススキル法に使った触媒の費用返済方法の一つだ。
いちおう俺は主にお金で返済するつもりでいるのだが、こうして訓練がてらの魔物討伐で得た魔晶石もちゃんと返済に充てている。
これによって今年中に返済すべき金額は少しずつ減っているのだ。
まあ全体で見れば一割くらいだけど、減っていると嬉しいものである。
「今回の魔晶石です。査定をお願いします」
「おう、任せときな」
狩りから戻った俺は五つの小さな魔晶石を台の上に載せた。
受付のおっさんがそれを受け取り、なにやら魔法陣に載せたり、虫眼鏡みたいなので調べたりして査定が行われる。
「グローラビットが三に……ええっとオオアブラムシが二だな。間違いないか?」
「はい」
「じゃ、銀貨五枚と銅貨が三十だな」
俺はおっさんの差し出した貨幣を受け取った。
移動と狩りを合せて丸一日仕事だったが、やっぱり最底辺の肉体労働よりは稼げるな。
それに実際のところとして、薬売りの行商よりも稼げていたりする。
ただクエストの場合、ギルド経由で受けることが必須なので腰を落ち着ける必要があるのがネックだ。
アカデミーと言う目的地がある俺にとっては行商でお金を稼ぐ方が有効だろう。
「……しかし、お前さんならもう少し奥に行って強めのヤツを狩るなり、多く狩るなりできるだろうに」
おっさんはそう言って、何かの帳面に書き付けをしながらこれみよがしにため息をつく。
まあ彼の言いたいこともわからんでもない。
ピクシーさんがレベル10の冒険者相当の火魔法を使えるから、それ基準で考えるともっと強い相手とも戦えるはずだ。
ただ、そうしない理由はある。
「まずもって俺が戦闘に向いてないですからね。それに魔力を浪費して経験値取得が遅れるのも嫌ですし。余った時間を勉強や情報収取に充てれるってのもあります」
と、言う訳だ。色々やることがある身は大変でね。
自分で望んだことだから辛くはないが。
もう一度ため息をついたおっさんに「それじゃ」と一言残し、俺はギルドを出た。
「さーて、レベル6になったし元手も貯まりつつあるし、そろそろ次の街に行くかなぁ」
伸びをしながら、そんな言葉が口をつく。
このギルドで登録してから二週間ほどか。
俺はあの後すぐに魔力プラス1の賦活化装備を二つ購入した。
魔力を底上げしたことによる経験値蓄積速度の上昇は微々たるものだったが、悩んでいるくらいなら買ってしまう方が良いと言う結論に落ち着いたのである。
あの時はテンションに任せた部分もあるとは言え、後悔はあんまりしていない。
だって遅かれ早かれ買うことにはなっていただろうしな。
レベル6になって、魔力はぐんと10ポイントの伸びを見せ、賦活化装備を合せて最大魔力が30となった。
サブスキルは当然魔法軽減のレベルを1上げ、さらに10パーセント使用魔力を軽減している。
クロウの使用魔力は据え置きだがピクシーの使用魔力が更に1ポイント減った形だ。
最大魔力の上昇とあわせてピクシーの二体同時召喚が可能になり、火力が増大している。
次の必要経験値は600。
一日に召喚できるクロウの数が十五羽=経験値15ポイントなので、単純計算四十日かかる計算だ。
この調子なら必要経験値の伸びを加味しても、アカデミー到達までにレベル10は行けそうな感じだ。
「よーし、予定より早いけど次行くか!」
早い分には問題無いだろう。
それにしてもこの街では大した出来事が無かったな。
賦活化装備の値段はツィーゲとそう大きく変わるわけでも無かったし。
それにレミリアさんの指導のもとみっちり勉強してきただけあって、資料室からもめぼしい知識得られなかった。
まあ地理とか街の成り立ちとかその辺は面白かったけどね。
下水を作る時の大規模紋章魔法の話とか大変興味深かったです。アカデミーで習ってみたいと思うほどに。
でもそんくらいだなぁ。
旅の道中も事件なんてなくほほんとできてるし、今後もこんな感じなのかな?
そうならさっさと王都まで行ってしまおうか。
それがいいな。
と、旅の準備のために意気揚々と市場に向かった俺は、まったく考え違いをしていた。
旅が予定通りに進むことなんてないのだ。
旅が好きな人はそれが醍醐味、なんて言うだろうし、俺にだって何が起きても無事に旅を完遂してやろうと言う気概はある。
けれどそれが起こったその時は、わが身の不運を大いに呪ったものだ。
そう言う事件に、俺はこのラルドフィーネを出て少ししてから遭遇することになった。
■ □ ■ □ ■ □
関所街から少し行ったところの、寒村で俺は今日も元気に薬を売っていた。
「まいどー」
月宗街道からは逸れた場所にあるが、等級外ポーションの需要的にはやはり軽い傷を作りやすい旅人や農民が最も良い商売相手であることは間違いない。
あんまり海千山千の商売人とやり合うのも面倒だしな。
「さて、今日はこの辺にするかな」
「ご苦労さんです」
俺が広げた薬類を仕舞い始めたところに、村の村長さんがやって来た。
「いや、こん度はお世話ンなりました。ウチでささやかながら食事をごちそうさせていただくンで、ぜひ来て下さりませんか」
村長さんがにこにこしながら、片付け終わり立ち上がった俺の背を押す。
この村に俺が到着した時、この村にはちょうど良くない病気が流行り始めていた。そこに俺が薬を売りに来て、非常に村の助けとなった。それが村長さんの言う「お世話」の内容である。
症状を聞いた感じだとエニ風邪と言う虫を媒介にした病気みたいだった。
病状はそう重くないが、普通の風邪薬みたいなのだと治癒までに時間が掛かるやっかいな風邪だ。
特にこういう村だと働き手が少しずつ減り、そのくせ空気感染で病気が蔓延していくから、ほっとくと割とまずいことになる。
前回の収穫であまり余裕ができず、薬の備蓄が作れなかったのも良くなかったようだ。
月一回の行商が次に来るまでまだ期間があってどうしようかという時に、俺が来たそうである。
まあ俺って他の商人の販路とか全然気にせず村とか街をまわってるからな。だって隙間産業な商品(等級外ポーション)が主力だから、かち合ったところで住み分けできるし。
そう言うわけで、図らずも村人を救った俺は、村全体の恩人となったのである。
村長さんから夕餉のお誘いを受けるのもそれが理由だ。
「遠慮なくご馳走になりますよ。ありがとうございます」
「お礼を言いたいのはこっちの方です。今回はよう来て下さった。恩人にこんな寒村の料理じゃ、なんぞ申し訳ない気もしますが」
「俺も農村出身なんで、お気になさらず。むしろこの辺りで食べられてるものに興味がありますね」
「おお、そりゃ良かった。今日の料理は、この辺りでしか取れない珍しいキノコのスープがメインですよ」
なるほど、そりゃ楽しみだ。
こう言う地産地消の食材って意外とおいしいもんがあったりするらしいからな。ツィーゲのギルドの資料室にあった「マートル旅行記」にそう書いてあった。
「じゃ、行きましょう」
俺と村長さんは連れ立って彼の家へと向かった。
彼の家では、奥さんの作る意外と味の整ったスープに舌鼓を打った。
固焼きのパンを浸すとよりおいしい。
辺鄙な場所にある村だが、意外な名料理人がいたものである。
「ふう、ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
「……そう言えば、レイさんはラルドフィーネ経由でこちらに来なすったとおっしゃっとりましたな」
村長の言葉に頷く。
食事中の雑談で来歴やらを結構聞かれたのだ。
俺も身元がしっかりしてるのを証明するように、どこの出身で、どこ経由でここまで来たかそこそこ詳細に語った。
まあ話終わって聞いてみれば、単純に興味があったとのこと。たぶん娯楽に飢えてるんだろう。
「そうですよ。思っていたより起伏の多い道で大変でした」
「はっはっは、まあこの辺りだと商人さんが使う道を少しそれると、深い森と高い山に入って行くことになりますからな。その延長線で、のぼりや下りのある道筋になっとるんでしょう」
「たしかに、道中高い山も見えましたね」
この月宗国は三日月形の国土を持っているが、その内側、『大連邦』側に山々が連なって山脈を為している。
日本での知識がある俺は、この月宗国の国土と大連邦の国土は長い年月で衝突と分離を繰り返していて、それでこの山脈ができたんじゃないかと睨んでいる。
まあ、資料室にはそんな情報どこにもなかったけど。
この山々に住む人々もいるらしいが、さすがにそれは最辺境とも言うべき土地になるので、この旅ではそこまで足を延ばすことは無いだろう。もしかしたら一生いくことは無いかもしれない。
「途中、道のそばに大岩があるのを見ましたかな? 真ん丸い岩です」
俺が山に住む人に想いを馳せていると、村長さんが唐突にそう言った。
「うーん、あったような気もしますが、あまり覚えていません」
「そうですか。ではここから月宗街道に帰る途中、大岩を見つけたらその裏を探してみてください。遺跡へ通じる道があるはずです」
「遺跡? 遺跡って、先史文明のやつですか?」
「そうです。何度か王都から偉い先生がいらっしゃって、案内を出したこともあるんですよ」
「へえ、こんなところに」
先史文明とは、むかしむかしにステータススキル法を開発した建国者たちの、そのまた昔の人々が形作っていた文明のことである。
現在ではすでに遺跡としてしか残っていないが、結構な魔法文明だったらしく、王都の学者先生たちの中には有用な技術を探して遺跡を調査する人もいるらしい。
まあ本当にそんなものがあるのかは不明なので、そうしたいわゆる考古学者のことを遺跡漁りと揶揄したりするみたいだが。俺は夢があっていいと思うけどね。
「それで、その遺跡に何かあるんですか?」
俺の問いを受けて村長さんが頷いた。
そりゃあるだろう。学者でもなんでもない、冒険者かつ薬師かつ行商の俺に行かせようとするんだから。
「案内をした者……というか私なんですが、遺跡の周辺に薬草の群生地ができてると学者さんがおっしゃってたのを聞いたンですよ。なんでも魔力が多いからだとか、そんなことを言っとりましたな」
「なるほど、それで俺に」
「薬も安くでたくさん売ってもらいましたし、こンくらいしかお返しできる術を思いつかんかったのは心苦しいンですが……」
まあだいぶ在庫を放出してしまったからなぁ。後で聞いたら全滅してましたとかだと寝覚めが悪いから、ポーションもその他の薬も利ざやギリギリで売ったし。
「まったく危険の無い場所というわけでもないですが、冒険者でもあるレイさんなら、問題無いでしょう。……いやほんに、こンくらいしかお返しできず申し訳ない」
「いいんですよ。薬もタダで売ったわけじゃないですし、もしかしたらレアな薬草の群生地かもしれませんしね」
そうなったらウハウハだな。
レアな薬草の群生地とかどんだけの金になるか想像もできない。できれば俺が調剤で使えるレベルの薬草だったらいいんだけど、そうでなくても結構なお金になるはずだ。
村長さんとしても、そんな場所には危なくて人を出せないから知ってても有効活用できなかった情報なんだろう。俺にとっては多少森に入るくらいそこまで危険はないし薬草の知識もあるので、これはちょうどいい落としどころだと思う。
というかこれ以外の方法でこの村からお礼貰ったら、まじでこの村全滅しかねない。
今はもうとにかく生き延びてくれと言いたいくらいだ。
と言うことで俺はその遺跡とやらに行くことを決め、ちゃっかり村長の家に泊まった後、翌朝村を出るのであった。




