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1.第一の旅立ち

 異世界へと転生してから十五年。

 俺は成人と相成って、村を出ることになった。


「ほんとうに、すまないねぇ」

「もう謝らなくていいって。ウチの家計を思えば、街に行くお金を工面してもらっただけ御の字だよ」

「でもねぇ」


 母さんが気の毒そうに俺を見る。


 本来なら農家で成人となれば、土地を分けて独立する立場だ。

 しかし俺は農家の三男坊で、その上ウチは中々の貧農である。

 分ける土地もなく、大の大人を養うには辛い状況なため家を出ることになったのだ。

 兄貴が二人いて男手が足りてるのも大きい。


 街までの馬車代は出してもらえたが、そこからは完全に身一つからのスタートになるから、大変だろうし苦労も多いだろう。


 ウチの母さんはそんな俺を憐れんでくれているのだ。


 しかし、対する俺の気持ちは、そう暗いものではない。

 体一つで自分を養うと言うのは、割と充足感があるものである。前世のことで、多少は実感としてそれを知っているのだ。


「レイ……」


 今度は父さんが悲痛な眼差しを向けてくる。

 そんな顔をしないで欲しいんだけどなぁ。

 あなたたちは立派に俺を育ててくれた。お金がないなりにウチの家族には愛情があったし、貧農の三男坊が家を出るのは当たり前だ。他の家だってみんなやってる。それを割り切って受け入れられるくらいには、もう俺はこの世界の住人なのだ。


「大丈夫だって。……じゃあ、もう行くよ。上手くお金が稼げるようになったら、仕送りとかするから」

「そんなことは考えなくても良い。達者でな」

「元気で……」

「うん」


 十五年付き合った家族との別れには相応の名残惜しさがあったが、俺は軽く手を振って出発した。




 ======




 三日ほどたって、街に着いた。

 ツィーダという街だ。


 早速目的地に足を向ける。


 目指すは冒険者ギルド。この世界には魔物と言う存在がいて、その対抗組織である。

 ファンタジーでありがちな、メリットが多かったり逆にやたらブラックだったりする組織ではないのだが、身一つで生活するならとりあえずここに頼るのがこの世界の常識だ。


 これは村に来た商人にしつこく付きまとって聞き出した情報である。あの人には色々お世話になったし、もしこれから出会ったら何かお礼でもしないといけないな。


 少し歩いてギルドの施設にたどり着く。

 中に入り、まっすぐ受付に向かった。


「いらっしゃいませ、登録ですか?」


 受付に居たのは、事務的な口調だが村では見かけないレベルの美人であった。


「はい、お願いできますか」


 俺は多少たじろぎつつも、おくびにも出さずに対応する。

 転生を十五年隠し通したペルソナには自信があるのだ。


 ……いやまあ、村ではちょっと賢い変な子供という扱いだったので、隠し通せてないと言えば隠し通せてないのだが。


「ではこちらにお名前を。文字は書けますか?」

「大丈夫です」


 さらさらと名前を書く。

 実はこの世界、日本語が「共通語」と呼ばれ使われている。しかもひらがなカタカナ混じりの現代風日本語だ。初めて文字を見た時は目を疑ったが、なんか世界の国々の成り立ち的にそうなったらしい。

 今俺がいるのは「月宗国げっしゅうこく」という島国なのだが、海向こうにある大陸の国「大連邦グラン・ユニオン」には、もしかしたら中国とか欧米みたいな文化圏があるのかもしれない。


「契約はどうなさいますか?」

「それもお願いします」

「では多少血をいただくことになります。手を出していただけますか?」

「え?」


 血を取られるのは知っていたが、受付嬢さんがやるのは予想外だった。

 ……マジなのかよ。


「血をとり慣れていない人だと、後を引く怪我になってしまいますから。この皿の線のところまで必要なんです」


 サイズは小さいが思ったより深い皿だな。

 おちょこみたいなのに数滴だと勝手に思っていた。


 しかし俺はそれもおくびに出さず、さっと手を差し出す。

 ペ、ペルソナには、自信があるのだ。


「お、お、お願いします」


 すみません嘘です。自信は粉々に打ち砕かれてしまいました。

 めちゃめちゃ手に力が入ってプルプルしてしまう。

 注射される直前の小学生並みだ。


 受付嬢さんは俺を見て、微笑ましそうに笑みを浮かべている。可愛い。


 ……可愛いが、それより血だ。ナイフだ。

 ナイフが! 手に! 手に!


 あ、あ、あああああああああああああ!


 あああああ……!


 あ……。


「……はい、終わりです」

「あ、ありがとうございました」 


 俺の心の慟哭とは異なり、さっくりと血液採取が終わった。

 傷を付けられた親指の付け根に軟膏を塗りたくられる。受付嬢さん、指、細いね。


「では、これより契約を開始します。契約をいたしますと、この先規定金額の納入ないしは、規定数量の魔晶石の納品が義務付けられます。これを満たせない場合、一級犯罪者となります。規定金額等の査定はこの後実施致します。査定後の契約解除も可能ですが、その場合査定にかかった費用はご負担いただく必要がございます。……問題ございませんね?」

「はい」


 契約の主な部分を読み上げる受付嬢さんに頷き返す。

 細かい部分も問題ない。


 査定と言うのは、ステータスウィンドウをひらけるようにしてからの確認作業のことだ。

 この世界においては、ステータスウィンドウは「ステータススキル法」という魔術で潜在能力を賦活化アクティベーションしないと開けない。この魔術にはそこそこ貴重な触媒を使用するため、賦活化アクティベーションは有料かつ高額だ。少なくとも貧農出身の三男坊には逆立ちしても払えない金額が必要となる。


 そんな俺でも賦活化アクティベーションできるのが契約のメリットだ。全く元手がいらず手に職を付けられるというのはずいぶん大きいと思う。

 一方デメリットとしては、受付嬢さんの言葉通り規定金額ないしは魔晶石の納入が必要になることだろう。これは通常の税金とは異なるもので、要するに契約者=重課税労働者ということだ。


 追加の税は、ある程度能力に応じたものにはなるが、ステータススキル法に必要な触媒を丁度ひとり分くらい捻出できる額となるらしい。この政策で、国は少しずつ国民の賦活化アクティベーションを進めている。契約者が無茶をしてすぐ死んだりするので一進一退ではあるらしいが。


 ちなみにかなり昔には国民総賦活化アクティベーションとか言うのもやっていたらしいが、資源産出量的に現実的でなくその政策は頓挫していたりする。


「では契約します」


 長々と考えにふけっている間に準備が済んだらしい。

 受付嬢さんは取り出した羊皮紙に描かれた魔法陣に俺の血をたらし、中心にちょこんと小石を乗せる。あれが触媒だろうか。


 そう思ったのもつかの間、魔法陣が光り、血と小石(魔石?)が羊皮紙に吸い込まれていった。


「これで完了です。では続いて、ステータス、とおっしゃってみてください」

「ステータス」


 シュピン、と気の抜けた音と共に半透明の窓が出現する。

 と同時に、受付嬢さんが水晶玉を取り出した。


「ステータスを確認する魔道具です。基本的に、他人のステータスは見れませんので」

「へぇ」

「では、見ていきましょう」



===============

名前:レイモンド

年齢:十五歳

性別:男


レベル:1

体力:20

魔力:5

力:10

防御:7

速さ:6


クラス:召喚士

アビリティ:学識

メインスキル:召喚ランク1【クロウ】

サブスキル:なし


次回レベルアップまでに必要な経験値:5

経験値取得条件:召喚回数×召喚ランク

===============



「なるほど」

「なるほど」


 二人して同じ言葉を呟く。

 これは、中々面白そうな予感がする。


「中々面白いですね」


 受付嬢さんも同じ意見のようだ。可愛い。


「まず召喚士が珍しいクラスです。あまり強いクラスではないですが、きちんと鍛えればアカデミーが情報を買い取ってくれるかもしれません。それから……」


 つらつらと語られる受付嬢さんの話に、うんうんと相槌を打つ。


 どうやら召喚士だけでなく、学識というアビリティも珍しいらしい。アカデミーを卒業した人間がステータススキル法を使うと出てくるものなので、俺くらいの年齢ではありえないことだそうだ。

 たぶんこれは前の世界で大学を卒業したことが影響していそうな気がする。あ、それを考えると召喚士もか。まあ俺の場合は被召喚者だが。


 それぞれの項目の意味としては、以下の通りだ。



 体力 → いわゆるHP

 魔力 → いわゆるMP

 力とか → 名前そのままの意味

 クラス → メインスキルの習得系統

 アビリティ → ステータススキル法使用時の保有能力

 メインスキル → クラスにより一定のレベルで習得できる。

 サブスキル → コモンスキルとも言われレベルアップごとに一つ修得ないしは一つレベルを上げられる。



「査定としてはランクCとします」

「それがどの程度のものを指すか分からないんですけど……」

「一般より少し上と言う感じですね。契約による金銭や魔晶石の納入は年単位でのものになりますので、まずは生活の自立を目指すのがいいでしょう。安定したら、またここに来てください。納入のプランを決めましょう」

「分かりました」


 まあ、本気で今の俺って身に着けてるものしか持ってないしな。

 まずは自分の衣食住からだ。


「他に何か……アドバイスとかありませんか? 初心者への」


 話は終わりみたいなので、少し甘えたことも言ってみる。


 何か引きだせれば御の字と思っての発現だったが、受付嬢さんは眉間にしわを寄せた。

 甘えてくるやつはお嫌いらしい。聞き方を間違ったか。


「……まあ、いいでしょう。上手くやるには、良く調べることです。あなたは学識があるので思考に少し補正が掛かるでしょう。ああ、あとサブスキルも全て、対応する能力を補正するだけのものです。頼り過ぎず、技術を鍛えることを怠けないように」


 渋々ではあるが、アドバイスをいただけた。

 俺は一礼して、資料室と書かれた扉に向かうことにした。




 ======




 と、思ったが取りあえず俺はクエストが張り出される掲示板の前に向かった。


 受付嬢さんにジロリと睨まれるが、取りあえず今日の晩飯と寝床をどうにかしないといけない。切実なのだ。


 まあ、取られるものもないし、野宿も可能と言えば可能だけどな。


「うーん、とりあえずこれかな?」



【クエスト名:荷物の積み込み

 内容   :行商馬車への積み込み手伝い

 報酬   :銅貨三十枚         】



 夕方の依頼なので時間まで情報収集ができるし、これが良いかな。

 と言うか「冒険者」ギルドなのにこういう依頼もあるものだ。まっとうな冒険者というより俺みたいな底辺労働者向けなんだろうけど。


 依頼表を受付へと持って行くともの凄い目で睨まれたが、手持ちの金が無いことを説明してことなきを得る。

 そしてクエストの受付後、俺は改めて資料室へと向かった。


「ふーむ……」


 色々と興味のあてはあるが、取りあえず食い扶持に繋がりそうな有用なコモンスキルの検索が最優先だろう。そう言う意図で本を選ぶ。


 その後俺は、ステータスウィンドウも開いてすぐ習得できるスキルと付き合わせつつ、読書に勤しむ。

 時計をちらちら見ながら。仕事に遅れないようにだ。


 あ、ところでこの世界、示し合わせたかのように一年三百六十五日の一日二十四時間だ。

 フツーに月もある。

 日本語が共通語なのでもうそう言うものなんだと思考放棄しているが、もしかしたら前の世界のパラレルワールドのひとつなのかもしれない。

 もの凄い古代に歴史が分岐したら、ありうる世界かもしれないし。


「おっと、時間だな」


 時計を見ると夕方六時くらいになっている。


 俺は仕事に向かった。


 報酬の銅貨三十枚でささやかな夕食を摂り、残りのお金を抱きしめるように、俺は安宿の雑魚寝部屋で眠りに落ちるのであった。

前作の更新をお待ちの方には大変申し訳ないですが、改稿の合間に書いてるこちらを投稿しました。向こうはエタってますが執筆は再開しています。

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