決意・Ⅱ
野営地に近づいて来た頃、エディたちは異変に気付いた。野営地のある方角から黒煙が立ち込めていたのだ。炊事などや狼煙に使われるような規模ではない。
しばらく進むと遠くから人影が近づいて来た。周囲の精鋭はエディの前に壁を作り臨戦態勢に入った。
「待て!」
ケイドが部下の構えを解かせると兵士の姿がはっきりと目に入った。兵士はカッカリアの標準装備を身に纏っていなかったが、メシュドドの手先という雰囲気でもなかった。泥にまみれた若い青年で、エディたちを見つけた時には緊張が緩み切った笑顔を見せた。
「貴様、カッカリアの兵士か? もしそうならそこで止まって、所属と名を名乗れ!」
「はっ! 『青海亀部隊』所属、カルロ・フラギリスです!」
青年、カルロは左胸に手を当て敬礼をすると次の質問を待った。
「何があった?」
「はっ、数時間前メシュドドと思しき部隊に急襲されました!」
悪い予感が当たったとエディは頭を抱えたくなったがそんな場合ではない。やはり情報がどこからか漏れていたと考えるのが妥当だ。
まずはこの場を生き延び、情報を本国に持ち帰ることが最優先事項になる。
「カルロ、お前はなぜここにいる?」
「はっ、仲間の中で最も足が速い者が私だったので、エディ様へお知らせすべく名乗り出た次第であります!」
なるほど、速さのために鎧を捨てたのなら合点がいく。体中の泥も魔狼の鼻から逃れるための知恵なのかもしれない。
ただ、カルロの目線は当のエディではなくケイドに焦点が置かれていた。頼られていないことは分かっていたが、もう少し隠してほしいものである。
「ご苦労だった! 貴様はこれより我らと合流せよ」
「はっ! これで、みんな助かるんですね……」
涙を目尻に浮かべるカルロを見下ろし、エディは言葉に詰まった。見かねたケイドがバッサリと切り捨てた。そこに普段の飄々とした態度は見る影もない。
「俺たちはこれから野営地を迂回して北へ向かう。奴らの支配域を抜け、ドワーフの国を経由地点にするつもりだ」
「え……?」
カルロの眼が点になった。覚悟していたことだが、希望に満ちていた青年には酷なことだ。
「…どうしてですか? みんな、俺を信じて送り出してくれたのに」
「今の俺たちが駆け付けたところでどうにもならんからだ。残りたければ残れ。野営地の者には悪いがこのまま囮となってもらう。お前は運が良かったんだ」
「運、が……? ………わかり、ました」
カルロはそれ以上何も言わず与えられた馬に乗り、一行に続いた。エディたちを見つけた時のような輝く瞳はなく、今にも転げ落ちそうだった。今となっては列の後方に行ったため姿は見えない。