事の始まり
「好きです、付き合ってください!」
「…………」
「だめですか?」
「いや、ダメじゃないんだけど…。これから言うこと、驚かないでね?」
「はい…」
「俺さ、恋愛したこと無いんだ。それに彼女もいたことないの。プレイボーイだとか言われてるのも全部嘘なの。タダの噂なんだけどね…」
そう言い、男のほうが自嘲を含んだ笑みを浮かべた。
「え…」
明らかに女のほうは驚いている。
「だからさ、付き合っても面白くないと思うけど、俺で良いなら良いよ」
「ほんとですか?よろしくお願いします!」
おめでとうございます。と心の中で思っていた。
はい、私は誰だって?まぁそうなりますよね。はい、私はちょうど通りかかっただけの関係のない人ですがなにか。というより、時間を戻しましょう。そのほうが分かりやすいですね。
30分前、私は屋上で親友の咲乃とお弁当を食べていた。
「今日さー、恭ちゃんと放課後デートなの-!」
咲乃はとても浮かれていた。恭ちゃんとは、咲乃の彼氏で、付き合ってまだ3ヶ月である。
「へー良かったじゃん」
「由梨はどうなの?筧君と」
「どうって…。何もないけど?」
「だめじゃーん!もっと積極的にアタックしなきゃ-!」
「この私がそんなこと出来るとでもお思い?」
「う…」
「でしょー?」
咲乃は困ったようにして卵焼きを口へ運ぶ。
「でも、筧君モテるんだし、いつ彼女出来てもおかしくないよ」
「そんなのは分かってるよ」
「いや、わかってないね、その態度からして」
私はそこまで言われると言葉に詰まってしまった。
確かに私は筧奏太君の事が好きだ。でもそれは憧れの一種であり、特別な感情だとは思っていなかった。筧君は頭良くて、運動もそこそこに出来るし、背も高くて万人に優しい。それに生徒会の仕事もこなしている、いわゆる優等生なのだ。それに比べて私は頭の良さは中の上くらいで、運動はそこそこに出来ると思っているが、背は低いし、とにかく目立って良いところがないのだ。そんな自分に自信を持てというのも無理な話だ。
「手っ取り早く告白しちゃえばいいのにー!」
「無理だよ!!!!」
「何でそんなに由梨は奥手なのかねー」
咲乃は呆れながらハンバーグを口へ運んだ。
「だって無理だもん…」
「無理って言ってたら目指せリア充なんて無理だよ!?」
「目指せリア充なんて一言も言ってないし」
私は少しふてくされながらご飯を食べた。
今日のお弁当は好きなおかずが一つも入っていなかったので、それだけで不機嫌だったのに。咲乃が余計なことを言い過ぎるおかげでまた不機嫌になってしまったではないか。
「まぁ、由梨もがんばんなよ-?」
「頑張ってない訳じゃないもん…」
「応援するからさ!」
「どうも…」
そんなこんなで昼休みが終わりそうだったので、そろそろ教室に戻ろうとしたのだった。
その後にこんな事になるなんて…。
「私トイレ行ってくるね-」
「りょーっかい!」
私は1人、トイレに向かった。
トイレを出た後、5組の前田紬ちゃんに貸していた教科書を返してもらおうと思い、5組まで行こうとした時、階段の踊り場で、筧君と1人の女の子が話し込んでいるのに遭遇してしまった。
5組は2階。そして私のクラスは9組で1階なのだ。運悪くこの棟はここしか階段が無く、ここを通るしかないのだ。
そして現在に至る。
私の恋は儚く散ったのでありました…。私は心臓が締め付けられるように痛んだ。すぐにでもその場から逃げ出したいのに、いろいろな感情が行き場を無くし、頭が真っ白になってしまっていたため、どうすることも出来ずに立ちすくんでいた。
そこでまたしても運悪く、予鈴が鳴ってしまい、筧君と女の子は私のいる方へ降りてきてしまったのだった。
どうしようどうしよう!?
私は慌てすぎて既に冷静さを欠いていた。
続