プロローグ
とある世界のとある時代、はるか西の彼方にある魔法の国で……。
小さな寝台の周りには、嗚咽やすすり泣く声が集まっていた。
寝台に横たわる老女にはもはや瞼をあげる力も残っていなかった。
太陽が星に喰われ闇に包まれたこの日、人間、精霊、魔族−−ありとあらゆる種族が彼らの希望との別れを惜しんでいた。
「……約束しましょう。たとえどのような姿になろうと、私は何度もこの国に生まれ変わりましょう。そしてあなた方をあの邪悪な神からずっと守り続けましょう。だからみんな、どうか泣かないで。私たちが離ればなれになるのはほんの少しの間だけなのですから」
そう自らが率いてきた民を、老女はかすれ切った声で子供をあやすように慰めた。
誇り高く優しい魔女はこれまで誰にも一度も嘘をつくことはなかった。
だから彼女がまた会えるというならきっとそうなのだろうが、しかし、それでもその場にいた者たちの悲しみはとうとう晴れることはなかった。ある者は徐々にぬくもりをなくしていく身体にすがり、ある者はわき上がる苛立ちをこらえきれずその場から立ち去ったという。
それからほどなくして、一国を建国した偉大なる魔女は人間の身体の限界に息を引き取らざるをえなかった。
その後干からびた体から離れた気高い魂は、水の精霊ジブリールによって然るべき女性の元へ秘密裏に運ばれた。
こうして終わりを知らない輪廻の儀式は始まったのである。
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