「XO」
「カナデ~、なんかへんなのでたよ~?」
そういって彼女、ハヅキが見せてきたのは、明らかに危ない光を放つ、<闇力>の塊だった。物質というのは、中に凝縮されると外にはじける。それは当然なこと。まあ、<闇力>は魔力の塊なわけで、物質ではないのですが。
「カナデ~。まほうって、むずかしいね」
「いや、お前の思考回路のほうが難しいけどな」
軽口を叩きながら歩く俺たち。この世界にきてから、もう一週間経つというのに、未だに魔法を使えない魔術師を横目に、俺はそっと溜め息をつく。
俺は枕木奏。県内S高校に通う高校2年だ。なにが好きかって、当然ゲームとエロ画像。一般的な高校生だ。そんな俺は、今小説等で流行りのVRMMOにはまっていたんだが、この幸せいっぱい少女、ハヅキに誘われてログインした無印MMOは、丁度アップデートがはいるということで、注目を浴びていた。そのゲームこそ、いまの世界の基盤となるゲーム。「XO」だ。
「XO」。このゲームは、半分の大きさの地球に格子状に張り巡らされた広い道があり、その道が十字に重なる地点に町がある。しかも、現実とある程度リンクしており、その国の主要都市は発展し、いい武具が手にはいる。かわりに、地方ではいい特産品が手にはいり、バランスがとれている。基本的には道のモンスターを倒し、Lvをあげていくゲームだ。
あの日。自分の職業を選ぶまではよかった。隣の横出葉月にアドバイスをしながら、ログインしたこの世界。待っていたのは「現実」だった。
「…ハヅキ、ちょっと目つぶってて」
「?…わかった!」
ハヅキが目を閉じたのを確認すると、背中の斧を構えて、5m位離れたところでスキルを発動。
「威嚇の金管(スレット•トランペット)!!」
高らかになる金管楽器の音に、隠れていたキャタピリムが引き寄せられる。
「やあぁあああ!!っ」
気合いを込めて斧をフルスイング。いわゆる雑魚の芋虫は、その一撃で果て、xmを落として消えていく。バッグから水筒を取り出し、さっきからギュッと目をつぶっているハヅキをみて和むと、肩を叩いて目を開けさせる。
「…だいじょーぶ?」
っ可愛えええええええええ!!!!!と、心の中で叫びつつ、頭を撫でてやる。
「吟遊詩人」。RPGではそれなりの知名度を誇る、どちらかといえば魔術的な戦闘スタイルだ。
特徴としては自身、他者を強化する点ではトップクラスの職業だが、どのゲームでも攻撃力が低く、ソロには(術師ほどではないにしても)厳しい職業でもある。
だが、俺は長い間VRMMOでこれを使い続けてきたため、そこらへんの古参プレイヤーよりは、この現実で生きていくことが可能だと考えているし、このハヅキもどうにかもとの世界に帰さなくてはいけない。
そのためにも、ハヅキには早く「魔術師」として、仕事をできるようになって欲しいのだが…
「ふえ?なんかまるいのでたよ!?」
…まだ先は長そうだ。
この「東京地区」近隣では低レベルの道、「若葉街道」から今のホームタウン、「TOKYO」に入ると、周りがざわめく。それもそのはず、VRMMOではなかったXOでは、実際に武器を振り回して戦うことはなく、VRMMOと両立してやっていたプレイヤーは極少数であったため、現実となった今、自分から安全区域からでる人間は少なかったからだ。
「おなかへった」
「もう少し待て。さっき知り合いにいい店を教えてもらったから」
唯一の良かったことは、食べ物に困らない、ということだ。
話によれば、この世界には4種類の人間がいる。まず、プレイヤーだった「テラミン」、NPCだった「ナピック」(NPCからもじったのかは知らないが、自称しているので。この世界創った奴、意外とテキトーだな)、ゴブリンなど、主にモンスターに多い「ケモンス」、チート的強さを持つ、「神格」。基本的には、ケモンスがナピックを相手に略奪を行い、テラミンがそれらのケモンスを狩り、ナピックがそのテラミンに食事や依頼、道具を融通した、3すくみの関係の上に神格があるらしい。
そんな中でも、今のところは食事は食材を知り尽くしたナピックののものが美味しく、今俺達が向かっているのもそのうちのひとつだった。
「いらっしゃいませ!!」
席に座ってメニューを開く。
「バードマンのスライムがけ…80xm」
「バードマンの唐揚げ…60xm」
「カウマンステーキ…130xm」
「カウマンのレッドスライム•スパイシー…100xm」
などなど…。…きわどいものもあるけど、無難にカウマンステーキを注文。
「ハヅキは何にする?」
「バードマンのスライムがけください!!!」
「嘘だろ!?」
何故明確に危険なものをたのむんだ……!
「おいしかったねー!」
「あ、ああ、そうだな」
料理は、とてもおいしかったです。
「…さて!もういっちょ行きますか!!」
ハヅキが寝たのを確認する。これからはちょっと真面目だ。いわゆる真面目モードだ。両手斧を担ぎ上げ、袋の中身を確認する。
「ポーションが4つ、ハイポーションが8つ、SPポーションが9つか…。今夜は2時間ってとこだな」
そして、向かったのは「TOKYO」近郊でも中堅のフィールドだ。
「力の反響(パワー•ドラム)!」
スキルで自身を強化すると、斧を槍のように持ち、腰に構える。目標は5体。
ドンッ!
和太鼓のような音を出して地面を蹴る。
突然動き始める俺を防ごうと3匹のゴブリンが動き始める。だが、遅い!
「はあああああああ!」
右下からの切り上げ、左下からの切り上げ、大上段から振り降ろす。
残りは2体。一撃×3で仲間を葬った俺に、少し恐怖を抱いているらしい。だが、
「はあああああああ!!!」
逃がさない。
xmを拾っていると、後ろから物音がした。
「だれだっ!?」
「おっと?…って、カナデじゃねえか」
そこにいたのは、VRMMOでよく見ていた顔だった。
「お前も来てたのか、ブロッサム!」
「おお、俺はお前と違って普通のゲーマーだからな。どちらかといえば、VRMMO厨のお前がいるほうがおかしいんだよ」
それもそうか。
「おーい、お前ら!<吟遊詩人のカナデ>だったぞ!」
ブロッサムが森に向かって呼びかけると、ぞろぞろと見た顔がでてきた。
「カナデ!?本物!?あの、″俺はVRMMO以外興味ないから″とか、キメ顔で言っちゃってた、あのカナデ!?」
「こら、ピンク(笑)、失礼でござろう?人の過去はそう無闇にほじくりかえすものではないでござるよ。ー失礼した、カナデ殿。お久しぶりでござる」
「ピンク(笑)に桃兵衛!お前らもいたのか!」
俺はブロッサムに目で問いかける。ブロッサムは頷き、
「こっちでも俺らは{サクラノ時}をやってるんだ」
サクラノ時。これはPC上のSNSの名前だ。
ゲーマー達の集まりで、彼らはあらゆるMMORPGで{サクラノ時}というギルドをつくる。
オフ会も積極的に行い、俺の知る中では最も結束の強いギルドの一つだ。
「とりあえずカナデ、フレンド登録してくれ」
「ん、わかった。じゃあいくぞ?″フレンド登録を申し込む″」
「″了承する″…うし、OKっぽいな」
固定コマンドでフレンド登録する。このシステムはもともと普通のMMOだったXOのものではない。とあるVRMMOで使われていたものだ。
「このコマンドが使えるってことは、このゲー…いや、この世界はXOそのものってわけじゃないんだよな?」
それとなく確認をとりつつも、俺は別のことを考えていた。
(つまり、この世界では少なくとも、5つのVRMMOゲームが関わっていると考えていいんだよな…)
俺はこの固定コマンド以外にも、4つの相違点を見つけていた。
「ところでカナデ殿」
「ん?」
「この世界について、他に解ることはござらぬか?…例えば、こうなってしまった理由とか…」
「悪いな、俺もまだ混乱してるんだ」
事実、俺はまだ、この世界のことをよく理解していない。それは、俺以外のプレイヤーも、人々も同じだろう。
俺たちの大半はただ純粋にゲームを楽しんでいたゲーマーなんだ。それも、ゲームに金をつぎ込みまくっちゃってる、結構ダメなほうの。
だが、俺は薄々感じとっていた。肌にまとわりつく、冷たい夜風。ほのかに聞こえる、虫たちの四重奏。…そして、モンスターたちの「本物」の殺気。
これは、もう俺たちの地球なのだと。
次回は、二週間以内にうpしたいです