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欧州から再びアメリカの地に降り立つと、米空軍のベンジャミン・フロア少将が好敏を出迎えた。
少将という身分にかかわらず、フロアは日本人の好敏より小柄で、軍人というより、学者といった風貌の穏やかな人物である。
「米国最古の飛行士と、日本最古の飛行士が出会えて嬉しく思います」
フロアの自己紹介に、好敏は頷いた。フロア少将は、ライト兄弟から飛行術を伝授されたという経歴を持つ。好敏より五歳年上の、八十一歳という高齢である。
少将の案内で、好敏はライト兄弟の住まいに立ち寄り、歓迎を受けた。
その夜、ライト・パターソン空軍基地で行われた食事会で、好敏は、自分の前に置かれた造花を見て驚いた。
何と、目の前の造花は、三つ葉葵を象っていたのである。三つ葉葵は、徳川家の家紋である。
「これは……」
絶句すると、同席するアンダーソン司令官が柔和な笑みを浮かべて説明する。
「貴国の歴史を調べさせ、用意いたしました。アメリカは豊かな国ではありますが、日本に比べ歴史が短い国です。お気に入りましたでしょうか?」
アンダーソン大将に向け、好敏は何度も頷いていた。かつて戦火を交えたというのに、アメリカ国民の、好敏に対する好意は、溢れるほどであった。
アメリカは若い国……。
まったくその通りで、好敏はアメリカを回っている間、大統領選に打って出ている、ある若い大統領候補の名前が記憶に刻み込まれていた。
J・F・ケネディという名前である。もし、ケネディが大統領に選出されれば、アメリカの歴史上、最も若い大統領が登場する。
好敏は歴史上、自分の役割が終わったと感じていた。




