表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の双翼  作者: 万卜人
終章 それぞれの結末
53/57

 明治四十三年、十二月十九日。

 代々木錬兵場において、日本最初の、飛行機による飛行が敢行された。

 操縦するのはもちろん、フランス製ファルマンⅢに搭乗する徳川好敏大尉と、ドイツ製グラーデ機に搭乗する日野熊蔵大尉である。

 実は数日前、十四日に熊蔵が最初に、グラーデ機を操縦して、初飛行に挑戦している。しかし当日の天候不順や、機体不調により、確実なものとはいえず、この十九日こそが、日本における初飛行とされている。

 師走近くの錬兵場は、冬季としては暖かく、空は抜けるように高く、絶好の飛行日和であった。

 見届けるのは指揮官の石本中将、以下初飛行を取材しようと詰め掛けた新聞記者、無数の見物人である。

 最初に飛行したのは、徳川好敏のファルマン機である。飛行時間三分、航続距離三千メートル、高度七十メートルを記録。しかし好敏が飛行に成功した後、俄かに天候が急転、強風が吹き始めた。

 それでも日野熊蔵はグラーデ機で飛行を敢行し、好敏に比べて、遥かな悪条件の下、無事に機体を旋回させ、着陸させている。飛行時間一分、航続距離千メートル。高度四十五メートルを記録。

 二人揃って飛行に成功し、初飛行の取材に、新聞記者が群がって成功を称えていた。

「徳川大尉、日野大尉、成功おめでとう御座います! これで、日本も、堂々たる飛行機所持国というわけですな!」

 頬を真っ赤にさせた記者の称賛に、好敏と熊蔵は軽く頷いた。

 口々に同じような言葉を掛けられるが、二人にとっては、ただ鬱陶しいだけだった。成功の余韻に、じっくり浸りたいところだったが、こう、新聞記者に煩く付き纏われては、そうもできない。

「これから、飛行機はどう、発達しますと思われますか?」

 記者の質問に、好敏と熊蔵は顔を見合わせた。熊蔵が好敏に、答を譲った。

「徳川君。君から答えろ」

 熊蔵に促され、好敏は背筋を伸ばし、口を開いた。

「それは、もちろん、飛行機の性能は向上し、飛行速度も、高度も、航続距離も格段の進歩を見せるでしょう。ファルマン機には、やっと二人が乗れるだけですが、いつか、大量の人員を運べるようになれるかもしれません」

「ほほお」と、記者たちは一斉に感嘆の声を上げる。

 好敏の脳裏には、飛行船の勇姿が浮かんでいた。

 現在、多数の乗客を運べるのは、飛行船に限られているが、いつか、飛行機こそが、空中大量輸送の主役になると、好敏は確信していた。

 ヘルマン・オーベルトの笑顔を、好敏は思い浮かべていた。

「さらに、別な飛行機械によって、人間は月にすら、到達できるかもしれません」

 好敏の予想は、記者たちを完全に戸惑わせていた。

 隣で、熊蔵がニヤニヤ笑いを浮かべていた。顔を見合わせている記者を尻目に、熊蔵は好敏を伴い、人群れから離れる。

「徳川君、ありゃ、言いすぎだぞ。記者諸君たち、呆気に取られていたな」

「そうですな……」

 好敏も苦笑いで、頭をかいた。

 日本に帰国して、好敏はセーラの婚約を知らされた。相手は、ゲオルク伯爵である。

 一応、祝電を送ったが、セーラの元へ届いたかどうか──。今はもう、セーラは好敏にとって、遠い他国の娘に過ぎない。

 熊蔵は真面目な顔になった。

「徳川君。俺は、必ず独力で飛行機を開発してみせる! 機体そのものを、国産できなければ、日本は飛行立国とはいえぬ!」

「はあ……」

 熊蔵の、恐ろしいほどの熱意に、好敏は圧倒される思いだった。

 好敏は、今はまだ、飛行機操縦に熟練するのが先だと思っている。飛行機自体を開発するのは、その後だとも、考えているのだ。

 ひとまず、自分の義務は果たした……。

 好敏は、広々とした代々木錬兵場を見渡し、静かな満足を覚えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ