1
帰国した二人は、真っ直ぐ長岡中将に面会すると、欧州での結果を報告する。久し振りに会う長岡中将の口髭は、さらに伸びて、胸元まで達していた。
「なるほど。爆撃飛行船とは、まさに新兵器であるな!」
長岡は、二人の報告に自分の口髭を捻り上げていた。中将の仕草に、好敏はつい、フェルディナント大公の癖を思い出していた。
熊蔵が目を光らせ、言上する。
「我が国でも、飛行船開発を進めるべきではないでしょうか?」
熊蔵の言葉に、長岡はゆっくりと、頭を左右にした。
「必要はないな。将来、我が国が他国に対し、そのような攻撃を仕掛ける理由はない」
否定され、熊蔵の額に血が昇った。
「し、しかし、ドイツが爆撃飛行船を開発すれば、他の国も……」
長岡は宥めるように、頷いた。
「確かに、爆撃飛行船は、現時点では最強の兵器だろう。だが、将来にわたって、最強と言えるだろうか?」
中将の反問に、熊蔵はぽかりと口を開く。長岡は続けた。
「君の報告通り、飛行船の高度に、今の飛行機は達せられない。しかし、いつまでも、今の飛行機が、現在の性能のままでいるだろうか? 徳川大尉!」
出し抜けに指名され、好敏は慌てて背筋を伸ばした。
「もし、日本陸軍騎兵隊が、戦国時代の武田騎馬軍団と戦ったら、勝つのは、どちらだと思う?」
長岡中将は、時々突拍子もない質問をするので有名である。
奇想の持ち主で、これが中将に据え置かれている理由ではないか、というのが日本軍での、もっぱらの噂だ。
「そ、それは、どう考えても、日本陸軍騎兵隊でしょう! 装備が違いすぎる……戦いにすら、ならないでしょう」
直の下問に、好敏は必死になって答えた。長岡は頷いた。
「そうだ。戦国時代と、今では、銃も、装備も、段違いだ。そこまで飛躍しなくとも、飛行機性能は、年毎に発達している。将来、飛行船高度に、楽々と達する飛行機が登場するのは、明らかだ」
「ふむ」と、熊蔵が天井を睨むように、頷く。
ゆっくりと考え込み、もう一度、頷いた。
「あんたの仰る通りでしょうな……。科学の発達は、今の近代兵器を、あっという間に旧式にしてしまう……」
考えに熱中すると、熊蔵は敬語を忘れる。
熊蔵の、この性格が、反りの合わない上官にとっては、極めて無礼に受け取られる傾向があり、昇進の妨げになっている。
長岡中将は、熊蔵のそんな態度に怒りを表さず、平然と話題を変えた。
「ともかく、欧州での成果は、秘密兵器探索だけではないぞ! 肝心の、日本軍への飛行機導入は、これからだ」
長岡の言葉に、好敏と熊蔵はぐっと顎を引き締め、揃って敬礼をした。
「二人とも、各々欧州から持ち帰った、飛行機のお披露目を恙無く行うように……」
「もちろんです!」
好敏と、熊蔵は同時に叫んでいた。




