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フェルディナント大公は、好敏と熊蔵の報告に、ねぎらいの言葉を掛けた。
「二人とも、良く働いてくれた。余の命を二度も助けて貰い、感謝の言葉もない」
城跡前の、司令部一室で、ヒンデンブルクと共に、大公は待っていた。
ゲオルクは無事に辿り着いて、飛行船で起きた事件の詳細を報告していたのである。熊蔵が飛行船のバラストを操作して危急を回避したことは、了承された。
しかし、ヒンデンブルクは飛行船を失い、がっくりと肩を落としていた。
物憂げに、呟く。
「儂も、退役を考えなくてはならぬ。いつまでも軍務にしがみついている時ではないな」
部屋の隅で、小さくなっていたアドルフが顔を挙げ、口を開いた。
「ヒンデンブルク閣下! 何を仰るのです? 閣下の、素晴らしい軍歴は、僕も知っています。いずれ、閣下が必要とされる場面が到来しますよ!」
ヒンデンブルクは苦笑いで答えた。
「慰めは、必要ないよ。なにしろ、秘密兵器となる飛行船を失ったのだ。ヴィルヘルム二世皇帝陛下のお怒りを受けるのは、明らかだ。それに、あれが必要とされる戦いは、儂の考えでは、もうないだろうな……。もう、身を退く時期だ……。後は、君ら若い者に、任せるべきだ!」
好敏は、セーラと、すぐ側に立っているゲオルクを、ちらっと見た。二人はぴったりと身を寄せ合い、指先は熱く絡まり合っている。
まるで、つい最近の、自分とセーラの姿を見ているようだ。
二人に通い合う気持ちは、好敏には痛いほど感じていた。
好敏も、セーラの愛情を失った。しかし好敏には、未練は欠片ほどもなかった。所詮は縁がなかったのである。
大公は、ゆっくりと言葉を継いだ。
「いつか、余も日本という国を訪ねてみたい。徳川、日野という二人を育んだ、東洋の奇跡を、目にしたいものだ」
好敏と、熊蔵は、大公の言葉に熱心に賛意を示した。
「是非、日本を訪問してください!」
好敏が叫ぶと、熊蔵も負けじと声を張り上げた。
「もし、閣下が来日されれば、日本帝国軍全員で歓迎しますぞ!」
大公は笑顔を取り戻し「ありがとう」と何度も頷いていた。
好敏は、帰国に心が急いていた。
一刻も早く、故国の地を踏みたい、それだけが今の望みであった。
さて、上官の長岡中将には、どう報告すべきだろうか?




