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暁の双翼  作者: 万卜人
第四章 陰謀家たち
26/57

 ホテルの支払いは、好敏に全面的に任された。カシムは平然と、好敏の懐を当てにしている。

「あんたは、金持ちだからな!」

 好敏は日本政府から、留学費用を支給されている。好敏は黙って、支払った。金の支払いで、つべこべ言い争っても、どうにもならない。

 好敏とセーラはツインを、カシムとアドルフはそれぞれシングル・ルームに投宿する。

 部屋に案内され、ようやく寛ぐと、コツコツとノックの音がした。

 何だろうとドアを細めに開けると、アドルフの怯えた表情が覗いた。両目を一杯に見開き「良いですか?」と小声で囁く。

 部屋に招じ入れると、アドルフは前屈みの格好で、オドオドと入ってきた。

 全身が緊張に突っ張らかっているので、好敏は「座れよ」と椅子を指し示した。

 アドルフは無言で椅子に腰掛け、何事か考え込んでいるのか、両手を組み合わせた。身体を前後に揺すり、落ち着かない。

 好敏はアドルフの緊張を解すため、ホテルがナイト・キャップのために用意したウイスキーの瓶を手にとった。

 蓋を外し、小指一本分ほどを、グラスに注ぐ。

 差し出すと、アドルフはぶるっと、頭を左右に振った。

「僕は、酒はやりません!」

「君は禁酒家か! それじゃ、これは俺が片付けよう」

 ぐっと一息に呷り、アドルフと向かい合わせに座り込んだ。

「さあ、何か話があるんだろう?」

「ええ……」

 アドルフは顔を上げた。眉が迫り、顔色は蒼白を通り越して、真っ白になっている。

 いつまで待っても、アドルフが黙っているので、とうとう好敏が先に口を開く。

「尾行者が心配なのか? 大丈夫だよ。今夜は安全だろう」

 好敏の慰めに、アドルフは、きっ! と睨み返した。

「どうして、そう、言い切れるんです?」

「俺たちを泳がせているからさ。推察するに、俺たちがハンス・シュミットが写真を撮影した場所へ向かうのを、見張っているのだろう。むざむざ、こんなところで襲撃したら、俺たちに案内させる目論見は駄目になる。俺たちが、目的の場所へ辿り着くまでは、手を出さないさ!」

「そうですか……」

 アドルフは虚ろに頷いた。好敏の説明にも、安心した様子は、微塵も見せない。

「おい、何を心配しているんだ?」

 好敏の胸に、じわじわと不審が這い登った。アドルフの様子は、只事ではない!

 ある疑念が、好敏の脳裏に浮かんだ。

 驚愕が、好敏を掴み、思わず立ち上がる。

 手にしたグラスがポトリと床に転がり、向かい合うアドルフは、怯えた表情で好敏の顔を見上げた。

「おい、まさか!」

 好敏の叫びに、アドルフは情けなさそうに頷いた。

「そうなんです! 何とお詫びを言ったら良いか……。僕は……僕は……」

 後は、啜り泣きになった。

 途切れ途切れに、アドルフは訴える。

「ハンス・シュミットの撮影場所を知っているなんて、真っ赤な大嘘なんです! 僕は、まるっきり、シュミット氏の撮影場所なんか、知らない……つい、口から出任せを言ってしまった!」

「それは、本当かっ?」

 怒鳴り声と共に、ドアが荒々しく開き、ドスドスと大きな足音を立て、カシムが入ってくる。

 無意識にカシムは、懐のブローニングを取り出していた。安全装置を外し、銃口をへたり込んでいるアドルフに向ける。

「騙しやがって! 殺してやる!」

 アドルフはガタリ! と椅子から転げ落ち、好敏の足に縋りついた。

 好敏とカシムは、睨み合った!

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