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その時、通路の奥から、突然、爆発音が響き渡った!
ずしん、と腹に籠もるような音がして、圧縮された爆風が、ドアを抜け、部屋の中へと吹き込む!
驚きに、ゴロスはさっと立ち上がる。
「何事だ!」
爆風と共に、埃が舞い上がり、鼻の置くにつんと来る、火薬の匂いが押し寄せた。
だだだっ! と、足音が聞こえ、ぱんぱんと、軽い銃撃音がして、数人の悲鳴が交錯する。
よたよたっ、と一人の部下が、ドアから室内に転げ込んできた。
「少佐殿っ! 敵襲ですっ! 何者かが、一気に押し寄せ、何人か不意を討たれ……」
「うぬうっ!」とゴロスは怒りの呻き声を上げた。
きっ、と好敏を睨む。
「貴公の企みかっ? いつ、連絡を取った?」
ゴロスの言葉遣いは、やたら古風になってしまう。古語が混じり、好敏の貧弱なドイツ語の知識では判り難い。
銃声が近づき、びしっ、びしっと漆喰の壁に、銃弾が食い込む。ゴロスの部下は、通路の奥へ向けて手に手に、拳銃を撃って反撃を試みるが、完全に不意打ちされた不利は覆うべくもない。
「見張っていろ!」
ゴロスは部下に叫ぶと、巨体をドアに捻じ込み、通路に駆け込んだ。
好敏は、残された部下を盗み見た。部下は好敏に向けて銃を構えているが、通路の騒ぎに、すっかり気を取られている。
その部下に、セーラがこっそり、背後から近づいている!
やめろ! 危ないぞ!
叫びたかったが、声を出すと、セーラが逆に危険だ。好敏は唾を呑み込み、見守った。
好敏の視線に、何かを感じたのか、部下はくるりと振り向いた。
セーラが凝然と固まった!
好敏は、目の前の机に両手を差込み、えいっとばかりに持ち上げ、部下に向かって突撃した。
足音に、再び部下が顔を戻したときは遅かった。好敏は持ち上げた机を盾にして、灰色の部下に突進する。
ぐわんっ! と手応えを感じ、部下は「わっ!」と叫んで壁に押し付けられた。手にした拳銃が火を噴くが、銃口は明後日の方向に向けられている。
好敏は歯を食い縛り、掌底を使って、部下の顎を壁に向かって突き上げる。
がつんっ! と厭な音がして、部下の頭が壁にいやというほど、激突した。
くたくたっ……と、部下の全身から力が抜け、その場に蹲った。好敏は部下の手から拳銃を奪うと、セーラとアドルフに向けて叫んだ。
「逃げよう!」
二人は好敏の言葉に、無言で頷いた。
好敏はさっとドアに近寄り、通路を覗き込んだ。細かな埃が舞い上がり、悲鳴と銃声、ゴロスの怒号が聞こえてくる。
たたたっ、と足音が聞こえ、煙の中から、数人の若者が姿を現した。こちらは灰色の部下と違い、粗末な衣服を着ている。顔つきは浅黒く、真っ黒な髪の毛に、同じ黒い瞳をしていた。
「あんた、日本人か?」
下手糞なドイツ語で、叫ぶ。好敏が頷くと、苛立たしげに、手招きした。
「来いっ! 逃がしてやる!」
好敏は、セーラとアドルフを見た。二人とも、好敏に、縋るような視線を向けている。好敏は素早く、決断を下した。
「さあ、早くっ!」
男は、さっと背中を見せる。つべこべ、説明をする間も惜しそうだ。
好敏は無言のまま、男の背後に付き従った。




