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=7話=

 立ち読みなんてしたって頭に入る訳ない。

 愛する相手が他の奴と遊びに行って、日が暮れても帰ってこなかったんだから。

 遊びにいった相手は男だし、地央は「男との恋愛にまったく抵抗がない」というわけではない。

 だからこそ自分との関係に戸惑いを見せるのだとはわかっていても、「男」という以外地央の好みの相手だ。どうしたって不安になる。

 チケットを受け取りに行った時など、立ち去る友を目尻を下げて見送る地央を見て、苛立ちのあまり人前で思いっきりベロチューかましてやろうと思ったほどだ。

 地央本人はデートではなく「男同士で遊びに行く」感覚のようだが、御崎とのポッキーゲームとは違い、相手は地央に恋愛感情をもっているのだ。

 それをわかっていて出かけた地央。正直、情けなくて泣きそうになった。

 でも――。

 ちょっとくらい美味くても並ぶくらいなら、不味くても空いている店に行くという地央がわざわざ自分の為に並んでくれたと知ったらそれまでのウダウダが全てチャラになった。

 嬉しすぎて、顔面が崩壊するくらいニヤケるのを必死にこらえたほどだ。

 地央の行動や言葉の一つ一つに一喜一憂する自分。

 あまりにも振り回されていると思う。

 でも、一歩間違えたら嫌がらせになるような甘え方や、悪戯な子供っぽさや、照れくさそうな口づけ。それは周りに見せない、真直だけのもので……。

 だからそれがたまらなく愛しくて、振り回されてやろうじゃないかと思ってしまうのだ。

 

 


  



  

「っよ!クロ」

 射撃部の練習の合間、チームメイトと昼食を買いに行ったいつものコンビニで、試合帰りのサッカー部久住に声をかけられた。

「勝ったか?」

 日曜の朝Aチームの試合があるという話を聞いていた真直は、カップ麺に彷徨わせていた目をあげて、棚の向こう側の久住に聞いた。

「ったり前っしょー!カイのイエロー2枚退場で一時は焦ったがな」

 サッカー部の幻のエース、桐山カイの西洋人形のような顔が憤怒で歪んだところを思い浮かべてつい笑ってしまった。

 異国の地の混じるであろうカイは美しい少女のような風貌をしているが、その中身は野獣の如く凶暴で、試合ではしょっちゅう退場をくらっていると聞く。

 点は入れるが試合途中でいなくなる諸刃の剣のようなカイは、入学式当日、西洋的で中性的な容姿を揶揄したクラスメイトを殴り、謹慎処分を受けかけたような奴だ。

「んでこいつ、その罰つって、ガストでカイに猫耳つけさせてドリンクバー行かせてんの」

 久住に背を向けていた花田がこっちを向いて笑った。

「猫耳!?」

 規格外の美貌を持つカイにはかなり似合っただろうが、野生の虎のようなあのカイが大人しくそんな屈辱に甘んじたのは意外だった。

「試合前に賭けてたもん。絶対退場にはならないって言い切るから、退場になったら猫耳ドリンクバー往復なって。いや。屈辱に震えてる赤い顔マジ可愛かったわ」

 目を閉じ、噛み締めるように何度も頷く久住。

「ドSだな、おまえ。なんのプレイだよ」

 まあ、地央さんに是非つけてもらいたいけど。

 苦笑する真直に、花田は同意するように困った笑いを浮かべた。

「これからも練習あるのに、カイの奴拗ねちゃってさ」

「猫耳くらいで大げさ過ぎんだよ。猫耳ドリンクバー、お前別に平気だろ?」

 久住にふられ、花田は即答する。

「嫌だよ」

「えー!?なにそれ、ノリ悪っ」

「まあ、何が悪かったって、そのガストに学校の人居てさ。カイが懐いてた去年の先輩の友達の……」

 花田の言葉に、背中を向けてジュースを選び始めた久住がまたこちらを向いた。

「お前と仲いい人。ほら、ダブってる……平林さん!!」

「はあ?」 

 耳にすると思っていなかったまさかの名前。

 朝食時には、今日は寮でゴロゴロすると言っていた。

「めちゃ可愛い女子と居た。彼女なん?」

 そう聞かれても情報の処理においつけない真直。なにも応えられない。

 そんな真直の様子を目にし、久住は知らないと察したようだ。

「ちょ!なあ、北本!お前と一緒の中学なんだよな?ガストの可愛い子」

 久住に声をかけられ、雑誌コーナーで立ち読みをしていた一年が、雑誌を置いて近づいてきた。

 真直に軽く会釈する。

「まあ、可愛いけどメッチャ変わってるっすよ。今、高校男物の制服で通っているって言ってた」

 何かが、魚の小骨のようにひっかかった。

 ただそれが形になるその前に、先に買い物を終わらせたらしい射撃部の浜崎が財布に小銭を戻しながらこちらに向けて口を開いた。

「それって川迫高の一年じゃね?可愛いって言ってたわ。あ。ほれ、うち弟が川迫じゃんか。その子、なんか病気で片足切断して、それ隠すのに男物の制服着てるとかって」

「天パで義足……?」

 真直の呟きを拾い、北本が頷く。

「八坂綾愛に似てるっすよ」

「あー、言えてるわ」

「マジで!?え、それ平林さんの彼女!?うーわ、超み……」

「郵便局前のガスト?」

 浜崎の声に被せられた場違いに低い真直の声。

 北本は目を丸くして2回頷いたが、二回目の頷きが真直の視界に入ることはなかった。

「おい!真直!!どこ行くんだよ!?」

 当然その背には浜崎の声が届くことも無かった。


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