=5話=
一緒に回るうちにすっかり女の子とデートしている気分になっていて、休憩の為にカフェのドアを開けて支えてやったときには、地央自身が驚いた。
ふと、男の娘というのは女扱いされることをどう思うのかと不思議になる。
そもそも友の場合、男の娘の分類ではなくオカマというものに分類されるのだろうか。
席につき、注文してから思い切って聞いてみた。
「女の格好が好きなの?」
地央の言葉に、友は自分の格好を見回した。
「この格好、ダメですか?」
「え?」
逆に聞き返され戸惑う。
性同一性障害というやつなんだろうか。
となるとやはり男女云々で区切って話をするのはやめておいた方がいいのだろか。
「ダメというか、まあそういう格好じゃない方が似合いそうかな、とか」
とりあえず返した言葉に、可愛らしい森ガール風の姿が浮かぶ。
でも正直、好みの友にそんな格好をされてリスのようにキョトンと見上げられでもしたら、自分がおかしくなりそうだなと思い返し小さく頭を振った。
「義足にはゴスロリが似合うんです」
真摯な表情。
「それにそっちに気持ちがいくから、義足にばかり注目されなくていいんです」
「ああ……」
頷いてはみたものの、それならズボンを履けばいいと思うのは違うのだろうか。
地央など目の障害なので隠そうにも隠しづらいというのに。
まあ、そこはやはり男の娘。勝負服はスカートでなければならないというこだわりがあるのかもしれない。
「制服はダメです。ブレザーは義足が似合わない。せめてセーラー服だったらよかったのに」
最近の学校はそういえば男でも女子用の制服着用が認められている。
友の通う川迫高校の制服を思い浮かべ、友が着ているところを想像してから、迷いながらも悪口ではないだろうからと思ったことを口にした。
「中里、川迫の制服似合うと思うけどな。女子の制服うちの学校より可愛いし」
自分の通う学校の女子のスカートは、今時めずらしいジャンパースカートタイプとなっており、雨が降っても胸元が透けないという鉄壁のガード仕様だ。
昭和の昔、もともと男子校だったところに女子を受け入れた名残らしい。
「中里可愛いからな」
本物の女の子には絶対言えないセリフ。
そこへ注文していた地央のコーヒーと友のラテが運ばれてきた。
視界の関係上前に座っている人の顔を見る為には斜めに向かねばらなず、実のところこういうカフェなどでは斜めを向くと隣の席の人を見ているようになる為、同席者の表情は伺えない。
だからウェイターさんに目をむけてやっと友の顔を視界におさめたとき、その顔が赤くなっているのを見て言ったことを少し後悔した。
地央としては男が男に「カッコイイ」というのと同じ感覚だったが、考えてみればそんなに単純な状況ではないのだ。
「アシカのショーとか小学校以来だ」
無理やり変な流れになった話をぶった切る。
気まずさにコーヒーを口につけ、ミルクで中和させないブラックの予想外の熱さに再び唇を離した。
「あっつ」
「大丈夫ですか?」
この間まで中学生だった友はまだ声変わりしていない。柔らかい口調と、さっきの赤面した姿があいまって、完全に女子と話している気分になった。
そうなると先ほどのプレイボーイのような「可愛い」発言がたまらなく恥ずかしく思える。
真直はデートだとうるさかったが、地央の中では別に男同士で遊びにいくというだけの軽めの感覚だった。
友の地央への感情も中学から高校にあがってすぐの高揚感からのものだと思っていたし、要はそこまで深く考えていなかったのだ。
遠足でのポッキーゲームと同じミス。
「想定外だった」
色々な意味で。
「……店屋のコーヒーなんて久々だから」
普段寮や学校では紅茶ばかりを買ってのんでいるが、こういうときは好んでコーヒーを飲む自分。
何故か紅茶を真直。友をコーヒーにあてて、浮気男のような心境になってしまう。
いや、だから相手は男なんだって。
あ、あいつも男だった。
久しぶりに飲んだレギュラーコーヒーは、やたらと苦く感じられた。
「雨降ってたんだな」
水族館から出ると地面が濡れていて、雨が駆け足で通り過ぎた後を残していた。
「あ、虹です」
言われて見上げると空の中に地央の目にもくっきりと映る虹があった。
結構ハッキリと色のわかる虹に、妙にテンションがあがる。
「おおーっ、すげっ!」
黒川、今見てるかな?
いや、練習場だったら見えてないかな?
地央は携帯を手にすると、そらの虹をカメラに収めた。
「よし。まあまあかな」
画像を不自由な視界で確認して得意げに頷く地央に、友が小首を傾げて笑顔を向けた。
「空の写真とか好きなんですか?」
「え?あ、いや、めずらしいから」
答えて、確かに黒川も虹見せられてもどうだって話だよなと思い至る。
真直が何かの風景を目にして感嘆の声を発しているところなどついぞ見たことはなく、この画像を見せたところで「ヤバイっすね」的な言葉が返ってくるくらいだろう。地央自身がそうだ。
こんなもんはリアルに見てナンボのもんで。
単にちょっとした感動を共有したいだけで。
―――まったく。
なんで今いないんだ。