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=4話=

 水族館の最寄駅。

 埋立地を利用した海沿いの駅を利用するのは、殆どが水族館を目的としているだろう。

 土曜日の昼過ぎの電車は家族連れとカップルで溢れており、みんなとても幸せそうに見えた。

 自分と真直の組み合わせを見てもカップルとは思われないだろうな、つか思われても困るかな、と思い、そうしてから今日の相手は真直ではないのだと思い出して、何やら胸がスカスカした気分になった。

 まあ、あいつの部活が一段落したら受験前に来るのもありかな。

 そんなことを考えたら真直の嬉しそうな様子が浮かんでこそばゆい気持ちになった。

 全く。何がアレッサンドロだ。

 寮を出る前の真直の意味のわからない拗ね方を思い出し、頬が笑いの形に吊り上がりそうになるのを咳払いでごまかした。

 停車した電車から、降りる人の流れに合わせ地央も駅に降り立つ。

 駅は水族館の建物が見える距離にあった。

 時計を見ると約束の15分前だ。

 待ち合わせの水族館前にはチケットを求める家族連れやカップルの姿があり、変わりどころではビジネスバッグを抱えたスーツ姿の中年サラリーマンやゴシックロリータの少女の姿があったが、友はまだ来ていないようだった。

 あのサラリーマン、リストラ族なんだろうか。それとも外回り営業なんだろうか。

 ぼんやりそんなことを思いながら遠目に眺めていると、近くから名前を呼ばれた。

 友かと思い振り返ってみると、そこには人形のようなゴスロリ少女の姿。

 サラリーマンに視点を合わせていたため、傍にくるまで気がつかなかった。

 少女はこちらに向かってニコニコと笑っている。

 絞った腰周りからフワリと広がった膝丈の黒いパフスリーブワンピース。漆黒の長いツインテールの上には、小さな帽子がちょこんと載っていた。

 黒いハーフブーツに包まれるのは硬質の……。

「中里友!?」

「平林さん、すごくかっこいい!!!」

 見た目はエラいことになっているが、キラキラした丸い目と声変わりしていない高めの声は友のものだ。

 ゴスロリ衣装が場違いな服装であることは違いないが、そもそも男の友が着るべき服装でもないわけで、何からつっこんでいいのか、そもそもツッコミ自体入れていいのかとパニックになる。

 男の娘という奴か?

 なんと声をかけていいかわからず、とりあえず思いついた言葉を口にした。

「天気よくてよかったな」

 いや、そこかい。

 思わず心の中で自分にツッコミを入れてしまった。

「はいっ」

 素直に笑顔で肯定する友はやはり可愛く、ゴスロリ衣装で無くフワフワの髪の封印が解けたら、頬ずりしたい衝動にかられたかもしれない。

 正直地央はゴスロリで街を歩くことを理解できなかったが、友のゴスロリは無機質なレースの透かしの入ったオシャレ義足と世界観がマッチしていてありかもしれないなと思った。

 まあそれにそもそも男に告白するような奴なんだから今更ゴスロリがどうの、女装がどうのという話でもない気がして、それ以上は触れずに友を促して水族館の中に入った。

 

 




 

 

 だが……やはり、さすがに場違いなゴスロリ衣装は周囲の目をひきつける。

 奇異の目で見られていることを、せめて狭い視界に入れないようにして、水槽の並んだ回廊を歩き始めた。

「平林さんとこうして並んで歩けるなんて夢みたいです」

「そんな大げさな。あー、えと歩くのきつくなったら言って。俺も目ダメだと思ったら言うから」

 地央は自分の目を眼鏡越しに指した。

 水族館の中には暗い場所があり、地央の目は暗がりが苦手だ。

「はい。ほんとーにありがとうございます」

 ニッコリ笑う友は、最初の強引さが嘘のように控えめだ。

 ゴスロリの衣装のアンバランスさといい、どうにも扱いづらい。

 なんたって地央自体決してコミュニケーション能力が高いと言えないのだ。

 まあ今日一日と割り切って気持ちを切り替えるように水槽へと目をやった。

「わ。でっけー」

 最初の水槽にはやたらと成長したアロワナが悠々と水中を泳いでいた。

「あ、あっち見てください。すごくちっちゃいのがいますよ!」

 友に手招きされ行ってみると、別の水槽に同じ種類と思えないほど小さな複数のアロワナが居た。

「すげーな。あいつ何倍あんだろ」

 久しぶりの水族館は想像より明るく、それなりに楽しく、なんとなくテンションもあがってくる。

 数学の教師にそっくりのハリセンボンを見たときは思わず吹き出してしまった。

「黒川、数学の久米川だぞ」

 言って後ろを振り返り、キョトンとする友を見て、やっといい間違えたことに気づいた。

「あ、ごめん。友達と間違えた」

「いえ。仲いいんですね。黒川さんて人と。さっきも間違えてましたよー。気づいてました?」

 少し意地悪そうに笑う友。

 無意識にその名を呼んでいたらしい事実に気恥かしくなった。

「あ、平林さん。あそこ!魚触れるみたいです!」

 友が指した先には「お魚タッチコーナー」というブースがあり、家族連れが青い仮説プールの前にしゃがんでいた。

 近づく二人の気配に気づきスペースを空けてくれた家族連れの目が、ゴスロリの友で止まった。子供などは見事なガン見だ。

 友はそんな家族連れの目などものともせず、スペースを空けてくれた家族連れに感謝の意を伝えるとプール前に陣取り地央に手招きした。

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