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=2話=

「はあ?え、それで遊びに行くことになったってどーして!?」

 真直は椅子の背に肘を置き、ポータブルテレビを膝の上でいじる地央を睨みつけた。

「だって結局地央さん悪くないじゃんか」

 こみ上げる嫉妬の苛立ちにやや口調が子供っぽくなる。

「あの義足みたらなんも言えなくて」

 小さなため息とともに地央の眉間にかすかにシワがよる。

 それを見た真直の眉が悲しく八の字に下げられた。

 萎む嫉妬心。

「……っと、あんたって……」

 でも、こういう地央だから今真直の傍に居てくれるのだと冷静な部分で思う。

 自分の愚かともいえる行為が地央の同情を引いたからこそ今があるのだ。

 地央の情の深さは自分にも向けられているのだろうと、胸の奥がきしんだ。

「でも、同情で相手してもらっても。地央さんだって目のことで情けかけられるの嫌がってるくせに」

 自分で自分をえぐる言葉。

 そんなことを口にしておきながらも、俺は同情でもなんでも傍に居て欲しいけどと小さく唇を噛んだ。

「ん。わかってる。一回だけ会って、ちゃんと話す」

 地央は膝のポータブルテレビを床へ下ろすと、片膝を抱きかかえてベッドに背中をもたせかけ天井を仰いだ。

「そもそもなんで……」

 言い寄ってくる大半が男なんだろうと言いかけ、真直の姿が目の端に映る。

 地央は言葉を飲み込むと眼鏡の上から顔を押さえて唸った。

 

 

 



 

 

「平林さーん!!」

 学校近くのコンビニ前。

 深緑にまだ黒を混ぜたような色のブレザーとグレーのズボンは川迫高校の制服。

 小さな体についた短い手をいっぱいに伸ばして、ちぎれそうな勢いで手を振っている友はくせっ毛のハムスターのようだ。

 フワフワの髪とキラキラした黒目がちの丸い瞳と顔いっぱいの笑顔。

 可愛いを絵に描いたような友に愛玩動物に対する庇護欲のような感情が芽生え、その綿菓子のような髪をこねくり回したくなる。

 まあ、地央の後ろでは真直が口をへの字に曲げて腕組して立っているのでそんなことはできないわけだが。

 部活を遅刻してでもついて行くと言ってきかない真直に何も口を出すなといってはおいたが、不機嫌を隠せとは言われてないとばかりに憮然とした表情で友を睨みつけていた。

「すみまんせん。出てきてもらって!!」

 小動物に懐かれたような快感にとらわれる。

「いや、そっちのほうが随分遠いだろうから」

 背中からの真直の視線が痛い。

 友は真直の存在などすっかり見えていないようで、スクールバッグから大切そうに長4サイズの白い封筒を差し出した。

「これ、今度の土曜に一緒に行ってもらう水族館のチケットです。もし不測の事態がおこったらいけないんで、預かってもらっていいですか!?」

「いや、そりゃいいけど、不測の事態って……」

「僕の足、病気が原因で落としてるんで、まあ、99%ないんですけど、僕の為に一日使ってもらうんだから最悪の事態も考えとかなきゃって思って。もし待ち合わせの時間に僕が行けなかったりしたら、そのチケットで別の人と行ってください」

 首を傾けてニッコリと笑う友。

「あ……うん。まあ、大丈夫だろうけど、わかった」

 予想外に健気なことを言われたせいで、デートは一回だけと念を押すつもりだったのが何も言えなくなる。少し離れた後ろのほうで真直の小さな舌打ちが聞こえた。

「じゃあ、僕はこれで。土曜、本当にありがとうございます。楽しみにしてます!!」

 義足とも思えない足取りで立ち去りかけ、思い出したように振り返った。

「あ、今日会えて嬉しかったです」

 照れたような満面の笑顔。

「かーわいー」

 大きく手を振り立ち去る友に思わず本音が漏れた。

八坂綾愛(やさかあやえ)

「ん?」

 背後から低い平坦な声で地央のお気に入り若手女優の名をあげられ、真直を振り返る。

「似てますよね、雰囲気」

 腕を組んだまま、立ち去る友から地央へ冷たい半眼を向けた。

「は?」

 確かに八坂綾愛は小柄で、黒目がちの大きな目で、元気がトレードマークの可愛い女優さんで、言われれば確かに雰囲気がないでもないが、しかし絶対的な違いがある。

 友は男だ。

「ふーん」

 絶対零度を思わせる無表情の真直がちょっと怖い。

「な……なんだよ」

 どうしてか詰まってしまった。

「いや、別に。なんで断らなかったのかっていうのがわかった気がしただけっすよ」

「は?おまえ、なんか絶対違うわかり方してるから、それは!!俺はただっ!!」

「はいはい。そうっすよね。地央さんは例え相手が岩窟巌みたいな奴でも、そのあったかーい心で迎え入れてあげられる人っすよ。あー、俺部活行こ。あーあ、なんだかなー」

「あのなあ!!」

 確かに友の容姿がまったく無関係であるとも言い難い。

 小さな頃からペットに憧れていた地央。ついついペットカフェに行く感覚だった。

 だって可愛いもんは可愛いんだからしょうがないじゃないか。


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