表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/13

4 ニニンドという名前


「そうでござりまする。そのことは、母上から聞いておりまする」


「では、グレトタリム王とのことも」


「はい。グレトタリム王は母の長兄だと聞いておりまする」

 

 ニニンドは表情を変えることなく、あっさりと言った。まるで、実家が農家ですというような調子で。


「失礼ですが、ニニンド様はいつもそのような話し方をなさるのでしょうか」


「いいえ。お客様に合わせて変えております。では、違う、違います、違いまする、どれがよろしいでしょうか」


「真ん中ので」


「承知いたしました。では、そのようにいたします」


 ニニンドという少年は、どうやら不思議なお方のようだとハヤッタは思った。

 

  ニニンドという存在がわかるまでには長い時間がかかったのに、彼を見つけるのは実に早かったとハヤッタは感激した。

 しかし、ことがそんなにうまくいくはずがないと思っていたら、やはりその通りだった。


「では、一緒にスルマール王国に来てくださって、国王にお会ってくださいませんか。国王はさぞ、喜ばれることでしょう」


「それはできません」

 ニニンドが、けんもほろろに断った。


「国王に、お会いしたくはないのですか。伯父上に当たりますよね」


「会いたいとか、会いたないとか、そういう問題ではありません。私の名前はニニンド、母上がつけてくだされた名前で、自由という意味です。母上はいつも申しておりました。自由こそが、一番大切なもの。決して、スルマール王国には行くな、と。それが母上の教えですから、私は行くつもりは一切ありません。それに、行ったところで、国王にお会いするだけですむ話ではないでしょう」


 彼はなかなかするどいとハヤッタは思う。

 ハヤッタはこんなにあっさり断られるとは思ってはいなかったが、これでますますニニンドがクリオリネ姫の息子だと確信した。


「スルマール王国には徴兵制というものがあり、十八歳になれば、十年間の兵役があると聞いています。私は今、十七歳です。私がスルマール王国に行けば、うちの座員の暮らしが立ちません」


「徴兵制は、今は五年でございますが」


「そうですか。しかし、五年でも長すぎます」


「あなた様は特別な方ですから、兵役のことはどうにでもなります」


「それに、人を殺す兵士になってはならぬと母上が言っておりました」


「兵士は国民の命を守ります」


「そういう考え方もあるでしょうが、これが母上の教えですから、揺らぐことはないでしょう」


「はぁ」

 とハヤッタは額を撫でた。


「ハヤッタ様、いろいろ申しましたが、スルマール王国に行けば何が待っているか、私にはわかっています。これ以上の苦労はしたくはありません」


「これまでご苦労をなさってこられたのですか」


「誰にとっても、生きていくのは楽ではありませんでしょう」

 ニニンドが冷ややかな笑みを浮かべた。


「ニニンド様のそのご苦労とは、座員の方々の暮らしのことでしょうか。そのことなら、ご心配無用ですが」


「ここでの苦労とは主にそういうことでしたが、あちらでの苦労はもっと厄介でしょう。縛られながら生きるのは、この性格には、耐えがたいことかと思われます」


「はぁ」

 ハヤッタはまた額を撫でた。なかなか読んでおられる。


「では、もうその話はいたしません」


 ハヤッタは早々と白旗を上げることにした。声の大きな者が勝つとか、長く話せたほうが勝つとかいう勝負なら、もっと議論を続けようが、ここは引き上げたほうが良策だと判断したのだった。


「お母上は随分と信念のあるお方のようにお見受けします。少しでも、お母上のお話をお聞かせいただけないでしょうか」


 ニニンドの口元が少し柔らかくなった。

「母上は私が十歳になろうとしていた春に、ある事故で、この世を去りました。ともに暮らした日々は、毎日が楽しくて、今になってみれば、あのような日々を夢のような日々というのでしょうか」


「そうでございますか。どれほどすばらしい母上様だったことでしょう。すでに亡くなられていたとは、まことに残念なことでございます」


「ありがとうございます」

「お母上はスルマール王国を出てから、どのようにしてお暮しだったのでしょうか」


「山賊をしていました」

 ニニンドがしれっとした顔で言った。


「山賊とは、山で人を襲うあの盗賊のことでしょうか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ