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42 砂漠の雨


 廊下を歩きながら、ニニンドは右に左に首を曲げて伸ばして、両手を広げた。


「ニニンド、うれしそうだね。ほっとしているの?」


「うん、すごくね」


 ニニンドが朗らかに笑って、急に前方倒立前転をした。

 

「人生って謎の多いゲームみたいなもんだね。先のことはわからない。まさか、こういう展開になるとは」


「カイリン様って、本当に王弟殿下の子供だと思いますか」


「そう思う。伯父上がそう言われているのだから、そうなんだろう」


「誰の子かなんて、どうやって証明できるのでしょうか」


「結局のところ、誰が親かなんて、誰にもわからないんじゃないのかい。世の中は、誤解に満ちているのかもしれないね」


「そうかもしれません」


「おれはまた自由になれるのかな」


 ニニンドは今度は床に片手をついて、一回転した。


「うまいね」


「こういうのは得意なんだ。座っているのは苦手だ」


「わかります」


「ここを出られたら、できればおれもキャラバンに加わって、いろんなところを旅したいなぁ。はるか東の海の向こうにあるという黄金の国を見てみたい」


「サララのキャラバンに加わって、ということですか」


「入れてくれたらの話だけど、きっと断られるだろうな。リクイは学校が終わったら、どうするんだい」


「ぼくも旅に出たいけど。でも、ぼくにはやりたいことがあるんです。兄さんの帰りを待っていたいし」


「じゃ、リクイの兄さんが帰ってくるまでここにいいて、その後で一緒に旅に行くというのはどうだい」


「そんなことができたらいいけど」


「リクイのやりたいことって、なに?」


「サララのお母さんが住んでいる町に、ハニカ先生というすごい名医がいて、前に助けてもらったことがあるんです。いつか、あんな先生になれたらと思っています」


「そうか。ちゃんと計画があるのか」


「ニニンドは、キャラバンのほかには何かある?」


「今、自由になったばかりだから、まだ詳しくは考えていないけど。最初はここから逃げ出すことだけを考えていただろ。次は学校の宿題のこと。そうだなぁ。キャラバンがだめな時には、吟遊詩人ぎんゆうしじんになろうかな。詩を読みながら、諸国を巡り歩くというのはどうかな」


「えー、不思議なものになりたいんだね」


「父親という人が吟遊詩人だったらしいんだよ。それに、おれは踊りができるから、詩を詠んだり、踊ったりして、稼ぎながら旅する。これ、いいかもしれない」


 そうだ、とニニンドが宿題のことを思い出した。


「部屋に来ないかい。一緒に詩を作ろう。急に考えが浮かんだんだよ」


 部屋に行くと、ニニンドの頭には詩が出来上がっているようで、さらさらと紙に詩を書いた。 


「きみは砂漠の雨

 雨が降ると、枯れた大地に花が咲く

 明日は雨ならいいのに」


「どうして雨なの?砂漠には雨はなかなか降らないのに」


「リクイにはわからない」


「どうして」


「まだ子供だからさ」


 リクイは古い詩を読んだり、暗記したりするのは好きだけれど、自分で詠むのは得意ではない。


 何も浮かんでこないから、リクイも「砂漠」を詠うことにした。


「夜のとばりがおりる時、

 満天の星輝き、静寂しじまが広がり、

 ぼくたちは星の歌を歌う」


「ほく達って、それ、恋の歌?」


「兄さんとのことを思い出したんです。もしかして、ニニンドのは恋の歌ですか」


 ニニンドがふっと笑った。どうも、そうらしい。

  

「ニニンドは詩作が得意なのは、詩人だったお父さんの血が流れているからかもしれないね」


「かもしれないけど、でも、彼は浮気者だったらしいから、そこは似たくはない」


「そこ、かなり似ていると思うけど」


「どうしてそう思うのさ」

 ニニンドの顔が真剣になった。


「冗談だよ」


「冗談なんか言ったことのないきみが、急に言うから、驚くじゃないか。そういうことは言うなよ。絶対に違うから」


「わかった。わかったから、そんなにキリキリするなよ」


「リクイの父親はどんな人なのだろうか」


「全然わからないけど、詩人でも、浮気な人でもないと思います」


「リクイの父親なら、律儀で、堅物だろうな。そして、めったに冗談は言わない」


「そう思う?」


「ははは、すぐに本気になる。リクイのお父さんは、きっとハヤッタみたいな人だ」


「ハヤッタ様?ハヤッタ様のことは尊敬していますけど、お父さんじゃないほうがいい」


「どうして」


「一日中、一緒にはいたくはないです。疲れますから」


「それ、言えてるね」


 ふたりは思わず吹き出し、若い笑い声が部屋に弾けた。

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