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36 ラクダパンツ


 ニニンドが急に部屋に現れたので、ナガノが手にもっていた餅を袖の下に隠した。


「若さま、こんな時刻に、どうなさいましたか」


 ナガノは夜のおやつを食べている現場を、ついに見つけられてしまったかと慌てた。痩せようと食事を減らすと、夜になって空腹になり、逆効果の連鎖が止まらないのだった。


「食べようとは思いましたが、このお餅、まだ食べてはおりません」


 えっ。ナガノは何の話をしているのだ。


「前に、サララが私を訪ねて来なかったか」


 ニニンドはナガノの心をのぞき込むような目をして訊いた。


「ああ、そのことでしたか。ずいぶん前のことですが、一度ありました」


「どうして言わないんだ」


「サララさんは、足の軟膏をもって、このナガノに会いにこられたのですよ。でも若さまに、軟膏はもう必要ないですから」


「必要あるんだよ。他に、この私に何かもってこなかったか」


「ええ。そのことはお伝えしましたけど」


「聞いていない」


「言いましたよ。贈り物は、すべて届け物部屋にいれておくようにと言っておられましたから、そのようにいたしております」


 ニニンドのところに届けられる贈り物は多いのだ。特に、王子になってからは、倍に増えた。食べ物以外の贈り物はすべて一部屋に集められているのだが、彼は興味がないから、ひとつも開いていない。


 興味がないのではなくて、実はチャンスがあれば逃げ出そうと思っているので、どうせ返すことになるのだから、あけないほうがよいと思っているなのだ。


 ニニンドが贈り物の部屋に行くと、届け物が山のように積まれていた。

 

 すごいな。

  

 こんなに届いているのか。

 

 何のためなのだ。

 

 この宮殿に引っ越しする前の届けものは、下のほうにあるはずだ。

 

 ニニンドは上の包みを押しのけた。

 

 これかな。

 

 ニニンドは茶色の包みを見つけて引っぱりだした。こういう粗末な包みはこれだけだったから、目立った。

 

 麻のひもに小さな紙がはさんであった。


「屋根は危険だ、狙われるから注意せよ。サララ姉」


「姉か。サララらしい」

 ニニンドの機嫌がとたんによくなった。

 

 ニニンドがラクダパンツと軟膏をもって、屋根に戻ってきた。


「あったよ。贈り物が積まれている部屋の、下のほうにあった。ありがとう」


「それはよかったです。とっくに届いているとばかり思っていました」


 ニニンドは、ふたりが目の前に現れて手渡してくれるところを想像していたし、そんなに早く届けてくれていたとは思ってもしなかった。

 サララが届けてくれたのだ。申し訳ないことをしてしまった。


「あんな約束、忘れてしまったかと思っていた」


「どうしてですか。約束を忘れるわけが、ないじゃないですか」


「リクイが言ってくれてよかった。でないと、ずうっと気がつかないでいるところだった。悪いことをしたなぁ」


「ぼく、伝書鳩を連れてきているんです。今、訓練中です」


「ありがとう。ラクダパンツが届いているとは知らなかったなぁ。届いていたのか」

 ニニンドが繰り返した。


「こんなことを言ったら、ニニンドは気を悪くするかもしれないけど」


「なに?サララのこと?」


「いいや。授業のことですけど、宿題くらいはやって来たほうがいいですよ」


「それかい」


 ニニンドは目を盃型にして下を向いたが、顔を上げた。「それはそうなんだけど」

「ニニンド、きみには授業がやさしすぎて、やる気が出ないのかい?」


「それは、違うよ」



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