↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
32/86

31 心に羽根があれば


「時間がたつのって、はやすぎない?」


 サララは野宿の焚火を弄りながら、左手で右手首を握りながら言った。

 

 そうですね、とリクイは頷きながら、サララが時間が早いと感じるほど、楽しい時を過ごしたのだと思った。


 火中の小枝が縮むような音を立て、その炎は先端を伸ばして、狂うように踊っていた。リクイは土産にもらった鶏肉を焼き、サララは揺れる炎の一点を見つめていた。


 サララはラクダの練習を始めた頃、あまりに疲れ過ぎて立ち上がれないでいたら、ジェットが現れて背負って帰ってくれた夜のことを思っていた。


 リクイは兄と星を見ながら、詩を歌った砂漠の夜を思い出していた。炎には、人の心を過去に引き戻す魔力がある。


「ジェットは今、何をしているんだろうか。どうして手紙をくれないんだろうか。わたし達のこと、わすれてしまったのだろうか」


「兄さんが忘れるわけがないよ。兄さんは、ぼくとの約束を一度も破ったことがないんだ。きっと何かの事情で、配達が遅れているんだ」


 リクイは両手を頭に回して、夜空を見た。


「ぼくはこう思うんだ。もし幸運に量というものがあるのなら、手紙なんか届かなくてもいい。兄さんが、元気で帰ってくるほうに使ってほしいって」


「いいこと言うね。それ、本で読んだのかい」


「自分で考えました」


「好きという気持ちは相手に届くものだと思ってきたけれど、いくら思っても、届きはしないということがわかった。ああ、心に羽根があればいいのに」


 本当に、そうだとリクイは思う。心に羽根があればいいのにね。 


「サララ姉さん、ラクダを三頭ほしいなんて、よく言いましたね」


「あいつを困らせてやろうと思っただけで、断られると思っていた」


「ニニンドは大丈夫でしょうかね。怒られたりしませんかね」


「国王がなんでもくれると言ったのだから、いいんじゃない。こっちは税金は払っているんだし、ジェットは兵隊に行っているんだし」


「そうですよね。でも、ラクダ三頭はすごいなぁ」


「自分でもそう思うけど、あいつが自慢話ばかりするから、頭にきたから言ってやった」


「ニニンドがそんなこと言いましたか」


「自分は運動神経が抜群で、美しくて、もてると言っただろ」


「ああ。でも、それって、本当のことですよね」


「それを自分で言うかい」


「たしかに。でも、もしかしたら、ジロヴィア国の人は、そういう自慢話をする傾向があるっていうじゃないですか」


「知らないけど、たぶんあいつだけではないか」


「でも、ニニンドはよい人ですよ。あんなに謝っていたじゃないですか」


「うん。しおらしく謝っていたな」


 ふたりは火を囲みながら、いったい誰が、何のために、旋風を射撃したのだろうと話した。狙われたのはニニンドとしか考えられない。彼が王の血縁だということを知っている人はまだごく少ない。


「ニニンドが死んで、得をする人は誰なのだろうか」

 とリクイが言った。


「あいつは王の跡を継ぐことなど考えていないと言っていた。後継者問題ではないとしたら、誰かに恨まれているとか」


「殺すのなら、ほかにもいろいろな方法があるだろうに。なぜわざわざラクダ競争の最中に殺そうとしたのだろうか」


 リクイがよい色に焼き上がった鶏の足を渡した。


「すごく上等な鶏肉です。ニニンドも今夜は鶏肉を食べるのでしょうかね」


「あいつは、もとは芸人で、その前は山賊だと言っていた。そんな話は聞いたことがない。作り話だったら、もっとうまく作れるだろう」


「そんな人間は見たことがないですよね、世の中には、いろんな人がいるんだって思いました」


「あいつは屋根の上が好きだと言っていた。あそこにいることがばれたら、また狙われるかもしれない。屋根はあぶないだろう。やめさせたほうがいいな」


「そうですね。でも、どうやって伝えればいいですか」


「わたしは一刻も早くラクダパンツを縫いあげるから、そしたら、宮廷に警告に行こう」


「ニニンドのことがそんなに心配なんですか」


「誰かの生命に危険があるとしたら、心配するのは当たり前だ」


「そうですね。サララ姉さん、感情欠陥症とかって呼ぶのはだめですよ。とても傷ついていましたよ」


「あいつは、簡単には傷つきはしないさ」


「悲しい目をしていました。ぼくにはわかります。サララ姉さんはやさしい人なのに、肝心な時には、そのよさが全く出てこないです。兄さんの時にも、ニニンドの時にも、強気なところばかりが目立ちます」


「そんなこと知るか」

 とサララはふふんと笑ってみたものの、リクイの心配そうな顔を見てつけ加えた。


「ニニンドは変なやつだ。人を好きになったことがないというのだから、感情欠陥症だろう。でも、そのほうが、人は幸せかもしれない」


「どうしてですか」


「人を好きになったら、胸がいたいし、苦しいから」


「でも、ぼくだったら、胸が痛くてもかまわないです」


「あんたは子供で、恋なんかした経験がないからね」


「ありますよ。ぼくのこと、何歳だと思っているんですか」


「ああ、そうだった。リクイはすごく成長したって感心した。今回のことで、どれほど利口で、頼りになるか、よくわかった。ひとりで寂しいと泣いていたチビのリクイはもういない。リクイはもう大人だ」


「ありがとう、サララ姉さん」


 満天の星が模様ガラスみたいに滲んで見えて、リクイは幸せを感じていた。ぼくはなんてきれいな世界に住んでいるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。