プロローグ
町の広場は、人で埋まっていた。
笛や太鼓が鳴っている。
笛を吹いているのは白髪の老人、太鼓をたたいているのは腰の曲がった老人である。
しかし、観客は誰も老人たちを見ていない。
その視線は、一人の少年だけに集まっている。
赤と緑の道化師の衣装をまとい、鈴のついた帽子を揺らしながら踊っている。
少年が片足を上げると、その身体が風のように宙へ舞った。
歓声が起こった。
少年は何事もなかったようにしなやかに着地し、静かに一礼した。
帽子の鈴だけが、ちりん、と鳴った。
拍手が広場を包む。
老人たちは顔を見合わせて笑った。
「今日も満員だな」
「親分のおかげだ」
投げ銭を拾い集めて終わった老人が、袋の中を覗いた。
「今夜は肉が食えるな」
「酒も飲めるぞ」
老人たちが嬉しそうに騒ぐ。
だが、少年は何も言わないし、微笑むこともない。
この十六人は、かつては山賊だった。
だが足腰も弱り、走ることも難しくなり、刀を捨てて、山を下りた。
その老人たちを率いているのは、まだ十七歳の少年だった。
この美しい少年は踊りで、十六人を養っている。
その日、広場の片隅で、一人の男が彼の舞を見つめていた。
その黒眼鏡の男は、舞ではなく、少年を見ていた。
まるで長い年月をかけて探してきた宝物をようやく見つけたような目で。
その少年の名は、ニニンド。
本人はまだ知らない。
遠く離れたスルマール王国で、ひとりの王が、少年発見の知らせを待ちわびていることを。




