嘘杖のアス
お読みいただきありがとうございます!
普段は読み専なのですが、この度短編小説に挑戦してみようと思います。
初めて書いた小説なので面白さは保証できませんし、誤字などあるかと思いますが…
温かい目で見ていただけると幸いです。
あまりにもその真実は、少年にとって高い壁のようでとても信じられるものではなかった。
両親は事故で物心がつく前に他界した、とその少年、アスは思っていた。いや、思い込まされていた。
「どうしてだよ…!!」
一人、力ない声で静かな怒りを滲ませて呟く。
せっかく魔法が使えるようになって、両親に恥じない魔法使いになるため人知れず毎日倒れそうになるまで練習して、やっとここまで来たと言うのに。
この世界では魔法使いは珍しく希少な存在として敬われる。が、魔法に目覚めたアスを周りの人々は歓迎しなかった。
むしろ、冷たく刺々しい視線を向ける者や、「見てはいけないもの」として避ける者までいた。
「…全部、嘘だったんだな」
今のアスには全てが嘘としか思えなかった。
様々な思い出、優しくしてくれた村人達、幼馴染のクルミ──
幸せだった、あの日々はもう二度と返ってこない。
そう思うだけで、生きる意味を見失うことが容易く出来てしまう。
「両親は何者かに殺された、か」
アスは、物心がつく頃には両親が死んでいて、周りの村人達に育てられてきた。
彼らからは仕事中の事故に巻き込まれて死んだとしか聞いておらず、詳しい話は教えてもらえなかったため、次第にアスの関心は薄れていった。
どうしてだろうか。
悲しさが込み上げて来るはずなのに、事実を隠蔽していた村人達への怒りがあるはずなのに、
これと言った感情が浮かんで来なかった。
急に飛び込んで来た衝撃の事実と日々の練習の疲れで、アスの脳はパンクしていた。
今日はもう何も考えられない。
これからどうしようかといった漠然とした不安を抱えたままベッドへ向かう。
いつもより早いが寝ようと思った。
「もういっそ、楽になりたい、な」
本心からこぼれ落ちた一言とともに、アスは深い眠りに落ちた。
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「ーーい、ーーーーかー?」
部屋の入り口から知らない声がする。若い男の声か。いかにも怪しい感じだ。
「まじで死んでるのかぁ ちょっと期待してたんやけどなぁ」
男は少しの間訝しんだ後、立ち去ろうとする。よし、このままどこか行くまで───。
「─なんてね」
「っ!?」
部屋を出ようとしたはずの男が急に覗き込んできた。
一瞬の出来事にアスは声も出なかった。
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「まさかあれで気づかんとでも思っとった?」
青年は軽く笑いながら言う。
「……」
「まぁ、驚かせてごめんなぁ。あ、僕は怪しいもんじゃないで。君に会いたくて来たんよ?」
怪しい。余計に怪しい。アスは不信感を強めた。
だいたい、アスのことをどこで聞いたのだろうか。
アスは、この村から出たことがない。それに、他の村人達がこのいかにも怪しい男に自分のことをあっさり話すだろうか。
それに、なんだ、この喋り方は。いかにも人を騙しそうな感じだ。
さらに言えば、さっきから身体中がざわざわする。この感覚はこの男のせいだろうか。
考えれば考える程不審者にしか見えない男から、アスは目を背けた。
「あはは・・・完全に嫌われたかぁ、失敗失敗」
青年が軽く咳払いする。
独特な喋り方もアスがいつも聞き慣れているものに切り替わった。
「それじゃぁ、本題といこうか」
「君は今、真実を知って深い絶望の淵にいるはずだ」
「どうしてそれを…?」
「一旦それは置いといてくれ。とにかく、君は魔法に目覚めたんだ」
「…?」
今更何を言うのかと思ったが、当然の事実を述べただけにしか聞こえなかった。
そんな事が本題なら早く帰ってほしいとまでアスは思っていた。
微妙な反応を示すアスに、青年は声色を変えて続けた。
「君は世界で忌み嫌われる『嘘の魔法』に目覚め、『嘘つき』になった。最近周りの様子がおかしかっただろ?……そう言う事だ」
何かを察しろと言わんばかりの重く低い声で言った。
「…この世界には」
「─っ!」
「2種類の…」
「…やめてくれよぉおおおっ!!!!!!」
この世界には2種類の魔法使いがいる。しかもそれ如何で人間としての優劣が決められてしまう。
この事実にだけは、気付きたくなかった。でも、気付いてしまった。
それだけで、アスの感情は溢れてしまった。
最近薄々気付いてはいたが、どこか嘘であってほしいと願う自分がいた。
自分が世界から忌避される側の人間だと言うことが、信じられなかった。
そして、両親の死因も、これが原因だという事が、許せなかった。
泣き崩れ、顔がぐちゃぐちゃになったアスに、声色を元の柔らかい感じに戻して、青年が続ける。
「君にとっちゃ酷やけど、『嘘の魔法』を使う『嘘つき』である我々は、迫害される運命にあるんよ。
いやー、ホントにここまで『証人』の追手がしつこくてねぇ…」
『証人』は、『嘘つき』と対となる存在だという。彼らの使う『本当の魔法』が真の魔法であると主張し、『嘘つき』を排除するためには、手段を厭わない集団らしい。追われているという事は、この謎の青年もアスと同じ『嘘つき』なのだろう。
「めっっっちゃ気に入らないんやけど、世間的に存在が尊ばれているのは『証人』なんよ」、と青年は苦虫を噛み潰したような顔で怒りと不満を口にした。
「ーーーー ……!!」
アスが色々と考えている間も何かブツブツ呟いていた青年が、ハッとして、急に顔色を悪くした。
「えーと… どうかしましたか?」
「非常にまずいことになったなぁ…!」
先ほどまでの軽い感じを纏った青年はもうどこにもいなかった。
そこにいるのは、何か覚悟を決めた、鬼気迫る様子の青年だった。
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非常にまずい事になった。
言葉ではさらりと表現できるが、正直この状況はアスの想像を大きく超えていた。
「『論者』の奴らが僕をこの村ごと消そうとしてるかもしれない」
「…それはどう言う事ですか!?」
「『論者』は『嘘つき』をこの世から排除するためには手段を選ばない。この意味が分かるな?奴らは『嘘つき』はもちろんだが魔法が使えない無能者も下に見ている。奴らからすれば無能者が幾ら死のうが構わんだろうからな」
いつの間にか青年の口調も真面目なものに戻っていた。
この怪しすぎる青年、ライの追手が村までやって来るのは予想できた。
問題なのは、この追手が複数いる事、おまけに道中で襲って来たらしい魔獣まで引き連れている事だった。
手段を選ばない『論者』の外道さ、自分の無力さに酷い嫌悪感を覚え、アスは怒りで強く唇を噛んだ。
「まあ落ち着けって。僕らには魔法がある。何も出来ないって訳じゃあない。が…そうだな」
言葉を詰まらせ、黙ってしまった。その沈黙が、お前にはどうしようもないと言っているかのように感じられた。
「…また、何も出来ないまま終わるのか…?」
「また、ね」
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アスが幼い頃、幼馴染のクルミと2人で森に遊びに行った事があった。
「ほんとに大丈夫なの?」
「だいじょーぶだって!いざという時はわたしが守ってあげるから!」
クルミの両親や村の人達には内緒で来てしまったし、森の奥は木々が生い茂っており迷いやすい。
ほとんど人が近寄らないため、どんな危険が潜んでいるのかわからない。
アスは不安で仕方がなかった。そんなアスの不安を白髪の美少女が吹き飛ばすかのように微笑んで言った。
「…なんか不安だなぁ」
「ひどい!せっかくわたしのいいところをアスに見てもらうチャンスだったのに!」
アスが冗談半分本音半分で返すと、クルミはぷくっと頬を膨らませていた。
思わず、その横顔に見惚れていた。
整った目鼻立ち、綺麗な白髪に鈴のような美しい声。
言うまでもなく、彼女はアスの初恋の人だった。
最近、村の裏手の森の深いところでお化けを見たという噂がよく話題になっていた。
アスはお化けは信じないタイプだったので、動物か何かの見間違いだろうと最初から思っていた。
しかし、これがクルミの好奇心を刺激してしまった。彼女の行動力は化け物じみている。
その結果が今の状況という訳だ。
横並びの状態から彼女はアスの手を引いてどんどん森の奥へと進んでいく。
「─!アス、あれ!お化けじゃない!?」
「何言ってんだよ!お化けって魔獣の事だったのかよ…!早く逃げるぞ!」
「ダメ!ここで倒さないと他の人が襲われちゃうかもしれない!下がってて!」
彼女の手に白色のモヤが宿り、杖となった。
闇を纏った漆黒の馬のような魔獣がこちらに迫り来る。が、彼女は詠唱を止めない。
魔獣が射程内に入ったその時、彼女の杖が眩しく輝いた。
「─<白線>」
無数の白い光が凄まじい速度で収束し、進んでいく。
彼女の使える魔法の中でも屈指の威力を誇る<白線>が直撃し、魔獣を怯ませる事に成功した。
「よしっ!!」
(やっといいとこ見せられた!アス、褒めてくれるかな?)
満足そうに頷き、こちらに得意げな顔をして何かをアピールしている。
褒めてほしいのだろうか。そういうお茶目な部分もクルミの好きなところだ。
と、一瞬の油断の直後、笑みが溢れる彼女の背後から漆黒の弾丸が向かって来ていた。
「クルミ!!!!後ろだ!!!!」
叫んだ時には遅かった。弾丸は彼女の手に当たり、持っていた杖が霧散する。
彼女は恐怖でその場に座り込んでしまった。
「クルミ!!大丈夫か!?」
「…アス…おねがい、にげて…」
アスは必死で叫ぶ。
耳を塞ぎたくなるほど甲高い魔獣の叫び声が耳を掠める。
魔獣がどんどんこちらに近づいて来るのを感じる。
(せめて、僕も魔法が使えれば…!!!)
そう悔やんでも魔法は使えなかった。
アスは立ちすくむばかりで、猶予は刻一刻と無くなっていく。
なんとかなれという気持ちともう無理だという気持ちが頭をよぎった、その時だった。
「よう頑張ったなぁ。もう大丈夫やで。──<展開>、<滅>」
柔らかい声から紡がれた魔法は、魔獣を跡形もなく消し去っていた。
その後のことはよく覚えていないが、勝手に森へ入った事を酷く叱られたのは覚えていた。
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「随分とうなされとったねぇ。そんなに酷い夢やったん?」
どうやら寝てしまっていたようだ。どのくらいの時間寝ていたのだろうか。
「今の状況はどんな感じですか…?」
まだ少し眠気が混じった声でライに尋ねると、彼は両手でそれぞれ人差し指を立てて顔の前に示した。
「ええ知らせと悪い知らせが1つずつ。どっちから聞きたい?」
「…じゃあ、良い知らせからで」
「OK、ほなええ知らせはな、追手の『証人』が1人まで減ったっちゅうことや」
「それはどういう…?」
「あー、なんか追っかけ回されてる魔獣にやられたらしいで。てことで悪い知らせやけど、この村に向かってる『証人』と魔獣はかなり、ヤバい。それと、僕分身とかは出来んから、今のところアス君には魔獣の相手してもらお思てる」
「そ、そんな強い魔獣の相手なんか無理に決まってるじゃないですか!」
1体で何人もの『証人』を屠った強力な魔獣。『証人』が数人がかりで全滅したと言うのに、どうやってアス一人で倒せと言うのか。いくら何でも無茶すぎる。
絶対に負けるという謎の自信を掲げ抗議するアスに、ライが宥めるように言葉を返す。
「まぁ、今のままやと確実に負けるやろうね。そんな君にアドバイスをプレゼントや」
「アドバイス…?あんまり参考になる気がしないんですが」
何せあの胡散臭いライの言う事だ。そう容易くは信じられない。
「んもぅ、そう言わずに聞いてくれや。ええか、『魔法はイメージ』ってよく言うやろ。あれは『嘘の魔法』にのみ許された特権。『本当の魔法』は、魔力に形を与えず直接現象を起こす。だから、威力も高いしその分扱いが難しい…て聞いてるか?」
あの時見たクルミが使った<白線>。あの歳で制御出来ていたのだから、彼女は本物の天才なのだろう。
どうやらあれ以来、彼女は魔法の才能を『証人』に見出され、村を出て修行しているらしい。疎遠になってしまった今でも週に一度は手紙が届く。彼女は幼馴染が『嘘つき』になったと聞いてどんな反応をするのだろうか。これまで通り接してくれるのだろうか。アスは少し不安になった。
「すみません、ちょっと考え事してて」
「…続けるで。対して、我らが『嘘の魔法』は良くも悪くもイメージ次第で形を変える事ができる。ええか、これだけは覚えとき。嘘はな、自分やない誰かを守る事もできる、優しいもんや。嘘は、時に鋭い剣にも頑丈な盾にもなって力を貸してくれる、心強い魔法や」
嘘は、時に鋭い剣にも頑丈な盾にもなって力を貸してくれる。
言い得て妙だった。
今までアスは、嘘の事を人の事を傷付けるだけの醜い物とばかり思っていた。
でも、そうじゃない。
嘘つきだって、誰かのために立ち上がる事ができる。
信じてくれる誰かのために、力を振り絞る事ができる。
大丈夫、できる。
アスの曇ってばかりの心に一筋の光が差した気がした。
アスが覚悟を決めてからしばらくして、村の近辺で大きな爆発音がした。
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「『嘘つき』が2人… ずいぶんと丁寧なお出迎えですね」
「そっちも大層立派な登場の仕方やなぁ」
(あれが『証人』、ゴウア…!!)
お互いに皮肉を浴びせあったところで、場の空気が一変する。
「そこのガキには申し訳ないけど、お前の隣にいる奴は『証人』の家系に生まれた、謂わば失敗作です。死にたくないなら…って、味方かどうか以前にお前も消す対象でしたね」
ゴウアがケラケラと嗤う。
なんとも不気味な男だ。
「アス、魔獣はこの男のもっと先から来てる。行けるか?」
「はい。頑張って来ます」
「よっしゃ、しくじって死ぬなよ?」
「もちろんです」
アスに迷いは無かった。
まだ見ぬ強大な魔獣へ向け、駆け出す。
さぁ、証明しようか。『嘘つき』は、嘘をつかないと言う事を。
「幼い子をあの魔獣に1人で向かわせたんですか?馬鹿ですね。あの子、死にましたよ?意図せずして敵が減ってくれて嬉しい限りです」
「はっ、あの子はもう、僕なんかよりよっぽど強いで。まぁちょっと心配やし早めに終わらせよか」
「自ら死に急ぐ真似ですか。呆れましたよ。まぁ情けで楽に逝かせてあげますけど」
ゴウアの早口の煽りを、ライは鼻で笑い飛ばす。
これから始まる強者同士の戦いに、天が歓声を上げるかの如く、荒れ出した。
風は怒り狂うように吹き荒れ、雨は地面を抉り、雷は怒声を上げている。
「一瞬で決めたる。─<展開>、<滅>」
「そう来ると思ってましたよぉ!」
ライが不可視の空間を展開し、その領域内のものを破滅させる、リスクこそ大きいが、正に規格外の魔法。
対するゴウアは雷を纏い加速、驚異的な直感で領域内から脱出し、仕返しにライに向け無数の雷を打ち込んだ。
それをライは領域を展開し直し、1つずつ消滅させる。無論、ライまで攻撃は届かなかった。
わざと範囲外に雷を落とし、爆発を起こす。土煙でお互いが見えなくなる。それを、ゴウアは狙っていた。
爆発音と土煙に紛れ複数の魔法を詠唱、土塊と火球、雷の圧倒的な質量攻撃を仕掛けた。
「お前の『領域』、消滅の処理は1つずつ、ですよねぇ!!!!」
強すぎるライの能力の弱点をあの一瞬でゴウアは見抜いていた。
故に、ゴウアは詰んでいた。
「なっ、消滅の処理が起きないだと…!?」
「──<展開>、<幻>」
ライが作り出した幻にゴウアの質量攻撃が直撃し、幻影が揺らいで消えた。
そして、ゴウアには分かるはずもないが、既にゴウア消滅へのカウントダウンは始まっている。
もう、逃げられない。
「どこ行きやがった!?」
静寂が辺りを包む。
待っても仕掛けて来ないライにゴウアが苛立ちを露わにする。
「ハナからずっとここにおるで。─<滅>」
「──っ」
断末魔は雨に紛れて聞こえなかった。そして、勝者への喝采とばかりに風が吹いた。雨が降った。雷が鳴った。
「アス君に、『分身は作れない』って嘘ついてもうたな。ま、余裕で勝てたしええか!」
強者同士の戦いだったはずだが、非常にあっさりと終わってしまった。
いくら早めに終わらせると言ったといっても、もう少しやり合いたかった、と少し残念そうな顔をして呟いた。
「さて、アス君は頑張っとるかなぁ」
以前の彼じゃ間違いなく全く話にならないレベルの相手のはずだ。
ゴウアにはアスが心配と言った。
しかし、彼にあるのは、「あの子ならできる、必ずやってくれる」と言った弟子への信頼だけだった。
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今までこんなにも感情が昂ったことは無い。身体が動いたことも無い。
今なら何でも出来そうな気がする。
そんな全能感にアスは浸っていた。
もちろん、慢心はしていない。
死んだら元も子もない。
それでも、アスは進まなければいけない。
信じてくれる人のために。どんなに打ちのめされても、立ち上がり、戦うために。
「あれが例の魔獣か」
見えて来た大きな魔獣にアスはどこか見覚えがあった。
「あの時の…」
クルミと一緒に行った森で遭遇した漆黒の馬の上位種。
あの時の個体より格段に大きく、ツノが生えている。アスが昔本で読んだユニコーンと言う架空の生物に似ているので、闇ユニコーンと呼ぶことにした。
「弱点は…あのツノか」
あいつはヤバい。本能がそう訴えている。
でも、やるしかない。
アスは強く拳を握った。手が震える。
黒いモヤが杖となって手に収まる。普段杖は使わないと言うか、『嘘の魔法』は杖を必要としない。所詮、偽者の嘘の杖だが、今回ばかりはなぜかそっちの方がしっくりくるので杖を持った。
ある程度近いたところで、闇ユニコーンがこちらに気付いた。と同時に無数の魔法陣が浮かび上がる。この攻撃は見た事がある。クルミの手を撃ち抜いた漆黒の弾丸である。
既に、対処法も知っている。アスはライに教えてもらった簡易的な領域で攻撃を逸らし一旦全てを受けきった。
ぶっつけ本番の挑戦だったが上手く決まったので、内心ニヤけつつ、次の行動に移る。
アスは一気に闇ユニコーンとの距離を詰める。そして杖に魔力を込めて剣へと変化させる。
その間も弾丸による攻撃は止まない。領域を維持しつつ、奴の気を逸らすために足元へ魔力弾を飛ばす。
多少弾丸が身体を掠めるが気にしない。
そして、隙を待つ。
タイミングが───今だ。
強化した身体で高く飛び上がり、大きく剣を振りかぶる。そのまま闇ユニコーンの立派なツノに向けて思いっきり剣を振り下ろした。
「おおおおおおおおお!!!!」
ツノはギャリギャリと嫌な音と激しい光を発して、ついに、両断された。
闇ユニコーンがとても耳障りな悲鳴をあげる。と同時に、奇声を上げながら突進して来た。
それを難なく躱わしたアスは、過去の自分の弱さの象徴に別れを告げるべく、距離を取り、詠唱する。
それにしても、ここまであっという間だった。魔法に目覚め、両親の死の真実を知り、怪しすぎるライと出会い、色々な事を教わった。痛かったし、苦しくもあった。何度も挫けそうだった。でも、自分が生きる理由を見つけることができた。自分に自信がついた。それだけで、こんなにも力が湧いてくるなんて思いもしなかった。
─嘘は、自分じゃない誰かを守ることができる、優しい魔法。時に鋭い剣にも頑丈な盾にもなって力を貸してくれる、心強い魔法。
僕の魔法の原点は、間違いなくあの森にある。あの時見た幼馴染の、天才の、大切な人の、魔法をイメージし自分の魔法に昇華していく。
剣が黒いモヤになりさらに弓へと変化する。そして、手のひらから生み出したのは、眩しい光の矢。
矢をつがえ、全身全霊で引き絞る。
空気の変化に気付いたのか、闇ユニコーンは起死回生の一手を繰り出そうとしている。
だが、もう、遅かった。
「色々気付けたのもお前のおかげかもな」
引き絞った弓からまばゆい光の矢が放たれる。
アスのこれまでの人生全てを乗せて、文字通りの命懸けで。
「『極光』」
クルミの『白線』を元に築き上げた『極光』。
かつての幼さ故の弱さの象徴に、幼馴染の2人が引導を渡したのだった。
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「いやぁー、まさか本当に1人でめちゃ強魔獣倒しちゃうとはねぇ。ま、僕はそんなん当たり前にやってくれると思っとったけどな?」
「絶対嘘でしょ…」
「あらー、モロバレやった? おっ、あれ見てみぃ、虹や」
「本当ですね。初めて見ました。」
特に中身のない会話をしていると、村人達が集まってくるのが見えた。
まさかこの一連の騒動の責任を『嘘つき』に転嫁するつもりだろうか。
「なんかぞろぞろ集まって来たぞ」
「ですね」
お互いに長く疲れの溜まる戦闘をしたからか、知能の低い会話が続く。
そこへ村長がやってきて、「お前さんらや」と声を掛けてきた。
「…此度の騒動は『嘘つき』がやったのかね?」
村長が静かに尋ねた。
アスとライは回らない頭をフル回転させて、なんとか事情を全て説明した。
事実を知った村長含め村人達がかなりザワついている。
「まぁ、そりゃこうなりますわ」
「なんかこう、頭がパンクしちゃいますよね」
こうなる事を予測していたライと、同じ事をライにされ村人達と同じ状況に陥った経験のあるアスが頷く。
しばらくして、村長がどこか言いづらそうに口を開いた。
「そのなぁ…魔獣から村を救って下さったのは感謝しておる。これからもアスがこの村にいてほしい気持ちもあるんじゃが、『嘘つき』を村に駐留させてると王都にバレた時にマズいからのう…その…」
「いつ帰って来ても良いんですよね?」
「ええ!ええ!それはもちろん」
「なら早速出発の準備ですね!」
「アス君さぁ、切り替え早ない?」
「そうですか?ライが遅いんじゃないですか?」
「なんかしれっと僕をディスり出したなぁ。成長したで、ほんまに」
完全に成り行きだが、故郷の村を出る事になった。
しかし、アスは後悔などそう言う気持ちは持っていない。
今までにないスッキリした感覚があった。
あと、ライが完全に親戚のおっちゃんムーブをかまし始めたのは目を瞑ってあげようと思う。
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数日後、旅立ちの日がやって来た。
「それでは、気をつけるんじゃぞ、アス、ライ。いつでもまた帰っておいでよ。」
「はい、行ってきます!」
「ちょい待ちー!爺さんなんか渡し忘れてない?」
「…そうじゃったな。アス、これを」
「これは…クルミからの手紙!?読んでも良いですかっ!?」
「そんなに興奮するでない。ほれ、好きに読みなさいな」
そう言えば前に手紙が来たのは1週間前だったっけ。
時間の流れの速さに驚きつつ、手紙を開く。
アスへ
アス!!聞いたよ!?魔法使えるようになったんだってね!!おめでとう!!、で良いのかな?ちょっと今頭がパンクしてて上手く手紙が書けません!!許して!!ていうか、私のお兄と仲良くしてる?ちょっと、っていうか大分変な奴だけど根はいい人だから仲良くしてくれると嬉しいです!
最後に、私は嘘だろうと本当だろうとアスを信じてるから、周りにとやかく言われても、絶対に挫けないで。私がいるからね!!
クルミ
追伸
これは私の我儘なんだけど…伝えたい大事な事があります!!!だから王都まで来て!!!お願い!!!
「ライ君…?何で黙ってたのかなぁ〜?」
「いやホントすみませんすみませんすみません」
クルミからの手紙が来た嬉し涙と、クルミの兄である事をずっと隠してたライに対する軽蔑など多種多様な感情で声が震える。
とりあえず、村長その他大勢の前でこれ以上惨めな姿を見せたくないので、大きく息を吸って、感情を落ち着ける。
これからの旅路を見据え、涙を拭う。
アスはもう挫けない。嘘を笑う全ての者を蹴散らし、こんな自分を認めてくれた幼馴染に、感謝を伝えるために。今まで伝えられなかった想いを、伝えるために。
「大丈夫か?」
「はい、バッチリです!」
「ほな、行こか」
「はい、行きましょう!!」
「…やっぱアス君切り替え早ないか…?」
「うるさいです!」
「すごくダイレクトな暴言やめてね!?」
騒々しいくらいがアスには丁度いい。
旅立ちの道を照らす太陽はいつもより眩しく、空はより青く見えた気がした。
〜どうでも良い補足〜
クルミ、ライ、アスのネーミングは「来る未来、明日」からきています。
ちなみに、すぐ退場したゴウアさんは英語のagoの並び替えです。
…はい。どうでも良いし安直すぎる名付けですね。
そんな事はさて置き、最後までお読みいただき本当にありがとうございました!
いかがでしたでしょうか。王道すぎて、あまり(もはや全くと言って良いほど)面白くなかったかもしれません。
それでも面白かったよ〜っていう方は何かしらコメントを残していただけると嬉しいです。
お疲れ様、みたいな労いでも良いので、何卒…。
僕の生きがい、自己肯定感、その他諸々の維持向上に繋がりますので…。
恐縮ですが、宣伝させてください…。
実はもう1作品、短編を投稿しています。おそらく日常系っぽい作品となっております。
もしよろしければ、ぜひ!
最後に繰り返しになりますが、拙作「嘘杖のアス」を読んでいただき本当にありがとうございました!




