ボス戦
中に入ると大きな牛の姿のモンスターが立っていた。
『あれー?私の記憶じゃボスはオークだった気がするんだけどなぁ?』
《あれミノタウロスじゃね!?》
《レアボスキタァ!》
《運がいいのか悪いのかだな笑》
配信的にはありがたいのだが、さすがに困る。ミノタウロスは序盤に登場するモンスターの中でもかなりの強さを誇る。高火力で一発でもくらえば今の俺たちならやられることだろう。そしてミノタウロスは遅いと言われがちだが、始まりのダンジョン内、その周辺にいるモンスターの3倍以上は速い。
「どうしますか?」
『ボス部屋に入った以上戦うしかないですね』
ボス部屋は一度入ると脱出は不可能。外部から入ることもできない。つまりミノタウロスを倒すか俺たちが倒されるかしないと終わらないと言うことだ。
「そうですね…それじゃあガチで行きます」
『私もそのつもりです!』
・・・
私は猫田ミケという名前で活動しているエコーボイス所属のVtuber。現在私はとある配信者のMaS配信を見ていた。その配信者とはエコーボイスの新人Vtuber、花咲桜ちゃん。エコーボイスの先輩としては見守っていきたいというのと、私が普通にMaSが好きなのも合わさり、個人的に見ていたのだが…
「すっご…」
私はその戦闘に魅入っていた。連携力が今まで見てきたどんな配信者より完成されていた。もちろんプロの世界で見ればもっと上はたくさんいる。でもエコーボイス内でなら最上位と言えるだろう。だがそれを可能にしているのは桜ちゃんではない。その隣で戦うマネージャーだ。敵と味方の動きを完全に把握して動いている。味方が安全で動きやすいように補助、そして敵が動きにくいように攻撃や場所取り。メインで攻撃はしていないが、それでもわかる人にはわかる。この人はプロだ。だからと言って桜ちゃんが凄くないわけでもない。でもその部類は違う。マネージャーは実践とした凄さ、桜ちゃんは魅せる技の凄さがある。華麗で綺麗…戦闘をしながら、しかも格上相手にそんなことができるのはなかなかいないだろう。
「桜さん。ギア上がってませんか?」
『そうですか?』
「ペースダウンしましょう」
《??》
《確かにギア上がってたけどなんで緩める?》
《なるほど》
《わかる人解説くれ!》
《戦闘中にギアを上げる行為は戦闘を焦っていたり、盛り上がったりするタイミングです。ですがギアを気付かぬうちに上げているとあとで体力がなくなったり、一度のミスで精度が上がる前より悪くなったりします。それを避けるため上手い人たちはできるだけギアを守った動きをしています。長距離走とかと同じイメージですね。そして何より、相手は自分たちより格上ですが今優勢に立っているのは桜ちゃんとマネージャーさんです。焦る必要はないということも暗に言っているのかと》
《長文〜誰かまとめてくれぇ》
《↑長距離走走ろう》
コメント欄もかなり盛り上がっている。そりゃそうだ。こんなすごい人たち二人の共闘なんてそうそう見られない。
「そろそろHP半分ですかね。」
『ここからさらに集中が必要ですね』
二人はさらに集中していく。だが速くなったわけでも、力が入るような感じでもない。でも何かが違う。言葉で言い表せないそれが変わっている。そして戦闘開始から20分経過、ミノタウロスが咆哮を上げ、身体に赤色のオーラを纏った。
「来ましたね」
ミノタウロスは固有スキルで凶暴化というものを持っている。効果はHPが半分を切ると攻撃力と素早さが上がるというものだ。攻撃力に関しては元から当たったらアウトだったため関係ないが素早さはなかなか厄介な気がする。どう対処するのか考えていると、なんとマネージャーが先陣を切って突っ込む。
「それは愚策なんじゃ!?」
ミノタウロスはそれに反応し手元にある大きな斧で攻撃をする。やられた。多分視聴者全員が思っていたことだろう。でも次の瞬間その考えは否定された。
「まだまだ遅いですね」
「なっ!?」
何が起こったのか分からなかった。わかるのは一つだけ、彼はあの状況でミノタウロスの攻撃を避けたのだ。
「ミノタウロスの弱点は足元です。巨大な体であるが故に足元に入られると攻撃をしようと体勢を変えます。ですがその瞬間だけは他の動きと比べてもかなり遅いです。なので、楽々攻撃が入れられるわけですね」
ミノタウロスを本当に余裕そうに蹂躙していく。マネージャー一人でも勝てたであろうところにさらに桜ちゃんも加わる。2対1、格上相手、なのにも関わらず、視聴者や私は同じことを思った。
「《ミノタウロス可哀想…》」




