よくあるいじめられるヒロイン
今回も名前を借りました
ありがとうございます
「お姉様、お茶会しましょう。お庭に用意させてるの。着替えたら来て」
そう言って、私は自室で1時間本を読む。
それから、ゆっくり庭に出て、待たせた姉のセレナに
「あら?お姉様、待たせたかしら?」
と、微笑む。
セレナは、
「そんなに待ってないわ。お茶にしましょう」
と、微笑む。
目の前に、お茶が用意される。
セレナには、渋いお茶を出すようにメイドに言ってある。
しばらく黙ってお茶を飲む。
庭の入口に誰かがやって来るのが見えた。
「お姉様はバカよねぇ」
私は、ティーカップを置きながら言った。
「姉に向かって何を言っているんだ」
やって来たのは、セレナの婚約者、ルークス。
約束の時間通りに来た。
「気にしてはいけないよ。俺の可愛い婚約者殿」
ルークスが、セレナの手を取り慰める。
「ありがとう」
「当たり前だよ。婚約者じゃないか」
2人だけの世界ができたので、そっと自室に帰る。
ソファに座って、ため息をつく。
私アクアは、事情があって、セレナにキツく当たっている。
それは、セレナの婚約者を紹介された時。
セレナの婚約者のルークスは、見た目は優しそうだった。
だが、挨拶が終わって自室に戻ろうとした時、ルークスが話しかけてきた。
誰にも見られないように、廊下の陰で、腕を掴まれた。
「お前、俺の言う事を聞け」
さっきまでの好青年は何処へ行った?と、思う間もなく
「姉をいじめろ。わざとらしく嫌がらせしろ」
「な…何でですか?」
「黙って俺の言う事を聞け!でないと…」
低い声で言われ、睨まれ、腕を掴む手に力を入れられ、怖くて動けない。
「酷い目に遭うのはお前だ」
私は仕方なく
「分かりました」
と答える。
「この事は誰にも言うなよ。言ったらどうなるか…分かってるんだろうな」
「分かりました」
それを聞くと、ルークスは
「分かったならいいんだ。早速今日からやれよ」
機嫌良さそうに、セレナのところへ戻っていった。
自室に帰り、腕を見ると痣ができていた。
もし、いじめなかったら、どうなるんだろう…
この事を両親に言ったら、どうなるんだろう?
それから、どうやったらいじめになるのかを考えた。
わざとらしい嫌がらせとは?
ルークスがセレナの婚約者でいる限り、ずっと続くのだろうか?
結婚してしまえば、終わる?
次の日、ルークスがセレナに会いに来た。
ちゃんといじめているのを見せつけるように、ルークスに挨拶して部屋を出る時に、セレナの足をわざとらしく踏んだ。
すると、ルークスが
「大丈夫かい?」
セレナを労るように手を握った。
「大丈夫です…ありがとうございます」
「良いんだよ。婚約者なんだから」
2人の世界を作り出したので、すぐに部屋を出る。
これは…悲劇のヒロインを優しく慰めるヒーロー的な感じ?
私にわざといじめさせて、ルークスが慰める?
ルークスの好感度を上げる為に、私がいじめる?
私はうんざりしたが、ルークスが何をするか分からなくて怖いので、ルークスの目の前でだけ、セレナをいじめる事にした。
セレナとルークスが、貴族学園に入学した。
セレナ達が学園にいる間は、自分の好きな事をしようと思って、読書したり、刺繍したりした。
セレナは、学園でもいじめられているらしい。
学園からの帰り、馬車で送ってきたルークスに慰められていた。
ある時には
「ブスでグズで性格悪い無能…だなんて、君が可愛くて頭が良いから、皆嫉妬しているんだよ」
と、ルークスが言っていた。
きっと、ルークスが学園に噂をばら撒きセレナを追い詰めながら、ルークスが庇う事で、セレナの気を惹こうとしているのかも。
自分だけが味方だ、みたいな顔をして。
セレナは、段々ルークスに依存していった。
「卒業したらすぐに結婚しよう」
「はい」
よく、2人だけの世界を作っていた。
それから、私が学園に入学すると、またルークスが脅してきた。
他の生徒達の前でもセレナをいじめろ、と。
毎日、他の生徒の前で、セレナにぶつかったり、「バカなお姉様」と言うたびに、ルークスがやってきて、セレナを慰め、2人の世界を作っていた。
今日も、投げやりにセレナに声をかける。
「バカなお姉様」
「酷いわ」
「真実を見なさいよ」
「真実って何よ?」
「その空っぽの頭で考えなさいよ」
ルークスがやってきて私を怒鳴りつける。
「やめるんだ!姉をいじめるなんて!」
「はぁ〜バカらしい」
私は、さっさと2人から離れた。
「ありがとう」
「大事な婚約者だから、絶対に守るよ」
今日もまた、2人だけの世界を作っていた。
「はぁ〜」
誰もいない学園の庭の片隅で、ため息をついた。
「大変だね」
後ろから声を掛けられた。
「な…何ですか?」
びっくりして振り向くと、同じクラスの留学生がいた。
「いじめる振りも大変だと思って」
「え…?」
「見ちゃったんだよね〜君の姉の婚約者から、君が脅迫されてるの」
「え?」
先日も、学園の廊下の陰に引っ張られ、また腕を掴まれ脅されたのだ。
「もっと大げさに突き飛ばせ、とか、髪を引っ張れ、とか、言われてたろ?」
「…」
「誰にも言わないよ。ただ、あの婚約者が何を考えてるのか知りたくて」
「悲劇のヒロインを救うヒーローは好かれるから」
「は?」
留学生は、瞬きをした。
「本人から聞いた訳じゃないから分からないけど。周りからいじめられる悲劇のヒロインを、助けて優しくすれば、依存して離れなくなるからじゃないかな」
「君にいじめさせて?自分が助ける?」
「そう。あと半年…お姉様達が卒業したら終わり」
「卒業したら?」
留学生は、首を傾げた。
「お姉様が結婚して家から出ていくから」
「そっか…そうだね。…それまで辛いね」
「もう、どうでもいいかな。自分を好きになってもらうために、私にいじめさせて慰める男と、それに気付かないバカな女」
「じゃあさ、今から留学しない?」
「留学?」
「半年って長いよ。だから、俺と一緒に、俺の国の学園にいこう?そしたらあいつらから離れられるよ」
「何で私を誘うの?」
私は、留学生をまっすぐに見た。
「気まぐれかな」
「気まぐれ?」
「君は、姉をいじめてるはずなのに、噂されるのはいじめられてる姉。おかしいと思わないか?」
「まぁね」
普通は気付くよね。
「だから、君を観察していた」
「観察?」
「君は、わざとらしく目立つように姉に悪態をついていた。それ以外は、真面目に勉強して、図書室で本を読んで。…君が本当にしたいことは何?」
「分からないわ」
「じゃあさ、今の環境から離れて、自分の為に生きよう?」
「自分の為?」
「そうだよ。姉の婚約者や姉の為じゃなく、君の為に」
良いかも…と思ったが、ルークスの顔が思い浮かぶ。
「留学…でも、きっと両親も姉の婚約者も反対するわ」
「反対させないよ。この国を出るまで、姉と婚約者には黙っておこう」
「そんな事できるの?」
「できるさ。で、留学する?」
私は頷いた。
「じゃあ、引っ越しの準備してて。多分、3日後には移動できるから。俺はデイズ。君は?」
「私はアクア」
「アクアね。姉に気付かれないようにね!じゃあ、3日後にね!」
気が付くと、移動の日になっていた。
姉が学園へ向かった後に、馬車で迎えに行くよ、と昨日、デイズが知らせてきた。
ルークスが送り迎えする姉とは、別に通学しているので、多分気付かれないだろう。
両親は、特に気にしないようで、いってらっしゃーいと送り出した。
約束通り、姉が学園に行った後、馬車で迎えにきたデイズ。
私の荷物は、旅行カバン2つ分。
御者の人が、積んでくれた。
「本当に留学するのね」
「そうだよ。楽しみだね」
「うん、楽しみ。でも、どうやって両親を説得したの?」
「うん?…姉の婚約者が何してるか知ってるのか?って聞いた。姉が学園で何をされてるかも。でも、君の両親は知らなかった。君がどんな目にあってるかも」
多分そうだろうなと思っていた。
気付いてないというか、興味ないというか。
だから、家を出ても良いかなと思ったのだった。
「それなら君がどこで何をしてても良いだろって、留学の書類にサインさせた」
「…」
「よくがんばったな」
デイズは、私の頭を撫でた。
「優しくしたら、惚れると思ってるの?」
「う〜ん。そんなつもりはないけど、そう思っちゃうよな…。まずは、姉の婚約者みたいな人ばかりじゃないって知るところからかな。
…でも、俺にだけ懐くのも捨てがたい」
最後は小声だったので、聞き取れなかった。
デイズは、ルークスに脅されている私を見てから、色々調べたらしい。
「何人もの生徒に、差出人不明の手紙が来ていたらしい。内容は、君の姉をいじめろって。いじめなかったら、お前が標的だ、と書いてあったらしい」
「だから怖くて、セレナをいじめていた?」
「そうだ。そして、すぐに駆け付けて、慰めるお優しい婚約者」
「できすぎよね」
「そうだね」
「何で意地悪されるのかとか、考えないのもどうかと思うけど」
「本当にね」
そこで、ふと思い付いた。
「結婚してもあんな感じなんですかね?」
「気になるかい?」
「結婚したら満足して終わるのかな…」
「メイドにいじめさせるかもしれないね」
「結婚したら、よほどの事がないと逃げられないのに?」
「婚約者が慰めにきた時に、2人の世界になるだろう?それがしたくてやるかもしれないぞ」
デイズがニヤリと笑う。
「でも、もう関係ないわ」
考えるのに飽きたので、馬車の外を見る事にした。
「君はずっと王都暮らしかい?」
「えぇ。王都もほとんど出歩かなかったから、外の景色は初めて」
「それなら、向こうに着いたら、沢山出掛けよう」
「出掛ける?」
デイズを振り返り、首を傾げる。
「街を見たり、美術館や図書館に行ったり、庭園や湖に行ったり…」
「図書館なら、読んだ事ない本があるかしら?」
「学園の建物位ある大きな図書館だよ。色んな国の本もあるし」
「本当?楽しみ」
やっと私の表情が緩み、ホッとした顔をするデイズ。
「我が家にも、それなりに本はあるよ」
「そうなの?…そういえば、どこで暮らすの?」
「俺の家だよ」
「デイズの家?」
「そう。新しい学園は、俺の家から通えるよ」
家や学園の事など、何も聞かず、全部任せてしまった事に気付く。
「全部やってくれてありがとう」
「気にしないで。俺の為だから」
「そう…?」
嬉しそうに笑うデイズに、それ以上は聞けなかった。
デイズの家は、公爵家だった。
娘ができて嬉しい、とデイズの両親に大歓迎された。
兄と弟がいて、妹が、姉が、できて嬉しいと歓迎され、メイド達も、令嬢のお世話ができるなんて、とこちらも歓迎された。
この国や公爵家の事を教えてもらい、半月後には学園に通う事になった。
デイズの母にお茶に誘われたり、デイズと街を見て周り、図書館や美術館にも行った。
新しいドレスや装飾品などを買ってもらったり、こちらが、恐縮してしまうほどだった。
忙しくて、元の家族の事など考える暇も無かった。
家族に手紙も出さず(元の家族からの手紙も無かった)、招待状が来ても姉の結婚式にも行かず、デイズや家族、学園で出会った新しい友人達と、楽しく暮らした。
「家を出て良かった」
ある日、ポツリと呟いた。
「誘って良かったよ。表情が明るくなった」
「ありがとう」
お礼を言って微笑むと、デイズが言った。
「その笑顔だ…ずっと見たかった。初めて会った時の笑顔が忘れられなくて」
「初めて会った時?」
「覚えてないかな。入学したばかりの頃…学園で迷子になった時に、君が声を掛けてくれたんだ」
学園に入学したばかりの頃、困っている人を見かけて、声をかけて、一緒に事務室を探した気がする。
でも、その人は、眼鏡を掛けていたような…
「眼鏡」
「あぁ、眼鏡はね、声を掛けられない為に、わざとかけてたんだ。顔が良いからね」
確かに顔が良いし、こちらの学園でも、女生徒からよく声を掛けられている。
「つきまとわれて嫌だったから、留学して…向こうの学園では、眼鏡掛けて声を掛けられないようにして」
「今はかけてないね」
「君がいるからね」
「私?」
私は首を傾げた。
「可愛らしい君に悪い虫がつかないようにね。牽制してるんだ」
「可愛らしい?初めて言われた」
「君は可愛いよ。せっかく捕まえた可愛い君を、他の男に取られたくないからね。だから、君にピッタリくっついてるんだ」
「…そう」
よく分からない。でも、嫌じゃない。
「今は分からなくても、いつか分かるよ」
デイズは笑って私の頭を撫でた。
分かる日が来るのだろうか?
のんびりと、その日を待つことにした。
元の家族のことは、思い出しもしなかった。
読んでいただきありがとうございます




