第6話:初めての共同作業
夕日が赤く染めるレガリア大橋。
王都と外の世界を繋ぐこの巨大な石橋の上を、二つの影が疾走していた。
「はぁ、はぁ……! なんで、こんなに長いんだ、この橋は!」
息を切らすアルヴィンに対し、銀髪をなびかせるグラムは涼しい顔で、むしろ楽しそうに周囲を見渡している。
「素敵ねアルヴィン! 夕日をバックに駆け落ちなんて、まるで恋愛小説のクライマックスみたい!」
「駆け落ちじゃない、戦略的撤退だ! それにまだクライマックスには早すぎる!」
アルヴィンが叫んだその時、上空から甲高い鳴き声が響き渡った。
雲を切り裂いて現れたのは、翼膜を広げた巨大な爬虫類の群れ――王国の精鋭、飛竜騎士団だ。
「発見したぞ! 反逆者アルヴィンと魔女だ!」
数騎の飛竜が急降下し、橋の行く手を遮るように着地する。
さらに後方からも増援が迫り、橋の上は完全に挟み撃ちの形となった。
「あら、ハエがたかってるわね。アルヴィン、下がってて。この橋ごと消し飛ばしてあげるから」
グラムが凶悪な魔力を右手に収束させ始める。
彼女の『全開』なら、飛竜どころかレガリア大橋そのものが崩落しかねない。
「待て待て待て! 橋を壊したら俺たちも渡れないだろ! それに、騎士たちはかつての同僚だ、殺したくない!」
「ええー? じゃあどうするのよ。あのトカゲたち、結構硬いわよ?」
アルヴィンは瞬時に思考を巡らせる。
ただ逃げるだけでは追いつかれる。
かといってグラムの力任せな攻撃では被害が甚大すぎる。
必要なのは、『適度な制圧力』だ。
かつての勇者としての勘が、一つの解を導き出した。
「グラム! 『部分変身』はできるか!?」
「部分変身?」
「全身じゃなくていい! 右腕だけを剣に変えてくれ! 俺が振るう!」
グラムはきょとんとした後、花が咲くような満面の笑みを浮かべた。
「まあ! 私の一部をあなたが握ってくれるの? 激しく振ってくれるのね!?」
「言い方! でも、そうだ! 俺の技量と君の切れ味を合わせれば、殺さずに無力化できるはずだ!」
「喜んで、旦那様!」
グラムが右手を差し出すと、その腕が白銀の粒子となって変形し、鋭利な刃へと変わる。
アルヴィンは躊躇なくその『刃となった腕』を掴んだ。
ドクン、と魔力が流れ込んでくる。
これまでの、ただ振り回されるだけの関係ではない。
アルヴィンの意思が、グラムの破壊衝動を制御していく感覚。
「行くぞ!」
アルヴィンは飛竜の足元へ向けて、鋭い横薙ぎの一閃を放った。
剣技『空裂』。
グラムの魔力を乗せた衝撃波が、斬撃となって飛竜たちの足元を襲う。
しかしそれは肉を斬る刃ではなく、凄まじい突風の塊として作用した。
「グオオオッ!?」
強烈な風圧に煽られ、飛竜たちがバランスを崩して横倒しになる。
騎乗していた騎士たちも体勢を崩し、追撃の構えが解けた。
「今だ! 走り抜けるぞ!」
転がる飛竜たちの隙間を縫って、二人は包囲網を突破する。
橋の崩落も、死傷者もなし。
完璧なコントロールだった。
「すごいわアルヴィン! 今の、二人の愛の波動って感じだったわね!」
「ただの風圧だ! ……でも、助かった。ありがとう、グラム」
「っ……!」
礼を言われたグラムは、剣の状態のままカアッと赤くなり、ボシュッと音を立てて人の姿に戻った。
「も、もう一回! 今の『ありがとう』もう一回ちょうだい! 録音するから!」
「機能多すぎだろ魔剣! ほら、国境はもう目の前だ!」
騒ぎ立てるグラムの手を引き、アルヴィンは橋の出口へと走る。
その手には、魔剣の重みとは違う、確かなパートナーとしての重みが残っていた。
こうして二人は、無事に王都を脱出。
広大な『外の世界』へとその一歩を踏み出したのである。
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【登場人物】
- 飛竜騎士団: 王国の精鋭部隊 / 追手
【アイテム・用語】
- 飛竜: 飛竜騎士団が駆る翼竜。高い機動力を持つ。
- 空裂: アルヴィンの剣技。魔剣の力を風圧に変換し、非殺傷の広範囲攻撃として放った技。




