第3話:新婚旅行は命がけ!? ライバルと騎士団の包囲網
「はぁ、はぁ……っ! なんで俺が、自分の国の騎士団から追われなきゃならないんだ!」
王城の中庭を抜け、城下町へと続く大通りを全速力で駆け抜けながら、俺、アルヴィンは悲痛な叫びを上げた。
背後からは、怒号と金属鎧が擦れる音、そして何より恐ろしい幼馴染の絶叫が響いてくる。
「待ちなさいアルヴィン様! 騙されてはいけません、その女は魔物です! 洗脳されているのです!」
「洗脳じゃない! 俺はただ、辞表を出して田舎に帰りたいだけだーッ!」
俺の隣を、銀髪の美少女――魔剣グラムが優雅に並走している。
物理的な身体能力が人間とは桁違いなのだろう、息ひとつ切らしていない。
それどころか、彼女は頬を赤らめてうっとりと俺を見つめていた。
「ああん、素敵よダーリン。これが『駆け落ち』という愛の逃避行なのね! 世界を敵に回しても私を選ぶなんて……やっぱり責任とってくれる気満々じゃない!」
「違う! 断じて違う! 俺は平穏を選びたいだけだ!」
「問答無用です! 騎士団、放てぇぇッ!」
セシリア王女の号令と共に、後方から無数の『魔法の矢』が降り注ぐ。
殺傷能力はない拘束用の魔術だが、当たればタダでは済まない。
「ちっ、うるさい羽虫たちね。私たちの愛の巣(予定)への道を邪魔するなんて」
グラムが冷徹な瞳で振り返る。
彼女が右手を軽く振ると、その腕が一瞬にして銀色の刃へと変形した。
キンッ、キキキンッ!
目にも止まらぬ速さで振るわれた刃が、降り注ぐ魔法の矢をすべて切り払い、光の粒子へと還元する。
「す、すごい……魔法そのものを斬ったのか?」
「当然よ。私は伝説の魔剣だもの。あなた以外の全てにとって、私は死そのものですから」
ふふん、と誇らしげに胸を張るグラム。
その頼もしさと危うさに胃を痛めつつ、俺たちは大通りの十字路に差し掛かった。
王立ギルド本部はもう目と鼻の先だ。
あそこに逃げ込んで辞表さえ叩きつければ、俺は自由の身に――。
「そこまでだ、アルヴィン!」
突然、行く手を阻むように一人の男が飛び出してきた。
派手な黄金の鎧に、無駄に整えられた金髪。
手には巨大な槍を構えている。
「レオン!? お前、なんでここに!」
レオン・フレア。
自称『勇者のライバル』であり、いつも俺に決闘を挑んでくる暑苦しい男だ。
実力は確かだが、今は一番関わりたくない相手だった。
「王女殿下から連絡を受けたぞ! 魔剣の呪いに操られているそうだな! この俺、次期勇者筆頭のレオン様が、その魔女を討ち取って正気に戻してやる!」
「いや待て、話を聞け! 俺は正気だ!」
「問答無用! くらえ、疾風の突き!」
レオンが鋭い突きを繰り出す。
その切っ先がグラムに向かった瞬間、俺の背筋が凍った。
グラムの表情から、一切の感情が消え失せたからだ。
「……私の夫(予定)に武器を向けたわね?」
「グラム、殺すなよ!? 絶対殺すなよ!?」
「安心して。半殺しで勘弁してあげる」
グラムは避ける素振りも見せず、突き出された槍の穂先を、あろうことか素手(人間の手の形状のまま)で掴み取った。
「な、に……!?」
レオンが驚愕に目を見開く。
「硬い……! 貴様、何者だ!」
「ただの通りすがりの人妻よ」
グラムが指先に少し力を込めた瞬間、鋼鉄製の槍の穂先が、飴細工のように粉々に砕け散った。
「ひっ!?」
「邪魔よ。失せなさい」
グラムは冷たく言い放ち、呆然とするレオンの胴体に軽い回し蹴りを叩き込む。
ドゴォォォン!
けたたましい音と共に、自称ライバルは星の彼方――ではなく、通り沿いの果物屋の屋台へと吹っ飛んでいった。
「レオンーーッ!」
「さあ行きましょうダーリン。邪魔なゴミ掃除は終わったわ。早く婚姻届を立てに行きましょう?」
「辞表だよ! あとレオンに謝れ!」
瓦礫の山となった果物屋で目を回しているレオンに心の中で合掌しつつ、俺はグラムの手を引いて再び走り出した。
目の前には、ようやく王立ギルド本部の看板が見えてきた。
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【登場人物】
- レオン: 自称勇者のライバル / 次期勇者候補
【場所】
- 城下町の大通り: 王城からギルドへと続くメインストリート。多くの店が並ぶ。
- 王立ギルド本部: 勇者が「一身上の都合(結婚)」により退職届を出しに行った場所。受付嬢やギルド長を巻き込んでの大騒動が勃発する。
【アイテム・用語】
- 魔法の矢: セシリア王女の命令で騎士団が放った拘束用の魔術。




