第二章「伝説のホームレス市議誕生」
ホームレス歴10時間にして、すでに仲間内のカリスマになった殿様・松平源之助。
今夜も段ボール小屋の前で、空き缶を囲んでの宴会が開かれていた。
「よいか皆の者、この味噌煮込みなるもの、なかなか乙な風味じゃ」
「それ、カップラーメンだよ殿」
すっかり“殿”呼びが定着し、誰も本名の源之助など覚えていない。
そんなある日、タケシが慌てて駆け込んできた。
「殿、大変だ!アキラが警察に連れてかれちまった!」
どうやらホームレス仲間のアキラが、駅前で炊き出しの列に並んでいたところ、職務質問を受けて警察署に連行されたらしい。
「よし、助けに行くぞ!」
源之助は即決。
家来(タケシ、ハルオ、カズオ)を引き連れ、堂々と警察署に乗り込んだ。
「われこそは松平源之助、この者の身柄、引き取りに参った!」
もちろん、警察官ポカン。
「…あの、どちら様ですか?」
「この国の殿様である!」
2秒後に警察署から叩き出される。
「だーかーら、殿!現代じゃ殿様なんておらんの!身分証も住所も職もないのに!」
ところが、その一部始終を見ていたのが、地元の泡沫政党・名古屋希望の風党の市議、鈴木ヒロシだった。
「この男……おもろい!票になる!」
ヒロシはすぐに源之助に声をかける。
「今度うちの党から市議選に出ないか?」
「市議とはなんじゃ」
「まぁ…村の庄屋の大将みたいなもんや」
「ほう、それは面白そうじゃ!」
源之助、0.2秒で立候補を快諾。
【選挙ポスター】
「名古屋に赫き夜明けを!松平源之助 令和の殿様」
着物姿にカツラ、なぜか竹刀持ち。
あまりにインパクトが強すぎて、SNSで大拡散。
「なんだこのホームレスみたいな候補wwww」
「逆に清い」
「俺、殿様に入れるわw」
ネット民の謎の支持を得て、泡沫候補のはずが怒涛の追い上げ。
そしてまさかの、5位当選を果たす。
選挙事務所での開票速報も、地元テレビ局は大盛り上がり。
「まさかのホームレス殿様市議、爆誕です!」
「よきにはからえ!」
喜びの剣舞を披露する源之助。
その夜、段ボールハウスは最高の宴。
タケシ「殿、マジで市議になっちゃったな……」
源之助「次は城じゃ!この“ナゴヤ城”を取り戻す!」
「いやいや、そこ名古屋市役所だから!」
さて、令和に現れた殿様ホームレス市議。
彼の冒険は、まだ始まったばかりだった──。