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4話 出会い

輪は、目の前に広がる天令学園の壮麗な風景に目を奪われていた。都心のビルの受付から一瞬にして転移したこの場所は、まるで夢か映画のセットのようだ。広大な敷地には、ガラスと光でできたような建物が立ち並び、空には星屑のような光が漂う。

地面は滑らかな石畳で、歩くたびに微かな光の波紋が広がる。周囲には、輪と同じように突然現れたらしい受験生たちが、驚きと困惑の表情で立ち尽くしている。皆、輪が握りしめる招待状と同じ、光を放ち終えたものを手にしていた。


「マジで何だよ、ここ…」


輪は独り言をつぶやき、首を振る。胸の奥で高鳴る好奇心と、得体の知れない不安がせめぎ合っている。ラーメン部で遠征した知る人ぞ知るラーメン屋を見つけた時とは比べ物にならない、この異世界のような感覚。

深呼吸して周りを見渡すと、受験生たちは三々五々、広場の中央に向かって歩き始めていた。案内役らしきローブ姿の人物が現れ、静かな声で指示を出す。


「受験生諸君、第一の試験の準備まで、しばし待機せよ。汝らの才覚は、ここで試される。」


その声には、まるで魂に響くような重みがあった。輪は、招待状に書かれていた「並外れた才覚」という言葉を思い出し、眉をひそめる。


「才覚って…俺、ただの高校生だぞ。なんの才覚だよ?」


広場を歩きながら、輪は他の受験生たちを観察する。年齢はバラバラで、制服姿の高校生もいれば、カジュアルな服の大学生らしき人もいる。皆、どこか普通じゃない雰囲気を持っている気がする。輪は、異質な空気に少し気圧されつつも、好奇心が勝っていた。


ふと、広場の端で一人立つ人物に目が留まった。黒髪のすらっとした青年が、静かに空を見上げている。背筋がピンと伸び、黒のジャケットと細身のパンツがまるでオーダーメイドのように似合っている。顔立ちは整いすぎて、まるでアイドルかモデルのようだ。だが、その表情は穏やかで、どこか落ち着いた知性を感じさせる。輪は、なぜか彼に引き寄せられるように近づいた。


「なぁ、すげえ場所だよな、ここ!」

輪の声に、青年はゆっくりと視線を下ろし、軽く微笑む。その笑顔は、まるで初対面の緊張を一瞬で解きほぐすような柔らかさがあった。

「確かに、驚くべき場所だね。はじめまして、僕は黒神悠真。君も僕と同じ受験生かな?」

悠真の声は穏やかで、礼儀正しい。握手を求める仕草すら、どこか優雅だ。輪は少し照れながら、慌てて手を差し出す。


「お、俺は環輪!よろしくな!悠真って、めっちゃカッコいい名前じゃん!」


「はは、ありがとう。環輪、力強い名前だね。いい響きだ。」


悠真は、輪と同じく招待状を受け取ってこの学園に呼ばれた受験生だと説明した。彼は高校3年生で、輪と同じく大学受験を控えているが、天令学園の招待状に惹かれて来たという。


「正直、この学園については何も知らないんだ。だが、招待状の文面に…何か、運命みたいなものを感じてね。」


悠真の言葉には、どこか深い確信が込められている。輪は、悠真の落ち着いた態度に感心しつつ、自分のバタバタした性格との違いを感じた。


「運命かぁ…俺は、なんか詐欺じゃねえかって疑ってたけど、来ちまったよ!でも、悠真みたいな奴と会えたし、悪くねえかもな!」


悠真は軽く笑い、輪の肩を軽く叩く。


「環輪、君のそのノリ、嫌いじゃないよ。試験、楽しみだね。」


悠真と別れ、輪が広場を歩いていると、今度は別の人物に目が留まった。広場の隅のベンチに、白髪の小柄な少女が一人で座っている。白いワンピースに身を包み、膝に手を置いた姿勢は、まるで人形のようだ。白髪は陽光を受けて銀色に輝き、まるでこの学園の異質な空気と共鳴している。だが、彼女の瞳はどこか遠くを見つめ、微かな影を宿している。輪は、なぜか彼女から目が離せなかった。

好奇心に駆られ、輪はベンチに近づき、声をかけた。


「よお、君も受験生?俺、環輪。よろしくな!」


少女はゆっくりと顔を上げ、輪をじっと見つめる。その瞳は、まるで魂の奥まで見透かすような深さを持っていた。


「……白月。よろしく。」


白月の声は小さく、どこか冷たい響きがあった。彼女は、輪のテンションに戸惑ったように視線を逸らし、再び膝に視線を落とす。輪は少し気まずくなりながらも、話を続けようとした。


「白月、めっちゃ綺麗な名前だな!この学園、なんかヤバいよな?俺、さっきビルにいたと思ったら、急にここに飛ばされてさ!」


白月は一瞬、輪の言葉に反応するように眉を動かしたが、すぐに無表情に戻る。


「……そう。ヤバい、ね。」


彼女の言葉は短く、まるでそれ以上踏み込んでほしくないという壁を感じさせた。輪は、彼女の影のある雰囲気に引きつつも、なぜか気になる気持ちが抑えられなかった。白月の視線の先に、微かに揺れる光の粒子が見えた気がして、輪は一瞬、招待状が光った時の感覚を思い出した。


「環輪、って、うるさいね。」


白月がポツリとつぶやく。輪は目を丸くし、思わず笑ってしまう。


「お、おっと!うるさくて悪かったな!でも、白月、なんか面白い奴っぽいな!」


白月は無言で輪をチラリと見るが、その瞳には一瞬、複雑な光が宿った。輪は、彼女の反応に少し手ごたえを感じつつ、ベンチを後にした。


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