汚染
「え、俺がですか?」
突然の申し出に少し戸惑うルシファー。
「そうだ。お前なら大丈夫だろう。無傷とはいえないが。」
ムムム。それは聞き捨てならん。
「いやぁ~~、俺なら悪魔なんてチョチョいのバスターですよ!!」
「なんだそれ。まぁいい。用件を掻い摘んで言うとだな・・・。」
てな訳で天国の少し田舎。
「ふむ。ここら辺に汚らわしい悪魔が潜んでいるのか。」
古ぼけた地図を手に、辺りを見回す。
どこを見ても木、木、木。
要するに森の中。
「さて、小腹が空いたので昼飯にしようっと。」
背負っていたリュックサックからマリアに頼んで作ってもらった弁当を取り出す。
期待して弁当を開けると・・・
「なるほど。マリアさんは料理は得意じゃないみたいだ。」
弁当に入っていたのは、ホットケーキ(的な物)数枚。
どれも中心だけ焦げていて外側が生焼け。
「まぁいいや。中心だけくり貫こう。」
結局、完成したのは薄っぺらいドーナツみたいなのになった。
しかも、食べたら中身焼けてない。
とてもじゃないが食べる気にならないので、弁当を閉じる。
「しょーがない。捜索を続けよう。」
空腹を押さえ、森の中を彷徨い続けた。
「つ、疲れた・・・。」
出発した昨日の夜以来、何も食べてないのでもう限界。
その場に倒れこむルシファー。
ここで少し寝よう、と目を閉じた時だった。
仰向けに寝ていた顔の上を、一本の矢が通り過ぎた。
運よく当たらなかったものの、鼻を掠ってわずかに切り傷ができた。
「いでーーー!!誰だぁこのやろぉ!!」
飛び起きて周りを確認すると、木々の間から黒い羽を生やした生物がぞろぞろ出てきた。
「あ、お前らかぁ。ここは天国だぞ。俺に消されるか地獄に帰るか選べ。」
余裕ぶっこいて発言していると、正面にいた奴が再度矢を放ってきた。
体を反ってギリギリかわすルシファー。
「あっぶねぇなぁ!!よしいいぞ。相手になっちゃる。」
両手に感情の高ぶりを威力に表す白い拳銃を出現させ、左右にぶっ放す。
左右一発ずつ、計二発で両サイドの悪魔のほとんどが消し飛んだ。
少しばかり焦りを見せる悪魔達。
「どぉしたぁ。死ぬ覚悟有りで宣戦布告したんだろ?少しは抗ってみろよ!」
前方に飛び、弓を持っていた悪魔の顔面に回し蹴りを入れて首を吹っ飛ばす。
すると、今度は左右から大量の矢がルシファーめがけて飛んできた。
当たる寸前で空高く舞い上がり回避する。
「ハッハッハ。今のは危なかったぜ。俺も本気で行くよ!!」
空中で銃を構え、引き金を引く。
「天使の号泣!!」
銃口から何万発もの銃弾が地上に放たれ、悪魔達を次々と撃ち抜いた。
カチン、と弾切れを伝える音と共に攻撃を終える。
地上に降りると、ほとんどの悪魔が穴だらけで死んでいた。
「うぇ、グロ~~。」
肉片をまじまじと見つめながら吐き気を感じる。
刹那――――――
飛び散る黒い鮮血。
背後からの生き残った悪魔の不意打ちをギリギリで阻止する。
が、近距離だったため発砲して体に大きな風穴を開けると黒い血がルシファーの左半身に付着した。
「このヤロォ・・・!!」
グショグショに濡れた銃や翼を見て、怒りに震える。
「フハハハハ・・・。俺の返り血を浴びたな・・・。」
不意に地面に寝そべる悪魔が口を開いた。
「白き翼汚れし時、内に秘める悪意と欲望がお前を堕とすだろう・・・。」
何言ってんだこいつ。
「どういう意味だ。」
「フッ・・・自分で考えろ。今に解る・・・。」
どうやら力尽きたようだ。
なんだよ、いいとこで。
「あーあ。自慢の白髪と羽と銃が真っ黒だよ。しかも左半身だけ。」
この時、ルシファーは気づいていなかった。
周りの死体の血の色は、赤色だった事に・・・・・・
悪魔退治を終えて数日経ったある日。
「うぁ・・・あったまイテェ・・・。」
朝から頭痛がひどい。
しかもなぜか体の左側だけにどこか違和感を感じる。
「疼く・・・。血が騒ぐ・・・。体が燃えるように熱い・・・っ。」
ボーっと歩いているといつの間にか天使達の憩いの場の一つ、宮殿近くのの食堂に来ていた。
「あ、ルシファー。おはよ・・・って、どうしたのその羽!?」
一人の天使がルシファーを見て大声で騒ぐ。
「羽って・・・え?」
振り向いて自分の白い翼を見る。
が、目に映ったものはあの日と同じような、漆黒の翼だった。
「な・・・なんで・・・!?」
側に置いてあった水が入った樽を覗き込むと、翼だけでなく白髪も左側だけ黒く染まっていた。
「なんだあれ・・・。」
周りの天使がざわつき始めた。
「ど、どうしよう!!」
ルシファーが振り返ったその先は、なぜか冷たい視線を向ける他の天使達がいた。
「お前、本当にルシファーか?」
目線の中央にいた天使が尋ねてくる。
「あ、当たり前だろ!!俺じゃなかったら誰だよ!!」
その次の返答は、あまりにも冷たいものだった。
「実は悪魔だろ。ルシファーの皮を被った。」
その言葉に、食堂の全員が体制を変えた。
いつでもルシファーに攻撃できるように、前かがみになる。
「ふざけんなよ!!何でそうなんだよ!!」
「ありえない話じゃない。ちょっと前に悪魔を撲滅しに出かけたという話を聞いた。」
「それがなんだよ?」
「だから、その時に実は殺されて皮を剥がれてた。って事だよ。」
なんてこった。
たかが黒い羽一枚で変な誤解を招いている。
「汚らわしい!!消えちまえ!!」
先ほどまで喋っていた天使が剣を片手に飛び掛ってきた。
「うわ!!」
反射的に銃を出して発砲する。
その一撃は、天使を消し飛ばしただけでなく天井に1mほどの巨大な穴を開けるほど強力だった。
「あ・・・。」
そこまで力を入れたつもりは無かったはずだ。
「こ、このやろぉぉぉ!!」
次の瞬間、周りから大勢の天使が襲い掛かってきた。
「ハッ・・・はぁっ・・・!」
ルシファーと天使達の戦いが終わった頃、その場にいるのはルシファーのみだった。
周りは木材やなにやらの残骸が散らかっており、食堂は跡形もなくなっていた。
「なんだよ、この力・・・。」
五十名はいた天使が、開始数分ですべて消し飛んだ。
残っているとすればギリギリ砲撃をかわした腕や足のみだった。
「こんな力があったら・・・。」
自分の力が怖くなった。
その時、
『コノチカラガアレバ、ナニガデキル?』
心の中で誰かが問いかけた。
――――何って、何が・・・
『ナンデモデキルジャナイカ。オソラクオマエハサイキョウダ。カミニダッテナレル。』
――――俺が、神に・・・!
神の住む宮殿正面玄関
「ん?お前は確か・・・ルシファーだったな。何の用だ?」
槍を持った門番の天使が横を向くルシファーに尋ねる。
「大した用じゃないさ。」
次の瞬間、両手に持つ白と黒の銃を撃ち、門番ごと入り口のバリケードをぶっ壊す。
「神を消しに来たんだよ。」