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妻の日めくりカレンダー

作者: たこす
掲載日:2024/12/17

「絶対、毎日めくってね」


 去年の暮れ、病院で入院する妻から日めくりカレンダーを渡された。

 普通の日めくりカレンダーだったけれど、日にちの下には彼女の言葉が添えられていた。



「欲しかった加湿器を買ってくれてありがとう」

「美味しいものをご馳走してくれてありがとう」

「一緒に遊園地に行ってくれてありがとう」



 カレンダーをめくるたびに感謝の言葉が書かれている。



「仕事で失敗した時に慰めてくれてありがとう」

「結婚記念日を覚えててくれてありがとう」



 毎日めくるうちに気が付いた。

 これは、その日にあった出来事が書かれている日めくりカレンダーだ。

 年はバラバラだけどその日にあった出来事が記載されている。

 僕自身忘れていた些細なことまで記載されており、正直驚いた。


「こちらこそありがとうだよ」


 見舞いに行った僕はベッドで眠る妻にそう伝えた。




 やがて。




 妻の症状が悪化するとともに、日めくりカレンダーの言葉が重く感じられた。



「行きたかった猫カフェに連れてってくれてありがとう」

「初めて作ったハンバーグ、美味しいって言ってくれてありがとう」



 カレンダーをめくるたびに涙があふれてくる。

 他愛もない日常の「ありがとう」がこんなにも幸せなものだったなんて。

 妻と過ごした5年間。

 子どもは授からなかったけれど毎日がとても充実していた。

 日めくりカレンダーの言葉がなければ、きっと気づきもしなかっただろう。





 12月に入りいよいよ妻の状態が悪くなった。

 予断を許さない状況の中、僕は妻の言いつけを守り、病室を抜け出して日めくりカレンダーをめくりに帰った。



「手袋を買って来てくれてありがとう」

「ちっちゃな雪だるまをプレゼントしてくれてありがとう」



 カレンダーをめくるたびに妻のありがとうの言葉が消えていく。

 そのたびに心が張り裂けそうだった。




 そして迎えた12月31日。

 妻は旅立った。

 とても安らかな顔をしていた。



 いろいろな手続きをするため、いったん家に帰った僕は今日の分の日めくりカレンダーをめくってなかったことに気づき最後の1枚をめくった。

 するとそこにはこう書かれていた。




「最後まで感謝の言葉を聞いてくれてありがとう。そんなあなたが大好きでした」




 その言葉に僕は膝をついた。

 これが妻が一番言いたかった言葉だったんだ。

 だから毎日カレンダーをめくるように言ったんだ。



 僕は最後のカレンダーを握り締めながらむせび泣いた。



「こちらこそありがとうだよ」



 彼女の声はもう聞こえない──。





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