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妻の日めくりカレンダー

作者: たこす

「絶対、毎日めくってね」


 去年の暮れ、病院で入院する妻から日めくりカレンダーを渡された。

 普通の日めくりカレンダーだったけれど、日にちの下には彼女の言葉が添えられていた。



「欲しかった加湿器を買ってくれてありがとう」

「美味しいものをご馳走してくれてありがとう」

「一緒に遊園地に行ってくれてありがとう」



 カレンダーをめくるたびに感謝の言葉が書かれている。



「仕事で失敗した時に慰めてくれてありがとう」

「結婚記念日を覚えててくれてありがとう」



 毎日めくるうちに気が付いた。

 これは、その日にあった出来事が書かれている日めくりカレンダーだ。

 年はバラバラだけどその日にあった出来事が記載されている。

 僕自身忘れていた些細なことまで記載されており、正直驚いた。


「こちらこそありがとうだよ」


 見舞いに行った僕はベッドで眠る妻にそう伝えた。




 やがて。




 妻の症状が悪化するとともに、日めくりカレンダーの言葉が重く感じられた。



「行きたかった猫カフェに連れてってくれてありがとう」

「初めて作ったハンバーグ、美味しいって言ってくれてありがとう」



 カレンダーをめくるたびに涙があふれてくる。

 他愛もない日常の「ありがとう」がこんなにも幸せなものだったなんて。

 妻と過ごした5年間。

 子どもは授からなかったけれど毎日がとても充実していた。

 日めくりカレンダーの言葉がなければ、きっと気づきもしなかっただろう。





 12月に入りいよいよ妻の状態が悪くなった。

 予断を許さない状況の中、僕は妻の言いつけを守り、病室を抜け出して日めくりカレンダーをめくりに帰った。



「手袋を買って来てくれてありがとう」

「ちっちゃな雪だるまをプレゼントしてくれてありがとう」



 カレンダーをめくるたびに妻のありがとうの言葉が消えていく。

 そのたびに心が張り裂けそうだった。




 そして迎えた12月31日。

 妻は旅立った。

 とても安らかな顔をしていた。



 いろいろな手続きをするため、いったん家に帰った僕は今日の分の日めくりカレンダーをめくってなかったことに気づき最後の1枚をめくった。

 するとそこにはこう書かれていた。




「最後まで感謝の言葉を聞いてくれてありがとう。そんなあなたが大好きでした」




 その言葉に僕は膝をついた。

 これが妻が一番言いたかった言葉だったんだ。

 だから毎日カレンダーをめくるように言ったんだ。



 僕は最後のカレンダーを握り締めながらむせび泣いた。



「こちらこそありがとうだよ」



 彼女の声はもう聞こえない──。





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