26:グレイの弱点
何ですと?
剣の覚えと、北の辺境領に何をしたかを吐けと、そうおっしゃる。
皇帝陛下のお言葉に、ちょっとだけ胸を撫で下ろす。
その二点のみで良いのですね?
ファイナルアンサーで宜しいですね?
他の、あ~なことや、こ~なことも全部かと思って、一瞬血の気が引いたが、剣についてと北の辺境領のコトならば、とぼけるのはお手の物だ。
問題は――――――。
「今夜は、眠れると思うなよ?」というお言葉に対しての、周囲の反応だ。
ドタンバタンと鳴り響く音を鑑みるに、今夜の襲撃のせいで増えた護衛と闇の方々は、10人は超えてますね?
流石に、20人には到達していないようだが、今晩はいつもにまして、言動と行動に気を付けねばならぬようだ。
てか、今って何時だい?
もう疲れたので、とっとと寝ていただく方向で進めるのが良策だ。
ちろりと視線を流してみると、皇帝陛下は俺を見下ろし腕組みーの、胡座かきーの……。
眠る気はなさそうだ。残念。
逆サイドの宰相閣下はいかがでしょうか?
あれ、冷静な顔を保ちながらも顔が赤いですね?先程まで俺を扇ぐのに使っていたタオルで鼻を押さえておられるぞ。
もしや、俺に付き合わせて湯当たりしてしまったのではなかろうか――――。
「―――申し訳ありませんでした。宰相閣下。大丈夫ですか?」
肘を立ててお情け程度に上体を起こし、手を伸ばして宰相閣下の額に触れると、ぼっ!と火が付く音が聞こえる程に、宰相閣下の顔が真っ赤っ赤になった。
おう。結構熱い。
「本当に、すみませんでした。まさか風呂とは思わず――――全員真っ裸でビックリでパニくって、まさか風呂で溺れかけるとは………。温泉に真っ裸以外はマナー違反で当たり前ですよね?男湯ですもんね?」
おんせん?おとこゆ?と首を傾げる皇帝陛下に、こっちも首を傾げる。
ええっと、この世界、温泉なかったっけ?
男湯女湯の差別化もなかったっけか?
「えええ?!あそこってまさかの混浴?!」
「コンヨク。とは一体何なんだ?」
あかん。どっから話せばわかってもらえるか頭が回らない。
あたふたと起き上がると、額の上に乗っていた濡れタオルが落ちて、申し訳程度に引っ掛けていたチンチクリンの浴衣みたいな夜着が左肩から滑り落ちた。
左半身がもろ肌脱いでべらんめい。ではなく………遠山の金さん状態では恥ずかしくなる。
どうしてかって?
お二人の鍛え抜かれた細マッチョなお身体を前にしては、俺の薄い筋肉しかつかない身体なんて、小っ恥ずかしいの一言です。お目汚しにもなりますまい………。
お風呂で拝見してしまった二人のシックスパック腹筋は、あと2年で30歳到達の俺ですら乙女みたいに拝みたくなる程に恰好が良かった。背中も肩も腕も、無駄を削ぎ落とした完全なる騎士体形だなんて、羨ましいやらなんとやらだ。
自分は鍛えてもああはならない。どうしてなのだろうか?
最後にどうでもいい考えに到達し、やれやれと夜着を戻そう布地を肩口に引き上げようとしたら、二本の手で止められてしまった。
「ええっと?」
「「その傷はどうした?」」
皇帝陛下と宰相閣下、同時の問いかけに、半裸でいることも忘れ、グレイは首が折れそうになる位に、首を傾げた。
「傷?」
グレイは、何を問われているか分からずにポカンとするしか無かった。
公にはしていないが、クレアの代役や影武者として戦場には出ていたので、それがバレないためにもケガは論外。戦場で傷を負ったことはない。
医療行為で体を見られでもしたら、性差で一気に替え玉がバレてしまうから、そこは本当に注意をしていた。
ただ、過去に一度だけ。
「ある事」で負った、傷が――――――ある。
魔法治療もうまくいったので一見すると傷跡は残ってはいない、はずだ。
何を指して言っているのか?と、首をひねって半裸状態の左半身に目を向けるグレイに、彼ら二人はグレイを押さえていない空いた方の手をすうっと伸ばしてきた。
左肩甲骨付近から左脇腹に伸びる刀傷らしき傷跡を、二人は指でするりとなぞり滑らす。
「っく、ひゃあ!くすぐったい!!」
色気のいの字もない絶叫を上げて、グレイが飛び上がった。
「………あらゆる意味で、全部、飛んだな」
「ですね………」
くすぐったい!くすぐったい!!とベッドを飛び跳ね座り込むと、グレイは顔を真っ赤にして半べそをかいた。
「俺―――――脇腹、弱いんですよ……。勘弁してください?!」
ベッドの上にばったりと倒れ込んだグレイを囲み、アルベルトとダグラスは大変嬉しそうに満足気に笑った。
「そうか。覚えておく」
「いい情報をありがとうございます」
「こちらの聞きたい情報を『正しく』『真実』を語らないと、どうなるか分かっているな?」
皇帝陛下と、宰相閣下の両手がわきわきしているのが、見なくてもわかった。




