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皇帝陛下のお気に入りは隣国の人質だそうです。ってまさかの俺のことですか?【書籍化】  作者: MINORI


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23:酔拳ならぬ酔剣?

どうやら宰相閣下の策略により、アルコールを摂取させられたようである。



頭と身体が、ふわふわする。



実は、グレイは昔から本当に酒には弱い。

どれくらい弱いかというと―――葡萄を食べたら、顔が、赤くなると言ったらご理解頂けるだろうか?


双子の妹のクレアは同じ遺伝子のくせにウワバミの大酒飲みだというのに、俺はこんなで。

よく、「葡萄を摂取して身体でアルコールに変えてるのか?」なんて馬鹿にされていた。



酒はもとより、洋酒を効かせたデザートでも、酔っ払ってしまう自分である。

紅茶に数滴ブランデーを落とされたら、もうたまったものではない。こんな感じにもなるというものだ。




はい?

どうしてブッ倒れてからの、彼らの会話がわかるか?疑問は良くわかります―――。




数滴の酒で酔っ払う割には、わりかし、意識だけはハッキリしてるんです。内緒ですが。


酔っ払ってブッ倒れると、意識を失っていると思われて、その場の有益な情報を聞くことが出来て、大変重宝している。

………のですが、今日のこの場の、皇帝陛下と宰相閣下の会話は―――――――。正直、逆に意識を失いたい位です。




「――――――いい年した親友を含めての男3人での共寝は、大変イタいです。寵愛ネタで我々がグレイを取り合っているという噂を広げる為にも、今日の所は、私が勝者としてグレイをお連れします。宰相である私と皇帝であるアルが袂を分かったと、明日の朝議で我らの反対勢力が大変盛り上げること請け合いです」

「そんな盛り上がりはいらん。安眠枕を譲れ」

「駄目です。じゃんけん勝負の準優勝は私です、準優勝カードを行使します!今日の安眠枕は私のモノです。あなたは三番手ですからね!私の次までお待ちください!!」


安眠枕って―――まさかの俺の事ですか?

そんなものになった記憶は、ないとも言えないのが悲しい………。


「グレイはブランデー入り紅茶を飲んで、見ての通りグロッキーしてます。彼の念仏講義は今日は聴けないのですから、どうせ入眠は無理でしょ?朝までそこの書類片付けといてくださいねアル。私のノルマは終わってますから」

「切り捨て方が半端ないな!だがな、こいつの体からは()()()()が出てるから、隣で寝ると熟睡出来るんだ!今回は引け!ダグ!!」


俺の体から安眠成分って――――――――――?

そんなもん出てるわけないでショ………。

この二人、睡眠不足の限界も頂点でおかしくなってやがりますね。


宰相閣下の安定した腕の中に身体だけはぐったりと預けてはいるグレイだが、頭の中は彼らへのツッコミで満載だ。

それにしても、自分だって男であり身長だって、宰相閣下には負けるもののソコソコある方だ。だというのにこんなに軽々とお姫様抱っこしたまま口喧嘩とは、宰相閣下は意外と力持ちのようだ。


そんなどうでもいい事を考え始めたグレイだったが、宰相閣下にそろりと大切な宝物を手放すように体を降ろされた。



おう。

背中に感じるこの柔らかな最高級寝具っぽい感じは、明らかに皇帝陛下の寝台だ。


それは、宰相閣下が安眠枕を皇帝陛下に譲ると決めたから?

いや、違う。




―――――――扉の方角から、微かな、血の匂いが香ってくる。




「扉前の近衛。ヤラれましたね―――――」

「―――――かなりの手練れが来たようだ。生きていれば良いが」

二人はこちらに背を向けて、扉の方角を見ているようだ。

声の響きが、こちらに向かってこない。


「ヒューと第一師団が不在の所を狙ったか。甘く見られたものだ」

「我々の寝不足状態も狙われたのでしょうねえ。舐められたものです」

スラリと剣を鞘から抜く音が重なり、続けて、鞘が床のラグに落ちる音が聞こえてきた。


「ダグは、学者を守護しろ」

「あのですね、アル。戦争捕虜を宰相に守らせて、刺客に突っ込んでいく皇帝が何処に居るんですか?ポジションが逆です」

二人が剣を構えた気配がする。




殺気は、扉の前に5つ。

バルコニーの大窓前に、5つ。

天井に、3つ。

―――天井のは、皇帝陛下の護衛の影かもしれないので、この際省いて大丈夫だろう。




かなりの訓練を受けているだろう手練れ10人に対し、皇帝陛下と宰相閣下は一歩も引く気配が感じられない。

今までも、彼らは何度も、こういう事態をくぐり抜けて来たのだろうことが、その「覇気」から良くわかる。



きっと、いつも3人で――――――――。



だが、その3人での防衛最強布陣の要となっていただろう将軍閣下は、今ここに不在だ。

更には、酒でブッ倒れた、足手まといの俺がいる。



うん。確実にお荷物ですね、俺。



流石の息の合わせ方で、刺客全員が同じタイミングで、それぞれの扉を破って皇帝の居所に攻め入ったきた。

剣激の音。

この国のトップとセカンドに斬られた刺客が断末魔の声を上げる。


あ、ヤバい。

狙いは―――俺だ。

近付く刺客の気配に、宰相閣下が息を飲み、皇帝陛下があろうことか俺を守ろうと駆け寄る―――。






あんた、皇帝でショ?

戦争捕虜を守ってどうする気だ?!






ベッドに酔い潰れるグレイに、刺客の手が伸びる。

しかし、それよりも早くグレイは、枕元に潜められているアルベルトの守り刀を流麗に抜刀し―――――――――その勢いのまま、刺客二人の利き腕を一刀両断した。



血飛沫が、グレイと寝具に飛び散った。



ゆらりと片膝を立て居合の型で残りの刺客をツマらなそうに冷たく見つめ、白い肌に飛び散る真っ赤な鮮血を、グレイは左腕で拭った。


「手応えが、足りんなあ~~―――――――――――」


ああああああ。やってしまいました。

剣など握ったことなどありません~~~。で、東の国では通してきたのだが、遂に、不可抗力とはいえ剣を握ってしまいました。

こう見えても、腐っても西の国では武門の軍閥名門であるブラッドフォード将軍家の一応嫡男で、現女将軍の兄です。

物心つく前から望むと望まざると、剣技は体に叩き込まれている。


腕と実力は、ブラッドフォード家を継いだクレアには遠く及ばないのは誰に言われなくとも理解している。

ただねえ自分の生きる学者の世界で剣技のランク付けするならば、世界広しと言えども自分がナンバーワンだという自負はございます。



しかし。

ここで剣が扱えることを明るみに出すのは、まだ時期尚早と思われる。

先日の皇帝陛下の入眠チャレンジの時に、三人には()()()「剣を握った事のない手」として認定して頂いた。


それは()()正しい評価だ。

右手は本を読む為と、文書を書くための手で、その他は通常の生活にしか使わない様に、()()()()している。


グレイの生まれ付きの利き手は、左手。

剣技は片手剣を学び、もちろん()()()()()()()()である。




右手で剣を握れば多少はバレないであろう。多分―――――――――――。




あとは………。

「へへへ。酔っぱらいになると、剣が振りたくなるんですよね~~~」


この場は、酔っぱらいで剣を振り回し、酔っぱらいのため記憶にございません。で、いくか………。

自分の酒の弱さは、西の国でもお墨付きであるから、ひとまず、それで押し通そう!!




今後の対策は全部「酒」のせいにすることにして、グレイは皇宮図書館の蔵書を読破するまで守ると決めた、アルベルトと東の国の皇宮図書館の為に、剣舞でも舞うように右手に握った皇帝の守り刀を残り2名となった刺客に向けた。

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