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皇帝陛下のお気に入りは隣国の人質だそうです。ってまさかの俺のことですか?【書籍化】  作者: MINORI


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19:将軍閣下はお怒りです

「いやあ、本当に別嬪さんだ。団長なんてやめて、俺なんてどうっすか?」

「別嬪さん?」

珍獣がぐるりと周囲を見回す。

『別嬪』という言葉が自分を指しているなんて思いもしていない顔だ。


「いやいや!俺と!俺とがいいですよね?!」

「どちら様ですか?」

小首をかしげる可憐な姿にむくつけき男共の「おおお!」という、どよめきが広がる。

あいつら全員明日の演習で締めるしかあるまい。


「引っ込んでろ!美人が見えない!!」

「視力大丈夫ですか?」

頭を撫でられた第一小隊隊長の顔が真っ赤に茹で上がる。

「ああああ!、いーなー!いーなー!!俺も!俺も撫でて下さい!!」

「はいはい。これでよいですか?」

「「「おおおおおおおお!!」」」

―――――――――我慢の限界が来た。




「お前ら煩い!!いいから散れ!!こいつは俺のだ!!」




珍獣に群がり離れようとしない無骨な騎士連中を、追い払いなぎ倒し、やっとの思いで扉に鍵を掛け振り返った。


「お前もなあ!煽るな!!アイツ等は女っ気無さ過ぎて美人に飢えてるんだ!危ないにも程がある?!」

「可愛いものじゃないですか?あのくらいの年代で、男所帯とくれば、わからんでもないですよ。別嬪だの美人だのは、意味がわかりませんがね」


いや、逆だろう?

美人は目の前にいるし、普通はアイツラの突撃に引くものではないか?


「もういい!お前に理解を望んでも無駄なのは良くわかった。寝るぞ!!」

「ええええっと、将軍閣下?」

「ヒューだ!!」

「では僭越ながら、ヒュー」


珍獣が始めて愛称で呼んでくれたことが、なにやら嬉しい。

耳が熱を持つのをヒューバートは自分でわかり、振り返ることが出来ない。


「あれ、借りていいですか?」


照れたような可愛らしい声に、少々ドギマギしながら振り返った先には、書棚の「兵法書」を指差した珍獣が、キラキラした目をこちらに向けていた。


お前は本当にブレないな……。

ちょっとでもドキドキして損した。とヒューバートの心は一気に平穏に戻った。



・・・



ヒューバートがひとっ風呂浴びてベッドに上がり込んでも、珍獣は顔も上げずに積み上げた兵法書を熟読していた。

「俺にはそれは置物としか思えなかったが、そんなに面白いのか?」

「大変興味をそそる内容です」


ごろりと体を横たえ腕枕で珍獣を見上げると、夜闇の様な黒い瞳がヒューバートに向けられた。

真っ黒の瞳の中にちらちらと光が見えて、綺麗だな。と思った。


「敵を知り己を知れば百戦してあやうからず――――孫氏の兵法名言とこの世界で巡り合うなんて思いもよらなかった」

「――――お前の目、星屑が散ってるみたいにキラキラだ」

「はい?」


マズい。

頭の中で考えていたことが口から出てしまったようだ。


「いや。なんでも―――ない。そんしって?なんだ」

「ああ、俺が前に生きた世界で、古代に戦争の記録を分析・研究した偉人で」


前に生きた世界。

ああ、そういえば、珍獣は前世を完全に覚えていて、その前世とやらは自分達が生きるこの世界ではない、異世界だったとかなんとか。


「前に生きた世界って、本当にマジなのか?」

「マジです。前の世界は30歳まで生きたんで、今の人生と足すと、精神年齢は58歳です」

「58?!じじーじゃないか!!」

「じじーですとも」

誰よりも綺麗な顔をした中身は58歳だというじじいが笑う。



我知らず見惚れてしまう。



これは、アルベルトが惚れた、西の国の女将軍の双子の()

アルベルトの惚れた相手では、ない。


てか、自分は一体何を考えているのだ?

眠気がマックスなのだろうか。

このところは演習続きで、珍獣を抱き枕にすることが出来なった事を思い出し、よくわからない考えは頭の隅に追いやった。


ひとまず夜も更けたし寝た方が良さそうだ。


「じゃあ、じじー。寝るぞ」

ぽんぽん枕を叩くと、少々眉を寄せた珍獣じじいが本を抱き締めてジト目を向けてくる。


何だそれ、可愛いな。

止めてくれよ。

俺は道を踏み外したくはないぞ。


「この兵法書、借りても良いですか?」


そんなこったろうと思ったよ。

まったくブレない男だな。


「―――――明日、全巻図書館に届けさせる」

「おお!ありがとうございます!ヒュー!!」


がばっ!と抱き着いてきた珍獣の柔らかな香りが鼻先を抜けていく。

くらりと酩酊するような感覚に眩暈すら感じ目を瞑る。


そんなこちらの様子など意に介さず、珍獣はついでとばかりに、この俺の頭を撫でてきやがった。


気持ちがいい。

なんだろう、この心地よさは?

意識がどんどん遠のいていく。


アルベルト程ではないとしても、自分とてそう簡単に眠れるタイプではなく、ここ数年の国起こしの為に夜に抱かれて何の心配もなく眠ることなど、出来はしなかったというのに。


もう、遠い過去となる記憶の彼方。

―――母の胸に抱かれて眠った幼い頃の温かさ。




「――――かあ…さん」

「ええ?オカンはそっちでしょう?」




台無しだ。

珍獣よ………。




ちょっとだけ良い気分だったというのに、こいつは本当に空気が読めない。

アルベルトもよくぶつぶつ言っているが、その意味がよ~~~く分かった。


あのなあ。お前が大変に感動した執務室の世界地図だがな。

今の世代で書き足しに情熱を注いでいるのは、他ならぬ俺だぞ?

友達になりたいとか、大好きになるとか――――言ってたが、絶対名乗ってやらん。




「ヒュー?え、もう寝落ちか……早いなあ」




狸寝入りだよ。と思いながらも、気付けばヒューバートはグレイの香りに包まれて穏やかな寝息をたてはじめていた。

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