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1:プロローグ

「夜伽」と聞いて、何を思い浮かべますか?


大人の夜の妖しいあれやこれや。と取る方が多いのではないでしょうか。

ですが、実は「夜伽」には3つの意味があり、それぞれにちがった意味があるのをご存じでしょうか?


①「一晩中寝ずにそばに付き添うこと、夜通し病人に付き添うこと、またそれをする人」

②「女が男に従って共寝すること、枕の寝床にはべること」

③「死者のそばで夜通し寝ないで守ること、通夜」


3つに共通することは「夜通し付き合うこと」です。

さて、わたくしグレイ・ブラッドフォードが通常業務で行っている「夜伽」はどれに該当するでしょうか?




「レイ。何をしている、早く来い」




東の大国バルナバーシュの銀狼王と名高い若き皇帝アルベルト・ミリアン・バルナバーシュが、天蓋付きのでっかいキングベッドに片肘をたて寝ころび、もう片方の手で枕をぽんぽん叩いて招いてくる。

銀糸の髪に白磁の肌、瑠璃の瞳を持つ、神が作りたもうた至高の彫像。

御年23歳になられるアルベルト様は、最近、ひとり寝が出来ないと巷で噂になっているが、そんなことにはまったく興味がないそうです。


「陛下、俺の名はグレイです」

共に過ごす短くない期間で何度言い換えても直らない名を最後の一回の気持ちで伝えて、グレイやれやれと鼻先を超えるまでに伸びた黒い前髪をかきあげながら、ベットサイドに歩み寄った。


「陛下って呼ぶな。アルだ」

グレイの名前を「レイ」という勝手につけた愛称呼びにするアルベルトは、自分のことも「アル」呼びにすることを強要する。

ベッドから見上げてくるキツイ瑠璃色の瞳に、グレイは従うほかに選択肢はない。何といっても目の前のこの方は、東の大国を実力で治める、皇帝陛下その人であるのだから。


「―――アル様。」

「様もいらん」


こればっかりは、そういうわけにはいきません。

なにせ、自分は先の大戦で東の大国に負けた西の国バルトサールからやってきた、戦争捕虜の「人質」なのですから。


こちらの考えを読んだのか?

キツイ目に眉まで寄せて、アルベルトはぐいっとグレイの手を引いた。

「わっと」

急に引っ張られた反動でバランスを崩しベッドに膝から乗り上げてしまう。


もはやこれまで。

もうちょっと皇宮図書館から借りてきた本を読みたかったのだが、今日はもう無理と諦める。


グレイは、若い皇帝の枕元にのそのそと上がり込み胡坐を組んだ。

「アルベルト・ミリアン・バルナバーシュ皇帝陛下。今日のご所望は?」

わざとフルネーム敬称付きで呼んでやると、アルベルトが面白そうに目を細めて見上げてきた。

「昨日のは、なかなかに良かった。続きを頼む」

ついっと伸ばしてきたアルベルトの右手が、グレイの前髪をつまみさらりと指を通した。






「では、相対論的量子力学の素粒子錯乱のつづきをお話します。―――基礎方程式はクライン-ゴルドン方程式で、素粒子散乱などの多粒子系高エネルギー物理を扱う際は、粒子をさらに場の概念に拡張した場の量子論が使われる。あつかう粒子の速度が光速に比べて―――」






「―――もう眠れそうだ」






最初の問題の答え合わせをします。

問題は、わたくしグレイ・ブラッドフォードが通常業務で行っている「夜伽」はどれに該当するでしょうか?でしたね。

答えは、①「一晩中寝ずにそばに付き添うこと、夜通し病人に付き添うこと、またそれをする人」デス。


戦争捕虜で人質の自分の現在進行形の通常業務は、対外的には「夜伽」。

詳細を解説すると「睡眠障害で自力では眠ることが出来ない皇帝陛下の閨で、得体のしれない話を一晩中続けて、飽きさせて眠らせる」睡眠導入剤変わり。が本業となります。




さて、どうしてこんな事になったのか?

自分でも神様にお尋ねしたいところではありますが、これから事のくだりをお話していきたいと思います。

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