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皇帝陛下のお気に入りは隣国の人質だそうです。ってまさかの俺のことですか?【書籍化】  作者: MINORI


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19/28

18:今日の当番は将軍閣下だそうです

将軍閣下の私室への入室は初めてで、物珍しさから室内をつい物色してしまった。



「随分と挙動不審だな。別に取って食いはせんぞ」



この国の三英傑と言われる皇帝陛下、宰相閣下、将軍閣下による、壮絶なじゃんけん勝負で、流石の勝負強さを見せた将軍閣下が、「寵愛当番」の一番手となられたのは、緊急四者会談後の夕食の席でのことだった。


まさか、「あいこ」が10数分続くとは、思いませんでした。

貴方がたの気の合い方は、想像を絶します。


「取って食われるとは思ってもおりませんが、将軍閣下のこの部屋は、大変興味深いです」

グレイは正直に感想を述べて、キラキラした目でぐるりと室内を見渡した。


ヒューバートの皇宮内の私室は騎士塔の一角にあった。

指揮室と続き部屋になっており、内部は執務室と寝室の2部屋に分かれている。

指揮室は文字通りの軍部の中枢機関であり、ゆっくり見せて貰うことは出来ず通過するのみであったが、特出すべきは執務室だ。


軍部らしく無骨で重厚な調度品は立派なものだったが、それよりも目を引くのは壁一面の本棚で、恐らくは兵法書だろう多くの書物がびっしりと整然と並べられている。

見たこともない背表紙に、グレイの読書欲が掻き立てられるが、それよりも興味を引くものがあった。



大きな執務机の背後の壁一面の詳細な世界地図だ。



「こんな詳細で立派な世界地図。初めて見た」

瞬きも出来ない。

前世の世界地図並みの精巧さと美しさを持つそれに、グレイは引き込まれて見惚れた。


「流石、東の大国。としかいえませんね。西ではこんな立派な地図は見たこともない」

「あ―――これは………うちの家門とダグの家門の共同の趣味みたいなもんだ。代々どっちかの家門にこれに情熱を掛ける者がたまに出て、継ぎ足し継ぎ足しで、こうなったんだと、伝え聞いている」


何故かバツが悪そうに頭をガシガシかいてヒューバートがぽつりと呟く。


「軍閥の家門が何やってるかって、良く言われるが―――自分の足で世界を歩いて、地図を書き足すのが、楽しい―――者がたまに、出る、らしい」

「素晴らしい―――っです。同じ時代に生きることが出来たら、絶対友達になりたかった!」

「は?」

グレイはヒューバートの振り返ると満面の笑顔を向けて言い切る。


「いいえ!絶対に友達になるし、絶対に大好きになる!!」

光輝く真夏の陽射しみたいなグレイの眼差しに、ヒューバートが眩し下に目を細めた。


「そ、そうか……?」

「はい!!凄いな~感動するな。一緒に話をしたかったなあ」

再度地図に体を戻し、一心に地図を見つめたグレイはその時気付かなかった。

ヒューバートの頬が少々赤くなっていた事に―――。



そんなこんなで、初めてのお部屋訪問は和やかに進んでいたというのに、将軍閣下の一言で空気が一変する。



「―――で、そろそろ寝るか。ってか、いつもはアルの側近部屋に連れ込んで寝てたから、俺の部屋だとなんか変な感じだな」

おまけにさっきまで「溺愛」だの「寵愛」だの大騒ぎしてきたから、なんとも言えない妖しい空気感があると、そうおっしゃいたいのですね?


わかります。

いつもは勢いで寝台に引っ張り込まれて、気付いたら寝落ちしてるので、こんな変な感じにはならないですもんね。


というか、いつも連れ込まれて寝るのもどうかとは思っていましたが。


「酒でも飲むか?」

「酒が入ってどうにかなるのは嫌なので、遠慮します」

酒で前後不覚になり、そういう関係になったという人間を前世でも今世でも見てきているので、それだけは避けたいグレイである。


ましてや我々は男同士である。

そういうことは人それぞれだし、今世の世界では珍しくもないらしいので、同性同士の恋情を否定することはないが、今も昔も自分にはその(へき)はない。と思っております。


「酒が入ってどうにかなった事があるのか、お前?」

怪訝な顔をする将軍閣下に力強く首を振ってお答えする。

「あるわけないでしょ?俺は酒飲んだら即刻寝落ちです!将軍閣下はあるんですか?まさかの誰でも良い派ですか?」

「なんだ、誰でも良い派って?失礼だなあ」

破顔一笑で男くさい笑顔で大笑いして、将軍閣下が予想外の一言を向けてきた。


「もう将軍閣下呼びはいらん。ヒューでいい」

「はい?」


ここにきて初めて見る、将軍閣下ーヒューバートーの穏やかなその顔に、何とはなしにグレイは見とれてしまう。



「俺は、意外とお前を気に入っている。だからいつまでも肩書で呼ばれているのは、なんだかな―――」



ヒューバートが若干の照れを滲ませた、その時だった。

指揮室からの扉がガタガタと揺れたかと思うと、ものすごい勢いでドアが開き、騎士達が雪崩れ込んできた。


「だから押すなと?!」

「団長が、美人を連れ込んでるって本当じゃん!!」

「美人!本当に美人だぞ!!」

「ああああああ―――騎士団長?!これはですね!!」

「っ酒持ってきました!!飲みましょう!!団長!!月下美人殿も是非!!」


騎士団長に月下美人?

この部屋には、ヒューバートと自分しかいないというのに。一体誰を指しているのだろうか。


グレイは室内を見回して首を捻りながら、ぎゃーぎゃー騒ぎ立てる騎士達を見下ろし頭を抱えるヒューバートを振り返った。


「騎士団長?将軍閣下ではないのですか?」

「俺は兼務だ―――すまん………男所帯は美人に目がなくてだな」

「美人?それに、月下美人って一体なんなんだ?」

どこにそんなのか居るのか。ときょろきょろ辺りを見回すグレイの肩を、ヒューバートががしっと両腕で掴んだ。



「お前は本当に―――自覚が足りない」



一体何のことでしょうか?

随分な言われようである。

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