13:グレイの幸せな楽園
なんだろうか。
最近、東の国のトップ3が、どこぞのオカンのようになってきています。
皇帝陛下は「ボタンの掛け違い」を理由に身なりを気を付けろと日々注意をくださるし。
宰相閣下は「きちんと食事はとりなさい」と片手でも食べれる食事と飲み物を持ってきてくれる。
将軍閣下は「風呂には入ったか歯は磨いたか」と日に一度は様子を見に来るし。
毎日の読書時間を邪魔されて、多少のうっとおしさはあるものの、良い人たちでは、ある。と、思うように最近しています。
日を置かず、同じ寝台で何でか抱きしめられて眠っていれば、正直少々の情も移るし、いつも険のある顔つきをしている割に、寝顔は案外幼くてかわいい。
ただ問題なのが、睡眠障害の皇帝陛下の抱き枕として一緒に寝るのはしぶしぶ理解はできましたが、皇帝陛下のお呼びがかからない時を狙って、将軍閣下と宰相閣下からも共寝のお誘いを受けるのはどういったことなのでしょうか?
疲れが取れる?
夢も見ないで爆睡できる?
―――ソウデスカ。お力になれて良かったです。ははは。
世の理全てにおいての不感症。とよく言われる自分に何故かのこの状況。
まあいいか。とそれ以上は考えない。
好意にも敵意にも、自分にかかる殺意にも何もかにもに対し、グレイは全く構うことはない。
正直どうでも良いからだ。
生まれた時から自我があるグレイにとり、自分に向けられる人の感情を読むことは造作もない。
幼い頃は周囲の大人の真意を読み取り、自分優位に望みの方向に物事が進むように、言動と行動を調整し周りを動かしてきたが、今はもうそんなことは止めた。
他でもない、自分という存在の危うさに気付いたからだ。
生まれ育った西の国をとれ。と言われれば、知力と策略のみで掌握出来る算段はある。
西の国と東の国との戦争も、終息しろと言われれば止める計略は頭にあった。
それをしなかったのは、誰にも求められなかったことが理由ではあるが、一番の理由ではない。
一番の理由は、自分がこの世界の危険分子だと、グレイが考えているからだ。
前世の記憶と知力を持ち、この世界の理を簡単に変えてしまうことが出来る頭脳を持って生まれてしまった自分が、この世界の未来に関与することは危険だ。とグレイは自分を律した。
自分は世界の傍観者でなければいけない。
そのグレイの生き方が、世捨て人のような風体と風貌と印象をもたらし、彼の周囲に人が寄ることを長い間拒んできた。
グレイが傍に置けるのは、生まれてこの方、クレア以外には居なかった。
共にこの世に生を受け、赤ん坊の時より成長を見守り続けた双子の妹クレアは、前世からの記憶を繫ぐグレイにとっては妹というより、我が娘。といった感覚に近い。
自分が世界に係るのは、クレアの生死に関わる時のみ。
そう考えて生きてきたのだが、ここにきて、少々状況が変わってきた。
この世界のことを、色々考えて今まで生きてきたものの、「この楽園」に至り、その考えを少々変更しなければいけない。とグレイは自分の生き方の修正を検討し始めていた。
だって、本が沢山あるのですよ皆さん。
それも、未読本がわんさかと。
世界の理もなにも、最早関係ございません。
この目の前の蔵書群を全て読まずして、死ぬことなど出来はしない。
東の国の皇宮図書館を住みかと定めたグレイは、ここにあるすべての本を読むために、この世に生をうけてから28年間貫いてきた世界の傍観者である自分のポジションを捨てることにした。
正直に言おう。自分の欲望に勝てませんでした。どうもすみません。
28年のポリシーを瞬時に捨てる理由が、本。
クレアが聞いたら笑ってくれるに違いない。
彼女はいつも、それを望んでくれたから。
さて。この楽園を守る為には、行動を起こさなければいけないようだ。
年下オカン3人衆は聡くとも、まだ若い。
直接の悪意には敏感でも、真綿でゆっくりと締められるようなじりじりとした計略に対しては絶対的に経験値が足りない。
自分は決して表に出ず、水面下で彼らの脅威を取り除く。
さすれば、皇帝陛下の安眠は保証され、自分の首も繋がり、イコール、ここに住み着いて本が読み放題!!
「よし!それでいこう!!」
「「―――それとは?」」
拳を握り締め立ち上がったグレイの前に、ダグラスとヒューバートが怪訝な顔をして立っていた。
「ええっと、明日読み込み予定の、本の順番を決めていました」
適当にそれらしい返答をすると2人は簡単に納得し頷いてくれた。
グレイのいつもがいつもなので、読書目的の言動は華麗にスルーしてくれるので、大変助かります。
「お前は本当に、本があれば生きていけるんだなあ」
「ええ。逆に本が無いと死にますね。俺のエネルギー源なので。それはそうと、こんな時間にお二人でいらっしゃるのは珍しいですね」
将軍閣下に言葉を返し、宰相閣下に視線を流す。
二人の気配はいつもと同じ。のように見えて、少々の剣呑さがあった。
二人がここを訪れるのは最早日常茶飯事ではあるが、二人一緒というのはなかなかにレアケースだ。
それに、その目。
いつものリラックスした目ではない。
獲物を見つけた、鷹の目に、似ています。
ああ。
やはりこの人達は、人間としての出来がいい。
俺が懸案していることに、気付いたか?
裏から手を回し、この楽園を守ろうとしたが、要らぬ気遣いだったようだ。
良かった。俺が動かなくても、楽園は守られる!
心の中でガッツポーズしたのだが、それこそが、グレイの間違いだった。
「グレイ。今晩アルは第五回入眠チャレンジですので、私と寝ましょう」
「いや。俺と寝よう」
「ヒュー!あなたは、アルの護衛に行きなさい!」
「ずっこいぞお前!お前は入眠チャレンジの検証に付かなくていいのか?」
ええと。どっから突っ込んだらいいかな?




