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間章.はじめての焦燥



****



トイレに向かう2人の背中を眺めながら、

(真澄 純)は、考え事をしていた。



さっきから、ずっとイライラが止まらへん。


ただの幼馴染のくせに、

身勝手な独占欲丸出しで邪魔してくるし、

すぐケンカ売ってくるし。

あんな自慢げに言うてこんでも、靴のサイズなんて、知らんくて当然やろ。

ほんでトイレも1人で行けへんのかいな。


ああもう、ほんま腹立つ……


「純くん、顔コワ」


急に声がしたので顔を上げると、

おもちゃを見つけた子供のような表情の笠井先輩が。


一瞬、人がおること忘れとったから、

ビクッとしてしもた。



「あははっ。ねえ、

栞のこと好きなんでしょ?」


「し!?えっ、す…!な、なななな、な……なんでっ……」


「てか、隠してるつもりないよね?バレバレだよ」


「ば、バレバレ…!?」


「ああ。大丈夫大丈夫、

当の栞はまっっっっったく、気づいてないから」


安堵したと同時に、

「まったく」の重みに肩が沈む。



「で?転校してきてすぐなのに、なんで栞なの?」


「それは……その………」


「え、まさか。一目惚れ?」


「……………」


俺は、笠井先輩のギラッギラした目を見続けれんくなり、顔を背けた。

言葉は出ん代わりに、汗が流れはじめる。



「そうだったんだぁ。一目惚れね。栞、可愛いもんねぇ。納得納得」


……無言の肯定、と捉えられてしまったようや。

実際そうやけど。



「でも、高校生の間は、何にもならないと思うよ?いいの?」



以前にも直接言われた。「校則を守りたい」って。

やっぱりアレは、俺への牽制とか、口実とかやなくて、

栞さんの純粋な気持ちなんや。



「ええもなにも…

別に、どうこうなりたいってワケちゃうんです。いや、確かに今よりは仲良くなりたいですけど…」


「…ン?付き合いたくはないってこと?」



「つ、付き合うとか…あんま、ようわからんので…。ただ、もっと近くにいて、笑顔を見てたいな、とか。

ちょっとでも俺のこと見て、考えてくれたらええなとか。それくらいで……」


「ふーん。じゃあ、栞が流星くんと、コイビトになっちゃってもいーの?」


「それは絶対イヤです。なんかイヤです」



思ったより強く否定してもうた。

笠井先輩に声をあげて笑われる。



「純くんが卒業するまでだから…

少なくとも、あと……いち、に…、2年半か。長いねぇ。それに…流星くんは手強いよ。

純くんモテそうだし、他行った方がいいんじゃないの?」


「他て……。そんな器用にコントロールできるんなら苦労せん…です。

俺、今もう、なんでかわからんけど、栞さん以外の人のこと、考えられへん…の……で……」



あかん。言うてたら恥ずかしなってきた。

俺は何をペラペラと喋ってんねや。



「あはっ、純くん顔真っ赤!

うんうん。思ってたけど、やっぱ、そういう不器用なとこ、栞とお似合いだと思う!

がんばれ少年〜っ」


応援されてしもた。



言われてみれば。

栞さんが好きなんは確かやけど、

どうなりたいとかは、まだ考えたことなかった。


2年半、俺はきっと待ち続ける自信はある…。

やけど、その先は?将来の確証はない。



いつか諦めるときがくるんやろか。

頭から、栞さんの笑顔が離れん今は、想像もつかへんけどな…。


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